第1048話 数が多くなれば相場も下がる



「ま、まぁ、その特色……になるのかな? 今はまだ考えている段階で、具体的な内容とは言えないけど、もし実現させるならお金が必要そうだからね。あって困る物じゃないよ」

「ふむ……リクが考えているというのは、空恐ろしくも感じるが……成る程な」

「私達がギルドに預けているお金も、パーティとしての報酬からだから、さすがに全部とは言わないけどある程度は協力するわ。リクさんの考えている事なら、きっと悪い事ではないでしょうから」

「うん、ありがとう」


 ソフィーの言い分はともかく、信頼してくれるモニカさんの言葉は嬉しい。

 冒険者パーティであり、クランを一緒に作る仲間だから、金銭的にも協力してくれるみたいだ……まぁ、実はクランの話をされた時に、モニカさん達から提案のあった事なんだけどね。

 もし入り用になって、資金が足りないようなら同じパーティとしてって。

 パーティで運営するなら、俺一人がお金を出すのもおかしいからとも言われたっけ……ありがたい。


 でも、こんな話をしていても実際にクランを作ると、はっきり決まったわけじゃないんだけどね。

 さすがに皆に水を差すのもいけないので、これは言わずにクランにどんな人が集まるのか――という話で盛り上がりながら、センテの冒険者ギルドへ向かった。

 多分というか、ほぼ確実に、クランを作る方向になるんだろうという予感も感じながら――。



 冒険者ギルドにて、受け付けで魔物の討伐証明部位を出して報酬をもらい、オークの買取もしてもらう。

 素材と報酬の受け渡しだけなので、建物に入ってすぐの受け付けで済ませる。


「確かに、確認しました」

「はい。また魔物の討伐をされた際には、お持ちください」


 モニカさんが報酬の確認をし、頷いて受付の男性が丁寧にお辞儀をする。


「あ、そういえば。フィリーナはどうしていますか?」

「先程、休憩をされてから、今はまた奥で魔法の講義をされています。御用でしたら、取り次ぎましょうか?」

「いえ、大丈夫です。ちゃんとやっているのか気になっただけですから」

「まだ初日ですが……フィリーナ様は、冒険者達から丁寧に教えて頂いていると、評判です。一部の男性冒険者が熱心なのが気になる所ですが……ギルドマスターが目を光らせておりますので」

「そうですか。まぁ、フィリーナはエルフで美人ですからね。ギルドマスターさんに、よろしくお伝えください」

「畏まりました」


 フィリーナがどうしているか気になったので、受付の男性に聞いてみると、問題なく魔法の講義をしている様子。

 さっき休憩していたっていうのは、少し遅めのお昼休憩だろう。

 エルフという事を差し引いても、目を引く美人だから男性冒険者さんが熱心になるのもわからなくもないけど、ギルドマスターが見てくれているのなら、大丈夫そうだ。

 安心して、フィリーナの事を任せて受付を離れた。


「……うーん」

「どうしたの、モニカさん?」

「いえ、ちょっと報酬が少ない気がするのよね。オーク丸二体だから、もう少し多いと思っていたんだけど……ほら」

「ふむ、確かにそうかもしれんな」


 冒険者ギルドを出て、こちらも遅めの昼食にしようとお店を選んでいる時、何やら考え込んでいるモニカさん。

 声をかけてみると、先程冒険者ギルドで受け取った報酬が少ないと気になっているみたいだ。

 魔物の討伐には、それぞれ報酬の相場があり、さらにオークも含めて食料や何かの素材になる物に対しても、相場というのがある。

 さすがに全て把握しているわけじゃないし、モニカさんもある程度調べていて知っているくらいだろうけど……オークはその中でも相場が安定している素材だ、日頃食べて消費されるからね。


「ですが、ギルドマスターと直接話をする事もできるリク様相手に、報酬をケチる事があるとは思えませんが……」


 報酬の入った革袋を見せるモニカさんと、覗き込んで頷くソフィー……細かく数えて計算するのは得意じゃないらしいけど、冒険者としての経験が長いので、ある程度見ただけでどれくらいの金額かってわかるみたいだ。

 そんなソフィーやモニカさんを見ながら、フィネさんが首を傾げる。

 まぁ、優遇されたり特別扱いという程じゃなくても、ギルドマスターに直接言ったり、他の支部や中央ギルドで話しもできるから、本来支払われるべき報酬の上前を撥ねるような事はないと思いたい。

 ちゃんとした報酬を払わないギルドの支部は当然ながら評判が悪くなるし、場合によってはギルド組織の中での懲罰対象になったりもするらしい。


「いえ、それを疑っているわけじゃないの。少ないと言っても、相場からかけ離れているわけじゃないから。ちょっと気になっただけなのよね」

「……もしかしてだが、センテの南で魔物が増えている事に関係しているのではないか?」


 センテの冒険者が、常に依頼に困らないくらい魔物が減らない状況。

 だから、ギルドに持ち込まれる物も多く、そのせいで相場が下がっているんだろう……というのがソフィーの考え。

 モニカさんもそれに納得し、フィネさんも頷いていた。

 単純な、需要と供給の話だったみたいだ……需要が増えて供給が間に合わなければ価格が上がるし、逆に需要が下がって供給が増えれば価格が下がる。


 そんな話をしながら、適当なお店に入って昼食を頂いた。

 俺は朝食を食べるのが遅かったから、まだそんなにお腹が減ってなくて少しだけ。

 ただ、ユノやエルサはガツガツと大量に食べていた、よくそんなに入るなぁ……お腹を壊さなければ良いけど――。



「うん?」

「どうしたの、リクさん?」

「いや、ちょっと……」


 遅めの昼食後、再びセンテを出て調査の再開。

 周辺を探るために、探知魔法を使っていたんだけど……あまり意識的に反応を見ていなかった所で、気になる反応があった。

 首を傾げる俺に、マンドラーゴを切り刻んで処理するユノとソフィーを眺めていたモニカさんから尋ねられる。

 手を挙げてモニカさんにちょっと待ってもらうよう示し、探知魔法に意識を向ける。


「……やっぱりだ」

「どうしたんだ、リク?」

「どうされましたか?」


 探知魔法の反応を確かめ、これまで意識していなかった方を精査する。

 気になる反応を確かめて呟く俺に、細切れになったマンドラーゴを埋め終えたソフィーと、喜々として刻んでいたユノを苦笑して見ていたフィネさんから、窺うような視線と声。

 ……マンドラーゴは、魔物だけどその性質は植物らしいから、刻んで埋めればいい肥料になってくれるだろう。


「あっちの方向で、魔物っぽい魔力反応があったんだ」

「あっちって……」

「センテの方向、ですか?」


 確かめた反応はセンテの方角……俺を中心に広がる探知魔法は、範囲内であれば大体の反応がわかる。

 けど、俺が意識を向けておらず発見が遅れたのは、それが空だったから。

 空を飛ぶ魔物の目撃情報はなかったし、魔物の死骸を運ぶ手段として考えていても、可能性としては低いために意識から調べる場所として除外していた。

 だから、探知魔法の範囲内でも気付くのが遅れたんだけど……。



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