第1049話 急遽別の場所の調査へ



「センテに向かって……いや、センテを通り越して……あ、範囲から出たかぁ」

「まさか、センテに魔物が?」

「いや、今はもう範囲から出たからわからないけど、通り過ぎていたからセンテに何かするってわけじゃないと思う」

「そうか……」


 もしかしたらと考えたソフィーが、俺の言葉に安心したように息を漏らす。

 センテの東北……ハウス化した農地方面に、魔力反応が移動していたから、街は多分大丈夫。

 それに、高度を落とし始めていたから、農地の方まで行かず途中で降りたんじゃないかな。


「でもあの反応……どこかで感じた事があるような気がするんだよね」

「リクが感じた事がある? という事は、これまでにも戦った事があるのか」

「多分。どこだったか……」


 魔力反応自体は、それほど大きくなかった。

 人間やエルフとは違う性質に感じられたから、魔物で間違いないと思う。

 ソフィー達に話しながら、思い出そうとするけど感じた事のある魔力反応がなんだったのか、全然思い出せない。

 というか、これまで戦った魔物の中に空を飛ぶ奴なんて……。


「あ、そういえば……」

「ワイバーンなのだわ」

「ワイバーン!?」


 もしかしたらと、思い当たる事があったので口に出そうとしたところで、頭にへばりついていたエルサがに言われた。

 ソフィーだけでなく、モニカさんやフィネさんも驚いているけど……俺が言おうとした事を、横取りしないでくれよエルサ。

 ユノは、ワイバーンと聞いても特に気にした様子はない。


「前に王城に押し寄せたのと戦ったけど、それと似たような魔力性質だった……かも?」

「不確かなんだな」

「まぁ、あの時は今より探知魔法に慣れていなかったし、魔力性質とかも全部覚えているわけじゃないからね。でも、あの時戦ったワイバーンより、魔力そのものは小さい感じなんだ」

「……魔力が小さいという事は、子供のワイバーンとかか?」

「そこまではさすがに、わからないね」


 ともあれ、空を飛ぶ魔物と言えば以前に戦ったワイバーン。

 他にも、鳥の形をした魔物などもいるけど、魔力反応は王城に押し寄せたワイバーンに似ていた。

 魔力量……魔力の大きさとか、性質そのものまで全て一緒というわけではないんだけど……でも、性質があれ程似ているなら、ワイバーンで間違いないと思う。


「……センテって、ワイバーンが寄ってきたりする事ってあるの?」

「いや、少なくとも私がセンテを拠点にしていた際には、付近でワイバーンが見つかる事はなかったな。それなりの大きさだし、群れるから近くにいれば目撃くらいはされていたはずだ」

「センテ付近にワイバーンがいたら、近くのヘルサルにも話が来ていたはずよ。でも、私も父さん達も、ヘルサルでそんな話は聞いた事ないわ」


 ソフィーやモニカさんに聞くと、二人共首を振って否定。

 ワイバーンは空を飛ぶ関係上、討伐難易度が上がっているため、目撃されただけでも話が広まっているはず。

 センテで冒険者をやっていたソフィーや、ヘルサルで生まれ育ったモニカさんが聞いた事ないのなら、これまでそういった事はないんだろう。


「って事は、何かが原因でワイバーンが近くにいるって事だよね。……行ってみようか」

「これからか? 少々日の傾き方が不安だが、ワイバーンが街の近くにいるのかをはっきりさせるには、仕方ないか」

「リクさんの探知魔法だから、間違いなくいるんでしょうね。わかったわ」


 俺からの提案に、ソフィーが空を仰ぎ見て、モニカさんが頷く。

 フィネさんやユノも同じく頷いてくれている。

 センテの北東だから、南に来ていた現在地からは逆方向……大分日が傾いているから、到着する頃には完全に日が暮れているだろう。


「それじゃ……もう一度、冒険者ギルドに寄ってから、だね」

「そうね……」


 本日二度目の調査……発見した魔物の死骸や、討伐証明部位だけでいい魔物は埋めてあるけど、なんの偶然か今俺達の手元には三体のオーク。

 さっきよりも多いので、これを持ったまま北東には行けない。

 日が傾いているのもあって、付近の冒険者さん達も引き上げ始めているから、誰かにあげるわけにもいかない。

 仕方なしに重いオークを持って、でもできるだけ急いで移動するように、早歩きでセンテへと戻った。



「あれ、リク様達じゃないですか~」

「リネルトさん」


 冒険者ギルトにオークなどを納品し、急かして報酬を受け取った後、東側の門へ向かって移動していると間延びした声で呼び止められる。

 振り返って確認すると、声の主はリネルトさんだった。


「今から宿に戻るんですか~? でも、こっちは方向が違うような……?」

「いえ、まだ調べたい事があるので、東門へ向かっているんです」

「そうなんですか~。私は、アマリーラ様と交代するために庁舎へ向かっているんです~」


 相変わらずというか、マイペースなのかなんなのかゆっくりした喋り方のアマリーラさん。

 庁舎で仕事をしている、シュットラウルさんに付いているアマリーラさんと、街中の聞き込み役を交代するって事だろう。

 夜の聞き込み担当は、アマリーラさんらしいからね。

 こうして話していても、ある意味油断した男性からは話を聞けそうではあるけど、逆に隙だらけに見えて心配になるから、夜の担当はアマリーラさんの方がいいんだろう。


「あ、そうだ。これから俺達は街の北東に調査をしに行くんですけど、シュットラウルさんやアマリーラさんに、帰りは遅れると言っておいて下さい」

「はい~わかりました~。でも、街の南の調査じゃなかったんですか~?」

「それが……」


 あまり時間がないため、ワイバーンがセンテの北東にいるかもしれない事を伝え、シュットラウルさん達にも報せるようお願いしておく。

 帰りが遅くなって心配を掛けちゃいけないし、もし本当にワイバーンがいるのなら教えておいた方がいいからね。

 事情を話して東門に急ぐ俺達を、ゆっくりと手を振って見送ってくれた。



 東門を出て、北東へ簡易的に作られている道を急ぐ俺達。

 この道は、新しく作ってハウス化した農地に続く道で、成果次第では道を広げて立派な街道にするつもりなんだそうだ。

 道が整備されている方が、魔物と遭遇する心配も低くなり、物や人が移動するのも楽になるからね。


「しかし、そこかしこに人がいるのだが、これでワイバーンが付近に降りているのに目撃情報がないというのは……」

「確かにね。でもあの人達、俺達を見て姿勢を正したように見えるけど……どうしたんだろう? 多分、道の整備をしている人達だと思うんだけど」


 道はまだ完全に整備されていないので、今もそこかしこで作業をしている人達がいる。

 それなのに、空を飛んで目立つワイバーンが近くにいるというのは、探知魔法で調べなければ信じられなかったかもしれない。

 ソフィーに頷いて考えながら、通り過ぎる街道整備の人達の集団を見て首を傾げる。

 全員ではないけど、一部の人は俺達……というより多分俺を見て直立不動になったり、休んでいた手を動かして作業に励み始めたりしていた……サボりは良くないから、ちゃんと働きましょうねー?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る