第978話 センテでも異変



「しかし、このタイミングでソフィーだけでなくリク様が来られたのも、何かの導きかもしれんな……」

「ん? ギルドマスター、何かあるのか?」

「いや、これと言ってはっきりとした事じゃないんだが……最近、この街の南側の魔物が少しだけ多くてな。魔物の増減というのはあるから、特に珍しいというわけではないのだが……この辺りには珍しい、マギアプソプションを見かけたとの情報もあってな」

「マギアプソプションが?」

「あぁ強くはないが、少々珍しい魔物だから気になってな。しばらく前にヘルサルに集まっていたと聞くが、そこから流れて来ただけなのかもしれないから、なんとも言えないんだ」


 ソフィーと話すベリエスさんが、街の南に魔物が増えていると言う。

 最近の出来事を考えると、もしかしてまたツヴァイやクラウリアさんがいた組織の関与が思い浮かぶ。

 ヘルサルにも近いし、ゴブリン達も仕組まれていた事だと判明しているので、こちらでも何かを企んでいてもおかしくない。


「農地などに被害は?」

「今はほとんど出ていない。ギルドから冒険者に依頼を出して討伐もしているからな。増えたり珍しい魔物が確認されていると言っても、対処できない程ではない」

「そうですか、それは良かった」


 ソフィーの質問に答えるベリエスさんの言葉に、ホッとする。

 センテにいる冒険者で対処できるのなら、ルジナウムのように強力な魔物がいたり、異常とも言える数が集結している段階ではないんだろう。


「だが……気になるのは、日に日に数が増えているように感じる事だな」

「増えている……?」

「あぁ。依頼を受けた冒険者が毎日討伐に向かうんだが、そこで目撃した、または討伐した魔物の数が増えて行っている。冒険者達が無理をしたり、行動範囲を広げたわけではないから、南にいる魔物が単純に増えているのだろう。増えている数は微々たるものなんだが、討伐に向かった冒険者全て魔物の盗伐数が増えているんだ」

「全て……それはおかしいな……」

「そうだね、ソフィー」


 魔物だって移動するし、常に同じ場所に現れるわけじゃない。

 それに、毎日討伐しているのに数が減るどころか増えているなんて、どう考えてもおかしい状況だ。

 通常なら討伐して数が減り、しばらくしてまた魔物が集まったり増えたりして……と間を置くはずなのに。

 ルジナウムのように、他の場所から魔物が集結しているとかだろうか?


「どこかから、集まって来ているといった事は報告されていませんか?」

「いえ、それはほとんどありません。マギアプソプションなど、センテ付近では見かける事の少ない魔物が来ている、というのはありますが……自然発生的に魔物が現れているようです」

「自然発生……魔物だって生き物だ。一部を除いて成長過程がない事が多いが、繁殖しているにしてもおかしい」


 人間やエルフ、獣人などの種族は寿命などの違いはあれど、当然ながら生まれてから大人になるまで成長過程というのがある。

 まぁ、赤ん坊から体が成長して大きくなって……という感じだね。

 でも一部同じような成長過程を辿る魔物はいるらしいけど、ほとんどが生まれながらにして既に完成されているんだ。

 人間に例えると、生まれつき大人の状態で生まれて来るって感じかな。


 ユノに聞いてみないとわからないけど、これはユノが作った種族なのか、破壊神が作った種族なのかで差が出ているんじゃないかな? なんて考えている。

 まぁ、今はそんな事を話している場合じゃないけど。

 とにかく、殲滅とは言わないまでも毎日魔物を倒しているのに、数が減るどころか増えているというのはどう考えてもおかしい。

 他の場所から来ているわけでもないのに……繁殖するにしたって、さすがに一日で数体の魔物から数十に増えるなんて事もないはずだ。


「リクさん、これって……?」

「はっきりとは言えないけど、もしかするとクラウリアさん達がいた組織が拘わっているのかもね」

「私もそう思います、リク様」


 隣にいるモニカさんから聞かれ、頷いて答える。

 フィネさんも頷いているし、皆同じ事を考えているんだろう。

 不自然と思える状況だから、可能性として思い浮かぶのも当然だろうね……今までもそうだったんだし。


「ヘルサルやエルフの村、王都やルジナウムに続いてセンテか……重要拠点を狙っているのだろうな」


 王都は言わずもがな、ヘルサルは人口の多い街でルジナウムは北に鉱山を要する街、エルフの村は魔法関係の知識を持っているし、魔法具の制作も頼っている。

 センテは周囲に広大な農地があり、作物の集積場となっているので国全体の食料に拘わっている。

 どれもこれも、重要拠点と言える場所だ。


「ベリエスさん、他に何か違和感というか気付いた事はありませんか?」

「そうですな……魔物達が南側に集中している事でしょうか。通常、自然的にであれ不自然にであれ、魔物が増えれば他の場所へ移動する事もあります。まぁ、迅速に討伐をしているので、魔物達の移動する猶予がないだけとも言えますが、他の場所で魔物が増えているという報告はありません」

「一定の場所に集中している。やっぱりルジナウムと一緒かな?」

「この話だけを聞いていると、確かにそう思えるわね。ただ、あちらと違って強力な魔物がいないのよね……」

「それに、他の場所から来ている魔物は少ないようだ」


 同じ場所に魔物が留まる……と考えて、ルジナウムでの事が思い浮かんだ。

 けど、モニカさんとソフィーはちょっと違うと考えているようだ。

 確かに、ルジナウムと一緒だったら強力な魔物を他の場所から集結させていたから、魔物が発生しているとは繋がらないか。

 ……どちらかと言えば、エルフの村での事に近い……かな?


「ベリエスさん、討伐された魔物の中にサマナースケルトンはいませんでしたか?」

「いや……サマナースケルトンの目撃情報は報告されていないな。一応、討伐以外にも魔物の調査をする依頼も出しているが、そちらからも報告がない」

「そうですか。だったら別の方法か……ベリエスさん、もしかしたらですけど……」


 エルフの村では、サマナースケルトンが魔物を召喚していたから、他の場所から移動する必要はなく、自然派生に近い形で魔物がどんどん増えていた。

 状況的にそれと同じかな? と思ったんだけど、発見報告はないらしい。

 ともあれ、はっきりとした誰かが仕組んだ異常かはわからなくとも、情報を共有して危機感を持った方がいいと考え、ベリエスさんに組織の事を伝える。

 ベリエスさん自身は、冒険者ギルド同士での情報共有でルジナウムやブハギムノングで起こった事は知っており、組織の事や冒険者の中でも繋がりを持っている人物がいるかもしれない……というのを知っていた。


 まぁ、それらの事を一応解決させたのが俺でもあるから、さっきこのタイミングで俺が……なんて言ったらしい。

 そりゃまぁ、あれだけの事があったら冒険者ギルド間でも、情報共有くらいはするか。

 ヤンさんやマティルデさん達も、知っていた事だしね――。



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