第1052話 狙うは翼
モニカさんとソフィーによって、俺がワイバーンに向かう事が決められてしまった。
まぁ、確かにワイバーンは王城でも戦ったし何とでもなると思う……空を飛ばれたとしても、エルサがいるのも大きいか。
「私もやるのー」
「そうね、それじゃユノちゃんとリクさんに任せましょう」
「ワイバーン相手か……それなら、この剣は使えないね」
手を挙げて主張するユノ。
モニカさんが頷いて、ワイバーンは俺とユノがやる事に決まった……ユノなら大丈夫そうだ。
他の魔物は皆に任せるとして、さすがに硬いワイバーンの皮が相手だと考えたら、ボロボロの剣ではちょっと心許ないので、黒の剣を使う事にする。
……前回も黒の剣で戦ったから、ワイバーンが硬い印象が一切ないんだけど、エルサやユノのリュックを見るに、通常の剣が簡単に通る物じゃないのは知っている。
他で使われている、動物などの革と同じように柔軟なのに、金属の刃を通さない硬さを持っているのは、不思議だなぁ。
「あれか……」
「そうだね。えっと、中心に近い部分にワイバーンが二体。木々の端の方に魔物が散らばっている感じかな。多分、中央に寄っていないのは、ワイバーンから逃げているんだと思う」
「リクの話を聞いていたら、ワイバーンが獲物を捕食しているようだからな。一部の魔物が食事に夢中になっている隙に逃げたのだろう」
はっきりと林が見えるくらいの位置まで来て、移動中は使っていなかった探知魔法を改めて発動させて探る。
暗いのもあって外側から林の内部は見えないけど、これだけ近いと魔力反応がはっきりとわかる。
相変わらず、範囲が広すぎて余計な情報が入って来るけど、林に向かって意識を集中させればいいだけだ。
「さっきも言った通り、ゴブリンやウルフ、オークがいるみたい。多分、ウルフはフォレストウルフだね。センテの南にいたのとは違って、木々の合間を縫うのが得意そうだ。数が多いみたいだから、気を付けて」
「わかった。フォレストウルフは、ヘルサルとの間にある森で戦って以来か」
「もっと木々が密集している森なら別だけど、木と木の間が結構空いているから、暗くてもなんとかなりそうね」
「ですが、警戒は怠らないようにしましょう」
魔物の情報を伝え、話し合ってそれぞれの準備をする。
ちょうど、俺達がいる場所からワイバーンのいる場所の途中に、ゴブリンが数体固まっているようだから、モニカさん、ソフィー、フィネさんは別行動で先に林へ向かって、魔物を蹴散らす。
遅れて俺とユノが林へ向かって、真っ直ぐ中央にいるワイバーンへ。
迂回するよりも、さっさと魔物を蹴散らして進んだ方が良さそうだからね。
「それじゃ、皆気を付けて。魔物を倒した後の片付けは……」
「それは全部終わってからでいいだろう。では……行くぞ、モニカ、フィネ」
「えぇ!」
「はい!」
弱い魔物と言っても、夜戦のうえ木々がある林の中だから、油断しないよう注意を促す。
倒した魔物の事は後で考えるとして、別行動班のリーダーみたいになったソフィーが、モニカさんとフィネさんに指示を出して林へ向かって駆ける。
ランクや経験的にはフィネさんがリーダーなんだろうけど……本人が気にしていないなら、問題ないか。
「……うん、三人とも順調そうだね」
「ゴブリン程度にやられるような三人じゃないの。油断しなければ問題ないの。それよりリク?」
黒の剣をすぐ抜けるよう準備しつつ、探知魔法で先に駆けて行った三人の様子を窺う。
それぞれ、ゴブリンの集団と接敵したと思われる瞬間から、どんどん数を減らして行っているので、順調なんだろう。
確認して頷き、ユノと一緒に林へ近付く。
「どうした、ユノ?」
「ワイバーンだけど、魔力が少ないって言っていたのはおかしいの。何かありそうなの」
「まぁ、そうだろうなぁ。人の指示を本当に受け付けるのかはわからないけど、もしそうなら、普通のワイバーンじゃなさそうだ」
ワイバーンであるなら、本来は確実に魔力量が多いはず。
なのに、反応を調べた限りでは、今目指している場所にいるワイバーンはの魔力量は、人間と同等くらいしかない。
絶対に何かあるのは間違いないはずだ。
「だから、絶対逃がさないように仕留めるの」
「絶対逃がさないようにって、どうやって? まぁ、一撃で仕留めれば確実だろうけど」
逃がしたくはないから、もし飛んだらエルサに追いかけてもらう、それ以外では一撃で仕留めるようにするしかないんじゃないだろうか?
「翼を狙うの。翼の片方を半分でも斬り取れれば、ワイバーンはもう飛べないの。大きく傷つけるくらいでもいいの」
「成る程、翼か。わかった、できるだけ翼を狙うようにしよう」
何があるかわからないワイバーン。
魔力量が少なくても、俺達が駆け込んで仕掛けた際に一刀両断とはいかないかもしれない……向こうだって、避けたりもするからね。
そこで、ユノが言ったように翼を狙って、片方の翼を傷付けられれば逃げられる事はないってわけだ。
二体いるから、それぞれ別方向に逃げたら、エルサでも逃すかもしれないし……確実に仕留めるために、言う通りにしてみよう。
ワイバーンの翼は大きく、その大きさで揚力を得ていると考えがちだけど、魔力を通して空を飛んでいるらしい。
それなりに大きいワイバーンの体を支えるのは、魔力を通さないと不可能だとの事だ……大きく傷を付ければ、魔力が通せなくなるから、飛べなくなるってわけだね。
「……私が、ワイバーン如きを逃すはずがないのだわ。だから、リクは構わず戦えばいいのだわ」
「起きていたのか。まぁ、エルサに手間をかけさせないように、やってみるよ」
もしもの時は頼る事になったとしても、最初からエルサに頼る事前提で動きたくないからね。
頭にくっ付いて、いつの間にか起きていたエルサのモフモフを撫でて、やれるだけの事をやると決める。
……多分ユノは、エルサに頼らずになんとかする方法を教えてくれたんだろうから。
ワイバーンを仕留めるのを、エルサに取られたくない……とかではないはずだ、多分。
盾は背中に、剣を持ってブンブン振りながら意気込んでいるユノを見ると、ちょっと自信ないけど。
「……よし、ゴブリン達はいなくなった。中央までの道が開けたね。行くよ、ユノ!」
「任せるの!」
「……はぁ、ワイバーン程度でここまで意気込まなくてもいいのにだわぁ」
背の高い木々が並ぶ林の一歩手前、モニカさん達がゴブリンと戦う音がちらほらと聞こえるくらいの場所で、探知魔法を使って数秒ほど待つ。
どんどんゴブリンの反応がなくなり、ゼロになったのを確認した後、ユノに声をかけて中心へと向かって駆けだす。
頭にくっ付いたエルサが、何やらぼやいていたけど……二体のワイバーンくらいなんとでもなるってわかっていても、油断はしたくないからね、やるなら万全にだ。
ちなみに、モニカさん達はゴブリンを全て倒したのを確認したのか、三人で一緒に別の場所へ向かって行った。
他の魔物を討伐しに行ったんだろう……牽制って話はどこに行ったのか。
まぁ、わかっていた事だけど。
怪我にだけは注意してほしいなぁ――。
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