第1043話 フィリーナは魔法講義中
モニカさんやソフィーは、フィリーナがどうしているのか、首を傾げる俺に苦笑しながら教えてくれる。
冒険者ギルドに行くなら、一人で行かなくてもと思ったけど、何か理由がありそうだ。
「調査をしていた時、魔物と遭遇したんだが……その時フィリーナが魔法を使ってな」
「まぁ、フィリーナなら魔法を使って戦うよね」
「それを、他の冒険者が見ていたの。別に隠すものじゃないから、フィリーナ自信は特に気にしていなかったんだけど……エルフの魔法なのよ。それも、リクさんやエルサちゃんから魔法に関する話を聞いて、改良した……ね」
「あー、そういえば、以前も研究して新しい魔法を使っていたっけ」
魔物と戦うなら、エルフのフィリーナは魔法を使うのが当然……むしろ、剣とかほとんど使えないはずだから、接近戦はモニカさん達に任せて後ろからの援護に徹するよね。
なんだっけ、誘導の性質を追加した、風の刃? 風の矢? そんな魔法を使っていたのを思い出した。
「その、他の冒険者がな。エルフを見るのが珍しいのもあるんだろうが、魔法の研究が進んでいる事を知っていてな。フィリーナに教えを請うたんだ」
「教えを……? それじゃ、フィリーナが一人で冒険者ギルドに行っているのって」
「えぇ。冒険者の、とりあわけ魔法に関心のある人達に、教えるためよ。最初に声をかけてきた冒険者以外にも、教えて欲しいって人が増えてね。で、昨日この宿へ戻る前に、冒険者ギルドへ行ったら指導の依頼を是非受けて欲しいって、ギルドマスターが」
「まぁ、ギルドマスターとしてもエルフから直接魔法の指導がされかも、と考えれば飛びつくのだろうな」
つまり、今フィリーナは魔法の教師みたいな感じで、冒険者さん達に教えているわけか。
人間の使う魔法は、エルフが研究して人間にも使えるようにしたものが多いらしいし、指導された冒険者さん達の戦力が底上げされるのであれば、ギルドマスターとしても歓迎なんだろう。
「でも、フィリーナって冒険者登録してないよね? 冒険者じゃないのに、依頼って……」
「特別依頼になっていたわ。例外として、私達のパーティへの依頼にして、フィリーナにも報酬を出すみたいなの。まぁフィリーナ自身、誰かに知識を広めるのは嫌じゃないみたいだから、引き受けたのよ」
「フィリーナが、冒険者さん達に魔法の指導かぁ……」
なんだろう、眼鏡をかけてお堅いスーツ姿のフィリーナが思い浮かんだ。
指先で眼鏡をクイッと上げながら、冒険者に指導していたり……美人だし細身だから似合いそうではあるけど、うん、これ以上変な想像をしたらフィリーナに失礼だね、止めておこう。
「とは言っても、希望者全員に教えるわけではないんだがな。ランク制限を設けて、Cランク以上の冒険者にするよう、ギルドマスターが言っていた」
「Cランク以上かぁ……でもそれじゃ、あんまり数がいないんじゃないの?」
「Dランクにするか悩んでいたようだが、今センテには南の魔物の事があって、通常よりも多くの冒険者が集まっている。さすがにリクと同じAランクはいないが、Bランクが少数にCランクもそれなり……だな」
「それに、数が多くなり過ぎても、フィリーナが全員に教えられるわけじゃないのよね」
フィリーナが教えられる範囲で、冒険者の数を制限するためにCランクにしたんだね。
現状、討伐依頼に事欠かない状況のセンテだと、仕事にあぶれる事がないため、周辺から冒険者が集まって来ているらしく、無制限に受け付けていたらフィリーナが大変だからだろう。
「……兵士達にも、魔法の手ほどきを受けたいのだが……」
話を聞いていたシュットラウルさんが、ポツリと漏らす。
兵士さん達の魔法と言えば、演習の時に使っていた爆発の魔法と、風を吹かせる魔法……多分他にも使えるんだろうけど。
あれが強化されるとなれば、確かに戦力増強としては手っ取り早いかな。
「駄目なの。兵士はまず次善の一手を使えるようにするの。昨日、リクが模擬戦をしている時に教えたのに……演習の時に使えていた人はいなかったの」
「それはそうなのだがな……」
エルサと一緒になって、料理を頬張っていたユノがシュットラウルさんの呟きに反応。
そういえば、演習の時に次善の一手を使っているらしき人はいなかったっけ……まぁ、余計な事を考えないように集中していた俺には、実際に使われていても判断できなかっただろうけど。
近くで見ていたユノが言うなら、間違いないんだろう。
まぁ、次善の一手を教えていたのは中隊長さん以上だし、小隊長さんやそのほかの兵士さんに話はしていても、浸透するにはまだ時間がかかるだろうね……今頃、練習しているかもしれない。
「まぁ、冒険者にフィリーナが教え終わって、余裕があればですね。その間に、兵士さん達の方もちゃんと使えるようになる人が増えておかないと」
「そうなの」
「……一度に、なんでも教えるわけにはいかないか。どれも中途半端になるようではいけないからな」
魔法を使う人だって、剣などの武器を振るう……実際演習では、騎馬隊や歩兵隊に魔法を放った人達も一緒にいた。
魔法が強化されれば、全体の戦力強化につながるのは確かだと思うけど、まずは先に教えた次善の一手を使えるようになった方がいいだろうと、ユノも頷く。
魔法は使えない人もいるけど、次善の一手は練習して感覚を掴めば、誰でも使えるからね。
あと、冒険者だけでなく兵士さん達に教えるのも追加されたら、フィリーナが辛いだろうし。
「次にリク殿が訓練に参加するまで、センテまで来ている兵士達には、習熟訓練などを課しているから、期待しておこう。数部隊を帰還させて、領内にいる他の兵士達にも伝えるように手配しているが、それで良かったのだな?」
「うん、問題ないの。王都でも、兵士達が先んじて次善の一手を練習しているけど、広く周知させるようにするって、筋肉おじさんが言っていたの」
「筋肉おじさんって、ヴェンツェルさんの事か……」
まぁ、兵士さん達以外には、まだ広めるつもりはないみたいで、それなりの機密として扱われるみたいだけど、できるだけ多くの人が使えるように備えておきたいんだろう。
帝国と事を構える際に備えての事なのに、いざという時向こうも知っていたら、効果が薄いからね。
どういう風に伝えて、どういう風に情報を秘匿していくかは、ヴェンツェルさんやハーロルトさんに任せれば大丈夫だろう。
国内に潜んでいる組織の存在も知っているし、その辺りはこれまで以上に慎重なはずだから。
「アテトリア王国の軍部トップのヴェンツェル殿を、筋肉呼ばわりとは面白いな。しかしそうか、情報は少し慎重に扱うようにしよう。王都と連絡を取り合わねばな」
シュットラウルさんが、少し楽しそうに笑う。
軍のトップというだけで、領地はなくとも十分にお偉いさん……重鎮なんだけどね。
「さて、諸々の確認が済んだところで、今度は私からの報告だな。アマリーラ、リネルトが情報収集をした内容だ」
「はい」
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