第1002話 足下から襲い掛かる脅威
「リク様、私達もヒミズデマモグの討伐に協力します」
「私もです~」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「はっ!」
「はい~」
ヒミズデマモグが地中を移動した場合の、位置把握方法を考え出して、いざ向かおうと思ったらアマリーラさんとリネルトさんが参戦表明。
正直、これからやろうとしている事は俺一人でやるのは、ちょっと苦労するだろうから助かる。
二人に頷いてお礼を言い、こちらからもお願いするとい威勢よく頷く二人……リネルトさんは、間延びした返事だったけど。
「……やっぱり、誰かが接近したのはあの触角でわかるみたいですね」
「警戒し、発見したら地中を移動して襲い掛かるのでしょう。どうしますか?」
二人と一緒に、ジリジリとヒミズデマモグの触角が出ている場所に近付くと、ゆらゆら不自然に揺れていた触角がピタリと止まった。
心持ち、俺達に向かって触角の先を向けているようにも見える……ほんの少しの変化だけど。
何者かが近付いていると察知して、警戒しているんだろう。
「さすがに、地中に剣を突き刺しても届きそうにありませんし、このまま近付いても警戒されているでしょうから、そうですね……」
剣を突き立てたとして、ヒミズデマモグの体がどれくらい深く潜っているかもわからないので、届くかどうか微妙なところだ。
それは、アマリーラさんが持っている槍でも同様だろう。
やっぱり、引っ張り出すしかないかな……。
「とりあえず、アマリーラさんとリネルトさんは走って近付いて下さい」
「でも、そうしたら警戒しているヒミズデマモグは、深く潜って行ってしまうのではないですか?」
「現状で既に警戒しているので、気付かれずに近付く方法がありません。まずは潜らせて、こちらに襲い掛かろうとする瞬間を狙います。俺は、探知魔法で動きを探りますので」
「わかりました、リク様に従います。――リネルト、行くわよっ!」
「了解しました~。リク様、活躍したら褒めて下さいね~」
「えっと……はぁ、わかりました……」
まずヒミズデマモグを潜らせて、そこから……と考える俺に頷き、リネルトさんに声をかけて駆けだすアマリーラさん。
そのアマリーラさんに追従しながら、妙な事を言いだすリネルトさん。
声色と尻尾が振られているから、嬉しそうなのは間違いないんだけど……褒めるのは二人を雇っているシュットラウルさんの仕事じゃないだろうか?
まぁいいけど……明らかに俺より年上の女性を褒めるのは微妙な感じがするけどね。
ともかく、二人がヒミズデマモグの触角に向かっているのを見送りつつ、探知魔法を使用。
遠くの反応は完全に無視して、俺から見える範囲の近場の反応に集中する。
「早速、こちらの動きを察知して潜ったみたいだね……」
「リク様~、触角が消えました~」
「はーい、ちゃんと反応を見ていますから、大丈夫ですよー! 二人は、そのまま周辺を警戒しておいて下さい! 逃げるのでなければ、必ず触角が地面から出てくるはずなので!」
「了解しました!」
ヒミズデマモグは、アマリーラさん達が近付きそろそろ槍が届きそうな距離に迫った辺りで、地中に触角を引っ込めた。
探知魔法では、地中深くまで探れないので現在どこにいるのかわからないけど、出てくるために地表近くまで来るか、触角を出せば必ず場所が特定できる。
集中して、その瞬間を逃さないように……。
「……出て、来ませんね」
「逃げた可能性もありますけど……もう少し待ってみましょう」
「う~、私の活躍~」
キョロキョロしながら、お互い一定の距離を保って周囲の警戒をするアマリーラさん達。
当然視線は遠くを見ているわけではなく、地面に注がれている。
探知魔法に集中し、体感で十分近くが経ってもヒミズデマモグの反応はない。
警戒させ過ぎて逃げたかな? という考えも思い浮かぶけど、念のためもう少し様子を見る事にする。
「さすがに、走って近寄ってもらったのは失敗だったかな?」
もしかしたら、ヒミズデマモグが必要以上に警戒してしまって、どこかへ行った可能性はある。
その場合は、地面の土に対して魔法を使って穴を掘って、確かめてみた方がいいかもね。
「うーん……っ! アマリーラさん、足下です! 避けて!」
「っ! はいっ!」
「JYAAAAAA!!」
やっぱり逃げたかな? そう考えて周辺の安全を調べる方法を考え始めた時、アマリーラさんの足下で魔力反応を感じた。
急速に上がってくるような反応だったので、急いでアマリーラさんに叫ぶ。
俺の声を聞いたアマリーラさんが、その場で数メートル離れた場所に飛び、地中からヒミズデマモグの姿が現れた……一瞬で数メートルも飛べるアマリーラさんの身体能力が凄いのは、獣人だからと考えておこう。
ともかく、雄叫びをあげながらヒミズデマモグが口を開けて出てきたのは、足下から吸収して咬み付くためなんだろう。
「よし、出てきた! はぁ!」
「私も行きますよ~! てやぁ~!」
勢いのまま、人間の身長くらいの高さまで体を出したヒミズデマモグに、剣を抜いて駆け込む。
横から、リネルトさんが気の抜ける声を出しながら、同じく剣を持って駆け込んできている。
体を出したヒミズデマモグ、これでまだ半分くらいなのか……ヒミズデマモグの見た目は、アマリーラさんから聞いていた通り、短い前足が外側を向いて鋭い爪、鼻が突出してモグラなら目があるであろう場所から、数メートルに及ぶ緑色の長い触角が生えていた。
正面から見ていないので、本当に目がないのかはわからないけど、大きさはともかく形は完全に俺の知っているモグラそのものだった。
「硬い……いや、柔らかい!?」
「槍が通りません~」
「リク様、ヒミズデマモグの体毛は外側は硬く、内側が柔らかくなっていて刃物を通さぬ鎧になっています!」
「それ、できれば先に聞きたかったかなぁ! っ!?」
「飛んだ~!?」
ヒミズデマモグの体に、剣を横薙ぎにして斬り裂くっ! と想像していたら、俺の振った剣は分厚い体毛に遮られて途中で止められる。
リネルトさんが突き出した剣も、体毛の中に入り込むのが難しくて止められているようだ。
アマリーラさんからの追加情報に、ちょっと愚痴っぽく叫びながら、ヒミズデマモグの触角がリネルトさんの方に向いたのが見えた。
まだ地中に埋まっている後ろ足の力だろうか、一気に空に向かって飛び上がり全身をあらわにしたヒミズデマモグは、頭から地面に向かって落ち始める……その先にはリネルトさんが……。
「JYAAA!!」
「危ない、リネルトさん!」
「ひあ~!」
出て来た時と同じく、口を開けてリネルトさんに向かうヒミズデマモグ。
持っていた剣から手を離し、リネルトさんに飛びついてヒミズデマモグの口から逃す。
間の抜けたリネルトさんの声と、何やら柔らかい感触を感じたけど、今はそれどころじゃない。
間一髪、飛びついた俺の足近くをヒミズデマモグが通過し、咬み付きからは逃れられたようだ。
そのまま俺は、リネルトさんを押し倒すような形で地面に倒れ込む。
あの勢いと体勢だ、鼻先から地面に激突するはずだし、何かしらのダメージが与えられているといいけど……。
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