第1033話 騎馬隊の突撃



「……結構吹っ飛んだけど、大丈夫……だよね?」


 着地して、次の騎馬兵に備えつつ、木剣を当てた兵士さんを心配する。

 兜の中から悲鳴を上げた兵士さんは、突撃の勢いのままカウンター気味になり、相当な衝撃だったに違いない。

 その後、俺の木剣に弾き飛ばされて落馬……何度も転がってかなり離れた場所まで飛んで行く。

 馬はそのまま、真っ直ぐ駆けて行った。


「せい!」

「ぬんっ!」

「おっと、当たらないよ! ふっ! はっ!」


 吹っ飛んだ兵士さんの無事を確認するまでもなく、次の騎馬兵さんが二人一組で挟撃するように突撃して来る。

 左右から振り下ろされる槍を避け、飛び上がってこちらも先程と同じように、それぞれ木剣を腹部に当てる。

 最初の騎馬兵さんが吹っ飛んだのを見ていたので、少し加減したけど……やっぱり勢いに乗っているため、落馬後は地面を何度も転がって、離れた場所で静止した。

 あ、最初に落とした兵士さんが立ち上がって、肩を落としている。


 落ち込んでいるようだけど、無事なようで少し安心。

 お腹を押さえているから、当然痛みはあるんだろうけど……あれで大丈夫なら、同じような加減で戦えばいいわけだね。


「ぬぅ! せやぁっ!」

「うぉっと……はぁっ!」

「なんの! せいっ、ふんっ!」

「っとと……」


 次の騎馬兵さんは、俺の手前で馬を急停止させ、足を止めて槍を繰り出す。

 突きだけでなく、器用に馬上から槍を振る兵士さんは少し厄介だ……止まっているから、勢いのまま攻撃しない代わりに、俺が飛び上がって兵士さんを狙うのにも対処されてしまう。

 早くこの人をなんとかしないと、次の騎馬兵さんが……って、ん?


「なんで、足並み揃えて突撃して来ていたのに、一度に来ないんだ……?」

「ほぉ、さすがはリク様、お気づきになられましたか! ごふっ!?」

「せいっ! よし、なんとか落としたけど……?」

「ごふぁっ! 気付くのぐふぁっ! 遅れましぐふっ! たなぁ……がっ!」


 ふと疑問に感じ、呟く俺に答える兵士さん。

 その隙に、槍を掻い潜って胸あたりの、一番鎧が分厚い部分に向けて木剣で突く。

 意識が少し逸れていたため、思ったより強く突いてしまって、勢いよく弾き飛ばされた兵士さんは、地面を落ちて転がりながらも何かを叫んでいた……あ、お馬さんはあっちに行こうねー、ここにいると危ないから。


「リク、お馬さんに構っている場合じゃないの! 次が来るの!」

「馬に怪我をさせたりしたら可哀そうだからって言っていたの、ユノなのに……って、あれは……?」


 馬を誘導して離れた場所に走らせていると、ユノから注意の声。

 突撃して来ているはずの騎馬隊の方を見てみると、整列していていつでも突撃可能な状態だった。

 ただ、これまで来ていた騎馬の様子と違うのは、馬にも鎧のような物が取り付けられている事……それが三騎横に並び、さらに後ろにも同じようにして並んでいる。

 兵士さんが持っている武器も、先程までの槍と違ってランス……いや、ランスも槍の意味だけど、ちょっと違って、突撃槍とか騎馬槍と呼ばれる物を持っていた。


「刃がなくて尖っている、まさしく突くためだけに特化した武器だね……あれで突かれたら、さすがに痛いだろうなぁ……って痛いで済むのかな?」


 ランスには斬るための刃がなく、長く先が尖っているだけ……ではあるけど、馬の勢いのままに突かれたら、金属鎧でも貫通しそうな感じだ。

 多分、俺でも当たれば痛い事は間違いなく、下手をしたら突き刺さる事だってあるかもしれない……。


「一番、突撃!! 二番三番、順次続けぇ!!」

「……とにかく、当たらないようにしないと……」


 一人だけ、兜を被らず少し後ろから号令を出す人……模擬戦の時には見なかった人だけど、演習すると聞いた時に見かけたから、多分中隊長さんだろう。

 その人の号令で、一番前にいた完全武装の騎馬が三騎突撃して来る。

 先程、散発的に突撃されたのは、この準備のためなんだろう……騎馬隊で勢い任せに全員で突撃せず、わざわざ止まって整列して整えたのは、単純な突撃だと俺に対処されると考えたからかな。

 まぁ、一人相手に大人数で突撃というのも、あまり効率的じゃないからだろうけど。

 

 あと、馬にも鎧を付けている事を、後ろの方に配置して隠していたとかで、前に出て整列するための時間稼ぎもあったのかもね。

 とにかく、向こうは本気で俺を倒すつもりでかかって来ているようだから、こちらもそれなりに対処しないと……でも、どうするか……。


「防具を付けているから、馬に攻撃してもいいんだろうけど……そんな事をしていたら、ランスに当たってしまう。一度に向かって来るのは三騎か……」


 三騎は、少し隙間を開けつつ中央の騎馬が俺の正面に、左右の騎馬が少し前に出て突撃して来ている。

 多分、左右どちらかに俺が逃げようとした時の対処と、中央を突破しようとしたら、左右から挟もうとしているんだろう……騎馬の間に隙間はあるけど、その間を抜けようとしても、結局挟まれてランスで突かれる。


「まぁ、なんとかできなくはないだろうけど、とりあえず一番簡単なのはこれかな……ふっ!」

「なっ!?」

「くっ!」

「ちぃっ!」


 正面から来る騎馬を待って引き付け、ランスが届きそうなくらいになったところで、大きく飛び上がる。

 中央の馬に乗って高い位置にいる兵士さんのさらにその上、頭上を越える俺を見て、それぞれ驚愕の声を上げていた。


「馬は急には止まれないってね。さすがに、頭上を越えられたら対処できないだろうし、勢いに乗っているから急停止も方向転換もできないでしょ」

「二番、突撃ぃ!!」

「これは、もしかして想定されていたとか、かな?」


 突撃してきた騎馬隊を飛び越え、急停止できずにそのまま走って行くのを見送りながら、着地。

 だけど、ホッとしている暇もなく、次の騎馬を突撃させる中隊長さん。

 飛び上がって避けられる、とまで考えていたかはわからないけど、間髪入れない突撃の号令は、一番と呼ばれていた騎馬隊だけで俺を抑える事はできないと、最初から想定していた様子だ。


「休む暇もないか……とにかく、なんとかしないと……!」


 なんとか、一番の突撃をやり過ごしたので、ほんの少しだけ考える時間ができた。

 次の騎馬が来るまでに、戦い方を考えないと……うーん……。


「お、そうだ……てい!」

「ぐぉ!?」


 チラリと、周囲を見た時に見かけた物……それは散らばった俺が使うための木剣と、その他に大量の矢が落ちている。

 そのうちの一つ、地面に突き刺さっている矢を抜いて、突撃して来る騎馬の中央……兵士さん目掛けて投げつけた。

 狙い通り……という程コントロールは良くなかったけど、それなりの勢いで当たったようで、ランスを持つ腕に矢が突き刺さった衝撃で、武器を落とす……鎧の腕部分の隙間に矢じりが刺さったようだ。

 これで、武器を落としたからあの人は戦線離脱扱いだ……突き刺すつもりはなかったんだけど、ごめんなさい……思い付きだったために、狙いもちゃんとできなかったし、そもそもコントロールに自信があるわけじゃないから……後で治療して謝っておこう――。



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