第1003話 やっぱり力任せのリク
「はぁ……なんとか大丈夫だったみたいですね。っとと、すみません」
「は、はい~。ありがとうございます~」
「リネルト! リク様に協力する私達が、足手まといになってどうする!」
「まぁまぁ……ってヒミズデマモグはもう地中に潜ったのかぁ。早いですね」
リネルトさんを押し倒す形になっていたので、慌てて飛びのく。
立ち上がるリネルトさんは無事なようだけど、駆けてきたアマリーラさんに叱られてしまった。
話には聞いた事があっても、初めて戦うのだから仕方がないと思うけど……アマリーラさんを宥めながら、ヒミズデマモグが地面に激突したはずの場所を見る。
そこには穴を掘って埋めたような跡はあったけど、穴その物どころかヒミズデマモグの影も形もなくなっていた。
絶対鼻から地面にぶつかったはずだけど、もしかして鼻先でも土を掘ったりできるんだろうか?
リネルトさんに気を取られた一瞬で、巨大な体を潜らせたうえに穴を塞ぐなんて……。
「あのように飛び出て標的を狙い、すぐに地中へ潜るので、罠を張っていないと戦うのが困難なのです。突発的な遭遇をした場合、最悪だと誰かを囮にという事もあると聞きます」
「誰かを囮……」
確かに厄介な魔物だね、ヒミズデマモグに関する情報があっても、罠の用意とかがなければ確かに苦戦するのは間違いない。
だからといって、誰かを犠牲にするのは嫌だ。
「もう、深く潜っているみたいですね。近くに反応はありません。もう一度、とにかく警戒しておいて下さい」
「はっ! 囮になるつもりで、周辺の警戒に当たります!」
「囮はやですよ~、でも褒めてもらうために頑張ります~」
「いや、さすがに囮にはしませんけど……」
「リク、さっさと片付けるのだわ」
落とした剣を拾いながら探知魔法を再び使い、周辺を探っても最初と同じようにヒミズデマモグの反応はない。
アマリーラさんの意気込みはともかく、二人を囮にするつもりはないので、それを言おうとしたら頭にくっ付いているエルサに遮られた。
リネルトさんに飛びついたりしたのに、よくくっ付いたままでいられるなぁ……接着剤でも付いているんじゃなかろうかと思う程だ。
「そう言われてもなエルサ、地中にいる魔物だから出て来ないとこちらから何もできないし」
「引きずり出せばいいだけなのだわー。なんなら、やるのだわ? 辺りが滅茶苦茶になるのだけどだわ」
「いや、さすがに滅茶苦茶になるのはな……」
エルサが代わりにやろうと言い出すけど、さすがに滅茶苦茶にされるのはごめんだ。
ほとんど人が来ないような場所ならともかく、結界で包んだ農地と村の間だし、景観が大事とは言わないけど人が通れるくらいにはしておきたい。
まぁ、土の魔法を使えば整備できるかもしれないけど……範囲が広くなりそうだから、最終手段にしておこう。
「だったらさっさとやるのだわー。そしておやつにするのだわー」
「結局キューを食べたいだけか……それでこそエルサだけど。でも、引きずり出すか……」
土の魔法を上手く使えば、ヒミズデマモグを引きずり出せるかな? いや、俺のイメージが貧困なせいで地中に潜っている魔物を引きずり出せルやり方が思いつかない。
できるのは、土を固めたり柔らかくしたり、穴を作ったりするくらいかな……全部、地中を自由に移動できるヒミズデマモグには有効そうには感じない。
うーん……。
「とにかく、今は地中を動いているはずのヒミズデマモグに集中しないとな。なんにせよ攻撃対象にされているから、油断すると地中から襲われてしまうし……俺はともかく、アマリーラさんとリネルトさんには危険だ」
エルサを撫でて早くしろと言われるのを宥めつつ、探査魔法に集中してヒミズデマモグの動きに注意する。
相変わらず、地中深くに潜っているためか、反応はないけど……出て来ようとした時に早く察知できるほど、こちらにも避ける余裕ができる。
……うん?
「避ける必要、ないんじゃないか……?」
アマリーラさんやリネルトさんはともかく、俺は避けなくても多分大丈夫……多少鋭いくらいの爪や牙だとしても、怪我をする事は少ない。
俺自身、リネルトさんにヒミズデマモグが向かった時のように、頭上から飛び込んで来られると多少の痛みを感じるかもしれないけど、脅威には感じなかった。
多分だけど、これは多少戦い慣れて感覚が掴めたって事なのかもしれない……違うかもしれないけど。
ともかく、アマリーラさん達の方へ行ったら即座に反応し、俺の所に来たら避ける必要はないので何かしらできそうだ。
「って考えているうちに……! 今度はリネルトさんの足下です!」
「きゃ~!」
「わざとらしい悲鳴をあげないで! リク様!」
「アマリーラさんは、ヒミズデマモグが出て来たら槍で攻撃を! 俺は引きずり出します!」
「はっ! って、え? 引きずり出す?」
地中から上がってくる、ヒミズデマモグのものと思われる魔力反応……俺の所に来てくれたら良かったんだけど、次に狙ったのはリネルトさんだったようだ。
もしかしたら、先程攻撃が避けられたのが悔しかったのかも? 悔しいという感情があるのか知らないけど。
ともかく、すぐに飛びのいてもらうよう叫んで、アマリーラさんにも短く指示を出す。
俺の言った事に、アマリーラさんが首を傾げたような気がしたけど、今は説明している暇はない……ヒミズデマモグが飛ぼ出す前に捕まえないと!
「よし! んっ……どっせい!!」
二度目という事もあって、探査魔法からの反応に慣れていたおかげで先程より速く動き出せた。
剣を鞘に納めながら、リネルトさんが飛びのいた場所に駆け込んで、地中から伸びてきた触角を両手で掴む。
それをそのまま、ヒミズデマモグから抜けてしまわないように願いながら、力任せに引っ張った!
「ええええええ!?」
「ふえ~!?」
「JYAAAAAAA!?」
「よし、出てきた!」
「引きずり出せとは言ったのだけどだわ、これは何か違うのだわ……力任せなのは、リクらしいのだけどだわ」
飛び出そうとしていたのもあって、地中から土を巻き上げながら簡単に体を晒すヒミズデマモグ。
ただし、俺が触角を掴んでいるし真っ直ぐ上に出すわけじゃないので、開いた口は俺の横を通過……後ろ足も含めて全身が土から出て来る。
「あ……アマリーラさんすみません!」
「えっとー、あー、うーんと……とにかく、今がチャンスですね!」
ただ、力を入れ過ぎたのか、体が全部出てきた事への油断か、両手で握っていた触角がすっぽ抜けてしまった。
形としては、芋を引っ張って地中から引っこ抜いたのに、勢い余ってそのまま空へ投げ飛ばしてしまった感じだ。
しかも、誰もいないところとは言え俺が掴んでいた影響もあって、触角のある顔が地面い向いて落ちていく……このままだと、先程のようにまた潜られてしまう。
そう考え、疑問に首を傾げたり引きずり出した事に驚いていたりしながらも、こちらに槍を持って走り込んできていてアマリーラさんに謝った――。
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