第1044話 怪しい人物の目撃情報



 シュットラウルさんから切り出し、アマリーラさんとリネルトさんが集めた情報の話になる。

 アマリーラさん、戦ってはいないけど訓練や演習と、俺やシュットラウルさんと一緒にいたのに、昨日はその後リネルトさんと交代して情報収集をしてくれていたみたいだ。

 今はまたリネルトさんに交代して休んでいるらしいけど、疲れすぎないようにちゃんと休んで欲しい。


「まぁ、こちらも目ぼしい情報言う程の事は、聞けなかったようだな。ただ、リネルトもアマリーラも、聞く相手や昼と夜という違いがありながらも、同じ内容の事を聞いたようでもある」

「同じ内容というのは?」

「怪しい人物の目撃情報、と言ったところだな。だが、少々怪しいというだけで、特にその人物がないかをしていた、という話は今のところ聞かない」

「怪しい人物……」


 やっぱり、帝国に関与する組織の人が入り込んでいるのだろうか?

 ヘルサルにいたクラウリアさんのように……。

 いや、ヘルサルにもそれなりの人数が入り込んでいたようなので、すぐ近くのセンテにいてもおかしくはないか。


「センテは本来、農作物を集積して各地に運ぶ役割を担っている。当然、冒険者以外で街を訪れるのは、作物を仕入れる、品定めするなどといった者が多い」

「そうですね。俺も、初めてセンテにきた時は冒険者じゃありませんでしたし、仕入れをするためでした」


 もうかなり昔のように感じて、懐かしくもあるけど……その帰りに、エルサと出会って契約したんだよなぁ。


「だが、その怪しい人物というのは、それなりの日数センテに滞在しておきながら、作物の問屋には一切行っていないようなのだ。つまり、農作物などの食料が目的ではない。だが、旅人風で街に定住しようと考えているとも見えないし、冒険者でもないようだ」

「……北側にある武具店などが目的、とは考えられませんか? 旅の途中で寄った際に、武具を新調しようとか、質のいい物を買おうとか……」

「センテで武具を買い揃えるのなら、ヘルサルに行った方がいいだろう。センテでもそれなりの物は揃うし、場合によっては珍しい物もあるだろうが……。だが、そもそも街の北側にも行っていないらしい。目撃されたのは街の中央から南が多いとの事だ」

「南が多い……」


 それだけ聞くと、どうしてもセンテの南で増えている魔物との関係性を疑ってしまう。

 だからこそ、怪しい人物なんだろうけど。


「ただ、今のところの情報では、特に街を出て何かするわけでもないらしいのだ。まぁ、街に住まう者達からの目撃情報だからな。その者を直に調べたわけでもない、詳細はこれからだ」

「それじゃ今は、リネルトさんが調査を?」

「いや、他の者にさせている。リネルトはこういった、特定の人物を調査するには向かないからな。それに、昨日まで住民から話を聞いていた者が、急に特定の人物だけに絞って調べていたら、何かあると言っているようなものだ。調査対象の人物に怪しまれないためにもな」

「成る程」


 確かにリネルトさんは、戦闘での動きは素早いから誰かを追いかけるとかは簡単にできるだろうけど、周辺調査や尾行など、一人に絞った調査が特にそうには見えない……失礼かもしれないけど。

 シュットラウルさんの話に納得して、頷く。


「こちらはこれくらいだな。詳細は追って報せる。何かわかれば良いのだが……」

「そうですね。本当にその怪しい人物に何かあるとしてもしなくても、わからない事が多いので少しでもわかるようにして行きましょう」

「うむ」


 そうして報告会も終わり、話している間に俺は食事を済ませていたので、エルサとユノが食べるのを待つ。

 ちょっと食べ過ぎじゃないかとか、この後動けるんだろうか? とは思ったけど、まぁ大丈夫だろう……お腹がパンパンになったエルサが、頭にくっ付くと少し重そうではあるけどね。

 待っている間は雑談をしていたんだけど、話題はもっぱら昨日の演習の事ばかり。

 執事さんの様子を窺って、顔色が悪いシュットラウルさんだったけど、自分からこの話題は止めようと言う事もできず、途中から俺の戦いぶりに話の方向を持って行っていた。


 ……シュットラウルさん、模擬戦の時は近くにいなくて弾き飛ばされる兵士さんを遠目に見ていただけなのに、見ていたかのように話すなぁ。

 アマリーラさんに聞いたのかもしれないけど、結構な誇張が混じっていたように思うから、苦笑しながら否定はしておいた。

 さすがに、木剣で金属鎧を破壊しつくしても怪我をさせず、兵士さん数人を裸にしたとか……そんな事はしていないですからね、シュットラウルさん――。



 食事を済ませた後は、俺、モニカさん、ソフィー、フィネさん、ユノで宿を出て南に向かう。

 エルサは俺の頭にくっ付いて、満腹になった満足感で今にも寝そうだ……いつもより、少しだけ重い気がする。

 シュットラウルさんは、リネルトさんやアマリーラさんと連絡を取り合いながら、今日は庁舎にてお仕事。

 センテに関する事だけでなく、昨日の演習で軍費だけでなく全体の予算を見直したりと、色々やる事があるらしい……あっちはあっちで、大変そうだ。


「リクさんは、今回の調査は初めてだったわね」

「そうだね。明日はまた別の農地に行く事になっているけど、今日は調査に参加できるよ」


 街中を歩きながら、モニカさん達と話す。

 調査を任せっぱなしにしているから、本格的に参加するのは今日が初めてだ……いきなり、寝坊して遅い出発になってしまったけど。

 ちなみに、宿を出る前にシュットラウルさんから、前回とは別の農地との話が進み、ハウス化させる事になったからとお願いされた。

 今日はクォンツァイタなどの準備や運搬があるので、そちらに行くのは明日だね。


 当然ながら、冒険者さん達に魔法を教えているフィリーナも行く。

 まぁ、そちらにはシュットラウルさんが冒険者ギルドに連絡をしてくれるみたいだし、フィリーナがここまで来た理由でもあるから、魔法講義よりも優先される。

 クォンツァイタを魔法具化して、結界に魔力を供給するように繋げるのは、フィリーナしかできないからね。


「やる事が多くて大変だな、リクは。だが、疲れなどは残っていないのか? 自覚しているかはわからないが、昨夜から眠り続けたのは、疲労もあるのだろう?」

「特にこれといって、疲れている感じはしてないね。寝る前は、少し疲れたように感じていたけど。いつもより少し多めに寝たからかな?」


 ソフィーの質問に、モニカさんやフィネさんが横で同調するように頷く。

 心配をかけてしまって申し訳ないと思うけど、俺自身はもう疲れを一切感じていない。

 むしろ、いつもより体の調子がいいくらいだ……たっぷり寝たからだろうけど。


「あぁ、ユノちゃん。そっちじゃなくてこっちです。あまり離れないで下さい~」

「あっちも面白そうなの。でも、こっちも面白そうなの……」

「ははは、フィネさんはすっかりユノのお守り役になっちゃってるね」

「誰かを見ている事に慣れているようで、ちょっと目を離した隙に離れそうなユノちゃんを、しっかり見てくれているわね。ルジナウムでは、何度か迷子になりかけたから……」

「そ、そうだったんだ」



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