第1025話 小隊長さんはそれなりに戦える



「では……始め!」

「せやぁ! はぁ!」

「っと、とと……さすがに速いですね」


 アマリーラさんの合図と同時、槍を鋭く突き、横へと避ける俺に払いで足下を狙う。

 軽く後ろに飛んで避けたけど、これまでの兵士さん達とは速度や気迫が違った。

 避けられたら隙だらけになっていたのと違って、一撃目が避けられても、次の攻撃や動きに繋げられるように考えているようだね。


「まだまだぁ!」

「っと……おっと、くっ……」


 槍のリーチを活かして、俺から反撃される隙を与えないよう、突いては払い、槍を戻して再び突き……動きそのものは同じものだけど、狙う位置が変わったり、突きから払いに変わるタイミングを変えたり。

 剣の届く外側からなのもあって、やりづらい。

 さすがに、小隊長になるだけはあるって事だね。


「ふんっ! せいっ!」

「うぉっと……」


 何度も突きと払いを繰り返し、剣が届く位置まで行こうとする俺を阻止し続ける小隊長さん。

 だけど、槍相手は俺もモニカさんとの訓練である程度慣れている。

 突きや払いが力強く感じるのは、小隊長さんが男性だからだろうか……けど、速度はモニカさんの方が早い!


「こちらからも、これなら! せい!」

「ぐぅっ! これがリク様の一撃……離れて見ていた限りでは、まだまだ全力ではない様子……」


 放たれた突きを避けた直後、払いが体に当たるのを覚悟で前に出る。

 槍って穂先の刃に当たりさえしなければ、斬られる事はないし手元に近付けば近づく程、当たっても威力が落ちる。

 リーチの長い槍の弱点とも言える点だけど、そこを突いて前に出て近付き、木剣を上段から振り下ろす。

 利き腕は右っぽいからと考え、右肩に向かって振り下ろした俺の木剣を、槍を離して両手をクロスさせ、籠手をに挟んでガード。


 挟んだと言っても、掴むのではなく威力を殺した程度だから、籠手がへこみ腕に衝撃を与える木剣。

 痛みに顔を歪ませながらも、冷静に受け止めた小隊長さんはさすがと言えるだろう。


「そこまで! 武器を手から離した事により終了!」

「はっ!……リク様は、槍相手の戦い方も熟知しておられるのですね」

「熟知という程じゃありませんよ。冒険者仲間が、槍を使うので動きに慣れていただけです」

「そうですか……一層の努力をいたします」


 アマリーラさんの号令でお互いに力を抜き、槍を拾いながら話しかけて来る小隊長さん。

 こちらを見る表情は全力を尽くしたからか、ある種晴れ晴れとした感じに見えた。

 初めて槍を使う人との戦いだったら、もっと苦戦しただろうけど……モニカさんと散々訓練しているからね。

 苦笑しながら話す俺に、一礼して小隊長さんは下がった。


「次、前へ!」

「……」

「この人も、さっきの人と同じ小隊長さんなんだろうけど……なんだか雰囲気が違う?」


 槍を持った小隊長さんが、円の外に出てすぐ、アマリーラさんが次の人を呼ぶ。

 今度は、ショートソードを両手に一本ずつ持った人が来て、俺の前で剣をクロスさせるようにして構える。

 先程の小隊長さんと違って、俺の方をひたすら睨んでいるので、迫力もあるんだけど……なんというか、敵視しているようにしか見えない雰囲気だ。


「……リク様、思う存分痛めつけてやってください!」

「っ!」

「訓練だし、さすがに痛めつけたりはしませんって……」


 俺へ向ける視線が気になったのか、アマリーラさんが二刀流さんを睨んで言う。

 二刀流さんはビクッ! と体を一度震わせたけど、すぐにまた俺を睨んでいつでも戦える体勢に。

 うーん、兵士さんを弾き飛ばしまくったから、俺の事を疑うような視線はもうなくなってと思っていたんだけど……いや、これはまた別の理由がありそうだ。

 さっき、アマリーラさんの声に反応していたし……。


「では、始め!」

「っ!」

「うぉっと……」


 俺が悠長に考えている間に、アマリーラさんが開始の合図。

 これまでの兵士さんと同じく、合図と同時に飛び出す二刀流さん。

 手にもっているのはショートソードで、バスタードソードの型の木剣を持っている俺の方がリーチが長い。

 ただ、武器が二つあるのでリーチでなんとかするわけにもいかず、クロスさせた二本の剣を上段から振り下ろすとともに、両手を広げるような軌道をさせる。


 それぞれの剣で、逆袈裟斬りをしているような感じだね。

 突進力もあり、考え事をして反応が遅れため、反撃をする余裕はなく後ろに飛んで剣を回避する。

 ……二刀流か……クレメン子爵領で、騎士さん達との模擬戦をした時、副団長さんが二本の剣を使っていたっけ。

 あっちは速さも重視しているのか、ショートソードよりも短い剣だったけど。


「っ! せい! はぁ!」

「っと、ほいっと……うーん」


 後ろに飛んだ俺を追撃する、二刀流さん。

 必死の形相で俺を睨み、何度も剣を振る……速さはさすがに副団長さんの方が速いけど、剣が長い分リーチと威力はこっちの方が上だ。

 でも、必死過ぎるのか肩に力が入り過ぎているのか、二本ある剣を同時に俺へ当てようと振るだけで、せっかくの有利性を活かせていない。

 二本ある武器の有利性なんて、深く考える必要もなくそのまま、二本武器を持っている事。


 片方の剣をこちらの武器で防御させて、もう片方の剣で別の場所を狙うとか、それぞれ別の動きをさせる事で相手を翻弄できるのが利点だ……もちろん、上手く扱えている事が前提だけど。

 同時に同じ場所を狙って振るだけの二刀流さんは、極論を言ってしまえば、一本の剣を両手で使った方が力が入るし威力も上がると思う。


「そんな余裕な態度をしてっ! 足元をすくわれるぞ!」

「はいっと。狙いは悪くないと思いますけど、そんなに直線的じゃぁ……」


 当たらないように避けながら考えていると、俺に叫びながら足下へ剣を振る。

 足下を狙うのは確かに効果的だろうけど、リーチの短いショートソードだと狙いにくいうえ、やっぱり武器を二本とも同時に振るので、大した脅威にはならない。

 本気で足下をすくおうとするのなら、せめてロングソードくらいのリーチが欲しい……重さもあるからこっちも不向きだけどね……やっぱり、槍が一番かな。


「くっ! 余裕の表情を、なんとかして崩さなければっ!」

「いや、表情を崩すのを目的にするのもどうかと思うんですけど」


 俺が余裕の表情で避けているのが気に食わないのか、二刀流さんは叫びながらも俺を睨んでひたすら剣を振り続ける。

 うーん……さすがに、ここまで敵意を持たれる理由はないと思うんだけどなぁ。

 まさか、兵士さんを大量に軽々と弾き飛ばしていたのが気に食わない……とかではないと思う。

 俺が余裕そうに見えるから、というだけの単純な事だけではないような?


「うるさい! はぁっ!」

「っとと」

「もらったぁ!」


 考え事をしながらだったからか、避けた時に少しだけ足をもつれさせてしまう俺。

 好機と見た二刀流さんが、大きく振りかぶって二本の武器を同時に振り下ろす。

 だけど、結局そこで二本の武器を有効に使わない時点で、俺に当てられる事はない……そもそも、一度振り下ろした剣を大きく振り上げるなんて、こちらに立て直す余裕を与えてしまっている――。



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