第1051話 ワイバーンの反応を補足
センテを出てから、大体二時間近く……それなりに早足で歩いていたから、十キロ近くの距離になると思う。
探知魔法は魔力量が増えたらしい頃から、随分広がって、感覚的には十五キロくらいになっている。
とはいっても、端の方は反応が薄いからよくわからない事もあるし、範囲が広い分情報が多くて俺の頭では全てを把握する事はできないんだけれども。
「ここからセンテの半分か。わかってはいたが、とんでもない範囲だな……遠くなる程にわかりにくいとしてもだ」
「リク様は、偵察いらずですね」
「とは言っても、そんなに便利とも言い難いんだけどね。人や物が増えたら情報が増えるし、その情報から必要な情報だけを抜き出すのも、俺自身だから」
結局、どれだけ範囲が広くなっても、正確さが重要だと思う。
だから、使っている時はいつも、俺が把握できる範囲や欲しい情報に意識を集中させている。
ワイバーンが空を飛んでいるため、発見が遅れたのもそのせいだね。
「とにかく、調べてみるよ。俺達がここに来るまでに移動していなければ、多分いるはずなんだけど……」
皆にそう言って探知魔法を発動、周囲を調べ始める。
意識を向ける方角は北東を中心に、ワイバーンが行かないと思われるセンテ方面は、情報の正確さを求めるためあまり意識しないように。
「ん……あれかな。ワイバーンだと思う反応が一つ……いや、二つだね。あんまり離れていないかな」
探知魔法によって、それらしい反応を見つけ、皆に言う。
このまま道を北東にしばらく進んだ後、途中で道を外れている場所だ……木々の反応などもあるから、森とか林なんかに隠れているんだろう。
「ワイバーンが二体って事ね。リクさんがさっき見つけた反応と、同じなの?」
「二体のうち一体が、多分それだと思う。魔力反応が一緒だから。でも……」
「どうかしたのか?」
「ワイバーンの周辺に、他の魔力反応があるんだ。それと、ワイバーン自体の反応も弱い気がする」
木にも魔力反応があるから、最初はそれだと思ったんだけど……違う。
魔力量は少なくても、しっかりとした反応を返す木などの植物とは違って、周辺の魔力反応は弱々しい。
というより、霧散して空気中に溶け込んで行っているような感じだ。
広がり、薄くなって反応がなくなって行く……。
「他の魔力反応? それは、近くに指示を出していると思しき者がいる、という事じゃないか?」
「ワイバーンの反応が弱いというのはどういう事でしょうか? 弱っているのですか?」
俺の言葉に、ソフィーとフィネさんが続けて質問をしてくる。
周辺の魔力はどんどん薄くなる一方だから、多分指示をしている人とかじゃない……だってこれ、多分死んだ何者かの魔力が霧散している感じだから。
「うーん……どうだろう。多分指示している人はいないと思う。人間らしい反応がないから。周辺の魔力はワイバーンの獲物なんじゃないかな? 魔力がなくなって行っているから。それと、ワイバーンの方は弱っているって感じはないね」
「……聞いただけだと、私達には想像しづらいわね」
「まぁ、こればっかりは俺が魔力反応から判断しているだけだから、伝わりにくいよね」
俺自身、反応からの想像でしかないわけだし。
実際に自分達の目で見た方が、正確な情報を得られるのは間違いない。
「ワイバーンが何かの獲物を捕まえて、というのはわかるが……ワイバーン自体の反応が弱いというのはどういう事なのか理解できないな」
「魔力の反応が弱いというなら、魔力量が少ないという事なのでしょうけど。ですがワイバーンは基本的に魔力を豊富に持ち、空を飛ぶのも翼だけでなく魔力を使っていると言われています。それが弱い、魔力が少ないというのは、考えにくいです」
「俺もそう思うんだよね……でも、王都に襲来したワイバーンの群れと比べたら、かなり魔力量が少ないんだ。王都の方は、一体一体がアルネやフィリーナよりも多くの魔力量を持っていたはずなんだけど、こちらのワイバーンは、人間とそう大差ないくらいだね」
どういう事なのかはわからないけど、今探知魔法で反応を調べているワイバーン二体は、近くにいるモニカさんやソフィー、フィネさんとそう変わらないくらいの魔力量だ。
弱々しい反応ではないから、怪我や病気で弱っているというわけではなさそうだし……でも魔力の性質そのものは、王都で戦ったワイバーンのものと酷似している。
「なんにせよ、見に行くのが一番早いの。ここで考えていても、わからない事はわからないの」
「……そうだな、ユノの言う通りだ」
「そうね。そのワイバーンがいる場所は近いのよね? だったら、行ってみるしかないわね」
「南の調査を引き上げて、ここまで来たからな。ちゃんと調べないうちには帰れないさ」
「そうですね。ですが相手はワイバーン……リク様が言っている通り、魔力量が少なくとも油断は禁物です」
退屈そうにしていたユノの発言に頷き、何はともあれ皆で調べに行く事に決まる……元々、そうするつもりだったからね。
フィネさんの言う通り、魔力量に対する疑問はあっても相手はワイバーン、油断していい相手じゃない。
簡単には斬り裂けない硬い皮を持ち、火を吹く事もある。
空を飛ばれたら、地上にいる俺達には対処法が限られてしまうし……まぁ、その時はエルサに飛んでもらうつもりだけども。
「……うん、しばらく動く様子はない……かな? とにかく行ってみよう」
「えぇ」
皆にそう言って先頭に立ち、案内するようにワイバーンの反応がある場所を目指した。
「ここから、真っ直ぐ東だね。……暗いからよくわからないけど、向こうに林があると思う」
「確かに、私達にはわからないわね」
整備途中の道をしばらく進んだ辺りで、道から外れて東へ進む。
真っ暗になっているから遠くがほとんど見えず、まだ林自治は確認できていないけど、探知魔法で木々の魔力を確認しているから間違いないはず。
「うーん……これは、他にも魔物がいそうだね。もしかしたら、それを狙ってワイバーンが降りたのかもしれないけど」
「魔物か……どんな魔物かはわかるか?」
「多分、ゴブリンとかウルフとか……オークもいるかな? 強い魔物の反応はないよ」
木々の魔力や、ワイバーンの魔力、そして薄く広がっては霧散していく魔力以外にも、魔物らしき魔力反応がある。
人間ではないのは間違いないし、はっきりとしない部分もあるけど、魔力の大きさや感じた反応から、センテ南でも遭遇した魔物だと思われた。
種類はともかく、強い反応はないから、弱い魔物ばかりなのは間違いないはずだ
「ワイバーンの相手は、リクさんよね。だったら、私達が他の魔物を牽制しておくわ」
「どうして、俺がワイバーンの相手だって決まっているんだろう? まぁ、やるけど」
「まぁ、牽制よりも討伐になりそうだが……そうだな、それがいいだろう。弱い魔物なら、向こうから来るのを待つより、こっちから行った方が確実だろうからな。もちろん、油断はしない」
「だって、リクさんならワイバーンを確実に倒せるはずだし、もしもの時はエルサちゃんもいるから」
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