第1013話 ハウス化作業完了と宿への帰還



 俺が土壁を作って馬車に戻ると、少し申し訳なさそうにしているシュットラウルさん。

 時間短縮のために、俺だけ降りるようにしていたんだけど……降りて何かするわけじゃなくても、座っているだけというのはと躊躇していた皆に、俺からお願いしたんだけどね。

 俺が乗り込むと、御者をしてくれている兵士さんがすぐに馬を走らせて出発してくれる。


 わざわざ全員が乗った事を確認しなくていいから、これも時短になってくれた。

 一か所につき数分程度だけど、あまり時間をかけているとエルサがお腹空いたって騒ぎ出しそうだったから、早めに終わらせたい。

 そうして、グルっと結界の外周を一周するように馬車を走らせ、地中に土壁を作って回った。


 結界の境目はパッと見わからないから、フィリーナが見て御者さんに指示をしてくれる。

 ……結界を張って俺が維持をしていない状態だと、探知魔法を使わなければ俺自身も見えなくてわからないからね。

 土壁を作る魔法を使う際には、ズレないように意識する必要があるので、探知魔法を使っているんだけど馬車で移動する時くらいは手伝うと、フィリーナから役割分担を申し出てくれた。

 魔力が不足したり疲れているわけじゃないけど、探知魔法は反応を調べるために情報を頭の中で整理する必要があるので、移動中にそれがないだけでもありがたい。

 

「溝の方、人が通る出入り口以外は結界の外側に見えるように作るの、結構慣れてきました」

「ありがたい。何から何まで、リク殿には世話になってしまうな……」

「いえ、魔法の扱いやイメージのやり方の練習にもなるので、構いませんよ」


 農地を覆う結界の出入り口以外は、シュットラウルさんからの提案で外側を土で蓋をせず、溝を表面に出すようにしていた。

 とは言っても、二メートルくらいの場所で土を固めるようにしているんだけど。

 なんでも、境目をわかりやすくするための初期的な処置と、その溝に水を通して用水路のように使えたら……と考えたらしい。


 水を溜めるための結界は張ってあるけど、あって困るものじゃないし、便利に使ってくれそうだ。

 結界で雨も防いでしまうから、他の農地よりも必要な水が多いだろうからね。


「ふぅ……なんとか全部終わりましたね」

「うむ。これでこの農地はリク殿に守護される、特別な場所になったな」

「守護って、大袈裟ですよ……」


 西側の出入り口付近に行った際、朝集まっていた村の人達からの挨拶を受けたりしつつ、外側を一周して再び東の出入り口へ。

 馬車から降りて出入り口から離れながら、シュットラウルさんと話す。

 離れている理由はセンテに戻るため、エルサに大きくなってもらうからだ……驚かせないようにというよりも、エルサが大きくなるスペースのためだね。

 結界にぶつかったらいけないし。


 ともあれ、俺が守護とかってのはさすがにちょっと大袈裟かなと思う。

 ずっと見守っているわけではないし……特別というのは確かにそうかもしれないけど、ハウス化した農地で作物を育てるのは俺じゃなく農家の人達だからね。


「それじゃ、飛ぶのだわ。早く戻って、キューをたらふく食べるのだわー!」

「おぉ、エルサ様。リク殿もそうですが、協力に感謝していくらでもお食べ下さい!」

「良きに計らえなのだわー」

「はは~」


 大きくなってもらったエルサに皆で乗り込み、空へと浮かび上がる。

 結界だけでなく、追加で俺が土壁を作ったからか、ご機嫌なシュットラウルさんがおどけて、エルサに畏まったように言った。

 どこの王様だよ、と突っ込みたくなるエルサの返答に、恭しく頭を下げるシュットラウルさん……様になっているようで、そのエルサの背中に乗ってモフモフな毛をワサワサと触っているので、傍から見ると微妙な感じだけども。


「……エルサ、調子に乗って食べ過ぎて動けなくなったりは、しないでくれよ?」

「キューを食べ過ぎて動けなくなるなんて、ないのだわー」


 ため息交じりに注意する俺に、自信満々で返事をするエルサ。

 キューだけじゃないけど、食べ過ぎてお腹をパンパンにして転がっているエルサとか、何回も見た事があるはずだけどなぁ……。

 まぁ、ヒミズデマモグとの戦闘中にアドバイスをくれたし、乗せてもらっているんだから食べ過ぎるくらいは別にいいんだけどね。

 エルサ自身が、苦しむだけだし――。



「お帰りなさいませ、皆様。お食事の用意ができております」

「うむ」

「ありがとうございます」


 センテに到着し、昨日止めてもらった宿に到着すると、先に戻っていた執事さんや他の人達に迎えられる。

 本来シュットラウルさんは、隣の宿なんだけど……なぜか一緒に入って来ていた。

 夕食とか一緒に食べるのかな? 別々に食べるよりは皆でワイワイ食べた方が、楽しそうかもね。


「今日は歩きまわったし、連続で魔法具化をしたからちょっと疲れたわね。あ、ありがとう」

「畏まりました」


 フィリーナが溜め息混じりに呟きながら、メイドさんに荷物を渡す……メイドさん自ら進み出たので、運んでくれるサービスって事だろう。

 確かあのメイドさんは、フィリーナの部屋専属だったはずだし。


「リク様、侯爵様、私達はこれで失礼します」

「アマリーラ、リネルト。手間をかけるが、頼んだぞ?」

「アマリーラさん、リネルトさん、ありがとうございました。よろしくお願いします」

「はっ! 必ずや有益な情報を得て御覧に入れます!」

「はい~。了解です~」


 入り口で、アマリーラさんとリネルトさんから挨拶。

 シュットラウルさんから声を掛けられ、俺も二人に感謝をしつつお願いする。

 アマリーラさんとリネルトさんは、これから魔物に関する情報収集に出かけるからね。

 まぁ、ヒミズデマモグとの戦闘とか、今日は動き回ったから程々で休んで欲しいけど……シュットラウルさんより俺が声をかけた時の方が、アマリーラさんの意気込みが凄かったのは何故だろう。


 相変わらず、気が抜けそうなゆるい返事のリネルトさんはともかく、アマリーラさんはあの様子だと、頑張り過ぎてしまいそうだなぁ。

 適度に休んで、疲労で倒れないようにして欲しい。


「あ、そうだ。モニカさん達は戻って来ていますか?」

「はい。私共が戻る少し前に戻ったようで。今は部屋で寛いでおられます」

「そうですか、ありがとうございます」

「お呼びいたしましょうか?」

「いえ、休んでいるでしょうから。それに、食事の時に集合しますらからね」

「畏まりました」


 俺達が農地へ出発する前、夕食までには調査を切り上げて戻ると言っていたので、先に戻っているかなと思って聞いてみると、執事さんは頷いた。

 調査の方はどうなっただろうか……? まぁ、モニカさん達なら何か有力な情報があれば、執事さんとかに伝言をしていそうだし、緊急な事はないんだろう。

 急ぐ必要がないのなら、どうせ夕食の時に集まるからその時に報告会のようにすればいいかな。


「ん?」

「何やら騒がしいな?」

「申し訳ございません、シュットラウル様。リク様のお連れのユノ様が、我々使用人と遊びたいと申しまして……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る