第1063話 倒したワイバーンの調査が完了



「俺がワイバーンを倒した事で、警戒させてしまったのかもしれません。なんというか……これまで少しずつでもわかって来ていた事が、全く進まなくなった感覚と言えばいいのか……」

「何かを狙っている者がいると仮定して、ワイバーンを倒した事で刺激。警戒させてしまった……のかもしれんな」


 なんとなくなんだけど、何者かの意思が動いていると考えた時に、その何者かを頑なにさせてしまったような感覚がある。

 これまで、少しずつでも情報が得られていたのがここに来て、ほとんど進まなくなった事によって、そんな錯覚に襲われているのかもしれないけど。


「なんにせよ、対処をしつつ調査を進めるしかない。駐屯させている兵士達も、交代しながらではあるが対処させている」

「ありがとうございます」

「なに、街を守るためだからな。それに、兵士達には良い訓練になる。ユノ殿から教えてもらった、次善の一手もそれなりに仕えているようだしな」


 センテの南で増えていた魔物……それが今では北や東にも、数が増えている。

 南でも、以前よりもほんの少し増えたような気配があるし……毎日討伐しているのに拘わらず、だ。

 冒険者だけでは手が足りないので、シュットラウルさんが訓練がてらセンテに来させた兵士さん達にも、手伝わせている現状。

 まぁ、次善の一手の訓練や、対魔物戦の訓練にもなるので丁度いいらしいけど……あまり強い魔物がいないから何かを試すのにもいいんだろう。


 そうしてあまり話が進まないまま、食事と報告の会が終わる。

 最近は、大体こんな感じで動きがない事に焦れつつも、やれる事を話し合うくらいになっていた――。



「リク様! リク様!」

「カイツさん?」

「カイツ、ちょっと落ち着きなさい! リク丁度良かったわ」

「フィリーナも。どうしたの?」


 翌日、用があったので調査前に冒険者ギルドに行った際、建物に入ってすぐカイツさんに呼ばれた。

 一緒にフィリーナもいて、興奮して俺の名を叫ぶカイツさんを諫めているようだけど、どうしたんだろう……?

 ちなみにカイツさんは、宿を俺達の泊まっている所へ移して、色々報告をしてくれたりしていたんだけど、ほとんど冒険者ギルドに泊まり込んでいる。

 ワイバーンの調査に没頭しているんだろう……徹夜続きとかで体を壊さないか心配だけど、そこはギルドの職員さんや、フィリーナが見てくれているのでなんとかなっているようだ。


 フィリーナも、農地のハウス化や何かしらの報告がない時はカイツさんと協力して、冒険者ギルドにいる事が多い。

 こっちもちょっと心配なんだけど、フィリーナは魔法講義をしたりもするし、研究に没頭して寝食を忘れるタイプでもないようなので大丈夫そうではある。

 そんなカイツさんとフィリーナが、俺を呼んでいるという事は……ワイバーンに関する事かな?。


「ワイバーンの調査、研究がついに完成したんです! 驚くべき発見の連続でした!」

「えーっと……」


 俺に詰め寄るようにしながら、カイツさんが興奮状態で言い募る。

 研究の完成って、調査をお願いしてはいたけど……カイツさんにとっては、研究していたのとそう変わらない感覚だったのかもしれない。


「だから落ち着きなさいカイツ。興奮するのはわからなくもないけど……。それと、研究の完成じゃなく、調査の終了でしょ。――リク、とにかく落ち着ける場所で話しましょう。」

「う、うん。わかった」


 興奮していて埒が明かないカイツさんを押し留め、フィリーナが俺達を冒険者ギルドの奥へ促す。

 ギルドマスターの計らいで、俺達は自由に冒険者ギルドの会議室とかを使わせてもらえるようになっているから。

 周囲に聞かれず、落ち着いて話ができるからね……時折職員さんがお茶を淹れてくれたりもする。

 ただ、さすがにギルド側で会議をするために使っている時は、俺達も使えないのは当然だけど、フィリーナ促したって事は、今は使っていいって事だろうね。


 一緒に来ていたモニカさんやソフィー、ユノやフィネさんには引き続き魔物の討伐ついでの調査をお願いし、俺はフィリーナに案内されるまま奥へと向かった。

 エルサは相変わらずのんきに、俺の頭にくっ付いて寝ている……キューの夢でも見ているんだろうか?



「さて……早く色々話したくてカイツが落ち着かないから、早速本題に入るわね。あぁ、カイツはおとなしくしていて、私が話すから」

「くっ……私にも話させてくれフィリーナ!」

「駄目よ。カイツだったら興奮して話が逸れてしまいかねないわ。だから、私が話すの」

「……自分が高揚感に包まれているのは、自覚しているから何も言い返せないな。だが、間違っていたら、口を挟ませてもらうぞ!」

「まぁ、それくらいならね。……一緒に調査して見ていたのに、間違う事はないでしょうけど」

「ははは……」


 広めの会議室に来て、フィリーナが仕切り始める。

 カイツさんも話したいようだけど、確かに興奮している今の状態だと要領を得ない可能性もあるので、冷静なフィリーナが話す方がいいのかもしれない。

 いや、熱量みたいなのは伝わって来るんだけどね?

 とはいえ、変に突っ込むと話が逸れそうだったので、苦笑しつつおとなしく職員さんが淹れてくれたお茶を飲んで、話しが始まるのを待った。


「んん! それじゃ話すわね」

「……」


 咳払いをし、テーブルを挟んで向かい側にいるフィリーナが話し始める。

 隣にいるカイツさんは、少し不服そうな表情。

 どうでもいいけど、美形のエルフ男女と改まって向かい合っていると、なんというかちょっと圧倒されてしまうね。

 アルネとフィリーナのエルフ兄妹と、よく話をしているから慣れてはいるけど。


「ワイバーンの再生能力、あれは確実に後から追加された能力ね」

「追加された……」

「おそらく、ブハギムノングの時と同じだと思うわ。エクスブロジオンオーガの研究資料は私も見たけど……あれと同じように、核から復元する際に能力を付与したのでしょうね。後からとは言ったけど、ワイバーンという種族に追加した能力という意味でよ」


 エクスブロジオンオーガの研究が、ワイバーンに活かされたってわけか……。


「リクの話によると、エクスブロジオンオーガは爆発力を強化されていた……だったかしら?」

「そうだね。あと、倒したら強制的に爆発するようにもなっていた」


 今考えると、かなりエグイ能力付与だよね。

 エクスブロジオンオーガ自体は、元々自爆するみたいに爆発するけど、あくまでそれは意思によるものだった……自爆へ意識を向ける前に倒せば、爆発しない。

 けど、研究で作られた……復元された赤いエクスブロジオンオーガは、意思とか関係なく致命的な傷を受けたりすると、自動的に爆発する。

 全身氷漬けのように、魔力の流れすら完全に止めた状態以外では確実に爆発するし、氷が融けたら結局爆発する……もはや戦う爆弾だ。


 あれを鉱山内で研究していたモリーツさんは、最終的に人間にも爆発能力を付与させようと考えていたのだから、恐ろしい。

 人間爆弾なんて、絶対に実現させちゃいけない……研究している場所を発見、潰せて良かったと今更ながらに思った――。



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