第1014話 シュットラウルさんは子供好き
とりあえず一旦部屋にでも戻ろうかな? と考えていたら、上の階の方からドタドタと走る音や賑やかな声が聞こえてきた。
階上を見上げる俺と、訝し気にするシュットラウルさんに、執事さんが報告。
朝もやっていた、鬼ごっこをユノがまたやっているらしい……モニカさん達と調査をしていたはずなのに、元気だなぁ。
「朝みたいに鬼ごっこをしているんですね……すみません、迷惑をかけてしまって」
「いえ、我々も楽しんでいますので……」
ユノが無茶を言って付き合わせているんじゃないかと思って、執事さんに謝る。
頭を下げる俺に、執事さんは微笑んでくれた後、むしろ騒がしくして申し訳ないと言われた。
まぁ、他にお客さんがいたら迷惑になっていただろうけど、俺達しかいないしそもそもユノが言い出した事だから、謝らなくてもと思う。
使用人としては、客側が発端でもそういった対応をしないといけないのかもしれないけど。
「確か、リク殿と一緒にいた女の子だったな。なんにせよ、子供が元気なのは良い事だ。子供に元気がない村や街は、何か問題を抱えている事が多いからな」
目を細めて、楽しそうに頷くシュットラウルさん。
騒ぐ子供が嫌だと思う人もいるだろうけど、そう言ってくれるのはありがたい。
「どれ、私も参加して来よう。鬼ごっこ……だったか? 初めて聞く遊びだが、使用人が楽しんでいるのは音や声からも伝わる。さぞ楽しい遊びなのだろうな!」
「あ、シュットラウルさん……!」
「リク殿、夕食にでもまた話そう!」
そう言って、楽しそうに階段を上がって行くシュットラウルさん。
貴族の人が進んで遊びに参加するとは……。
「……シュットラウル様は、お子様がいらっしゃらないので、子供と接するのが楽しいのでしょう」
「そうなんですか?」
年齢的には、フランクさんと同じくらい……大体四十代後半から五十代前半くらいなので、子供がいてもおかしくないと思っていたんだけど。
というか、貴族だから後継者問題とかありそうだけど。
「はい。奥方を早くに亡くしまして……いえ、申し訳ございません。私が申し上げる事ではございませんでした」
「あ、いえ……」
楽しそうなシュットラウルさんを見て、顔をほころばせていた執事さん……きっと、深く心配している事なんだろう。
だから、思わず漏らしてしまったのかもしれない。
ともあれ、立ち入った事を俺が無理矢理執事さんから聞き出す事もできないし、いずれ機会があればシュットラウルさんに聞いてみようかな。
ズカズカと踏み込むような事はしたくないから、本当に機械があればだけど――。
鬼ごっこで走り回るユノを見つけて、あまり無理な事を言わないように注意しつつ、使用人さん達が楽しそうだったので迷惑にならない範囲で、と言って部屋に戻る。
ユノと話をしている時、鬼だったのかシュットラウルさんが廊下を駆けて来ていたけど……身なりが良く、それなりの年齢のオジサンが、喜々としている様子は中々変な気分だった。
見た目だけなら、ユノって小学生くらいだからなぁ……何も知らずに街角とかで見かけたら、完全に事案に見えていただろうと思う。
実際は、シュットラウルさんに本当に襲われても、ユノなら返り討ちにできるんだけど。
「それじゃ、食堂に行こうか」
「キューだわー、キューを食べるのだわー」
「キューばかりじゃなく、他の料理も食べるんだぞ?」
「もちろんだわ。料理はキューを引き立たせる脇役なのだわ。キューが主食で、おかずが他の料理なのだわ」
部屋に荷物を置いて、頭にくっ付いているエルサを撫でて声を掛けながら、食堂へ向かう。
キューが好き過ぎるエルサは、頑張って料理を作ってくれた人を落ち込ませそうな事を言っていた。
料理もちゃんとキューに負けず劣らず、美味しいんだけどなぁ。
「あ、リクさん。おかえりなさい」
「ただいま、モニカさん。ソフィーやフィネさんも。大丈夫だった?」
「問題ない。特に危険な事はなかったからな。魔物とも遭遇したが、ゴブリンやホーンラビット程度だ」
食堂に入ると、先に来ていたモニカさんに迎えられる。
ソフィーやフィネさんも一緒だ。
近くで、待機しているんだろうメイドさん達も、俺に向かって会釈している。
「ゴブリンやホーンラビットなら、モニカさん達が怪我をする事もないか」
ゴブリンは、ヘルサル防衛戦の時に散々戦ったし、上位種だったり数が多過ぎたりしなければ簡単に対処できるだろう。
特に、エアラハールさんから訓練を受けているモニカさん達ならね。
ホーンラビットは、最弱とも言われるウサギみたいな魔物……初めて魔法を試す時、ヘルサルの北側で見かけたっけ。
確か、ほぼ危険はなくて子供でもやろうと思えば倒せるくらい、って魔物だからこちらもモニカさんやソフィーが怪我をするような相手じゃない。
「まぁ、何事にも油断をしては、大きな怪我をする危険があるがな。エアラハールさんの受け売りだが」
「ははは。エアラハールさんは、油断はするな。だが加減は見極めろ……だからね」
エアラハールさんから訓練を受けている時、何度か言われた事なんだけど。
どんな相手でも、侮って油断をしたら大きな怪我につながる可能性があるから、どれだけ相手との力量差があったとしても、絶対に油断はするなって言っていた。
ただ、全てに全力で挑むわけにもいかないから、加減はしろとも。
油断はしちゃだめだけど、加減はしろっていうのは結構難しい注文だ。
でも、長く冒険者をやっていたエアラハールさんは、油断で命を落とす冒険者を見て、さらに常に全力で戦って長期戦で大量の魔物と戦い続けることができず、途中で力尽きた冒険者も見てきたらしい。
いつも飄々としていたり、冗談半分やふざける事のあるエアラハールさんには珍しく、その話をする時はどこか寂しそうだった。
おかげで、凄い説得力があったんだけどね。
……話し始めた時は、加減をと言う部分を聞いて俺に対する注意かな? とも思ったけど、すぐにそんな考えは打ち消した。
「それで、調査の方は……その前に、夕食にしようか。食べながらでも、食べた後でも話はできるから」
「そうね。――すみません、ユノちゃんを呼んで来てもらえますか?」
「畏まりました」
怪我がなくて良かったとの安心とともに、調査の進捗を聞こうかと思ったけど、まずは夕食が先だ。
頭の上でエルサが、さっさとしろと言わんばかりに手でポスポス叩かれていたからね。
モニカさんが、後ろに待機してくれていたメイドさんに声をかけ、ユノを呼ぶようにお願いする。
メイドさんや執事さん達、宿内だけだけどそれぞれ一人一人に専属がいて、俺の後ろには農地でも一緒でさっき迎えてくれた執事さんが控えてくれている。
歩き回って疲れているだろうに、一切表情に出さないのはすごい。
でも、俺達相手にそこまでつきっきりにならなくてもいいから、ちゃんと休んで欲しいとも思う。
メイドさんにお願いしたモニカさんも、ソフィーやフィネさんも、慣れないのか微妙な表情をしていたりするし。
いや、ありがたいのは間違いないだけどね。
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