第951話 姉からの反対
モニカさん達も練習を切り上げたんだし、新兵さん達に挨拶して夕食のために部屋へ戻る事にした。
エルサの騒ぐ声に促されて、皆でヒルダさんのいる訓練場の出入り口へと向かう。
ヒルダさんから声をかけて来ない事を考えると、少し余裕がありそうだし、急な用事とかではないはずだけど、あのまま待機してもらうのも悪いからね。
……あと、決してケチだからキューをあげなかったとかではない。
冒険者ギルドからの帰り道で、ちゃんとキューをあげて食べさせていたし……。
「……というわけで、冒険者ギルドからクランを作らないかって持ち掛けられたんだ」
「成る程な。クランを冒険者が作るのは聞いた事がある。アテトリア王国では、冒険者ギルドと連携をしているからほぼいないようだが……まぁ、国側から働きかけたり冒険者を利用するとかではなく、情報交換程度はしていて、役割分担をする程度ではあるが」
用意された夕食を食べながら、訓練場でやっていた次善の一手の話や、マティルデさんからクランの話をされた事を姉さんやエフライムに話す。
エアラハールさんは訓練場から戻った時には、すでに起きて町に行ったらしいからこの場にはいないけど、持って帰った魔法具を見ているらしいアルネ以外、フィリーナも含めて皆がいる。
次善の一手の話は、日頃の兵士訓練の合間に課す事で兵士さん達の能力を底上げする案として、姉さんとエフライムは概ね歓迎してくれた。
「ギルド側も思惑があるのだろうが、戦争にしろなんにしろ、リク達が戦力になるのは心強いな。それに、ギルドとの問題も内容であれば尚更だ」
「ははは、まぁクランを作る事に決めて、参戦するならだけどね」
「……」
「姉さん?」
クランの話に、エフライムは聞いた事があったようで、頷いて歓迎する様子。
とは言っても、まだクランを作るとは決まったわけじゃないし、そのための相談として話しているんだけど、エフライムは賛成のようだ。
そんな中、夕食を食べ終わった姉さんが腕を組んでジッと何かを考えている。
いつもなら、こういう話には前のめりに参加するはずなんだけど……何か気になる事でもあるのだろうか?
「……りっくん」
「何、姉さん?」
目に力を込めているのか、真剣な視線を向けて俺を呼ぶ姉さん。
この場には、俺や姉さんの事情を知っている人達しかいないので、お互い気を付ける必要もなく、以前からの呼び方をする。
「私は反対よ。りっくん達が、協力してくれる方法を考えてくれているのは嬉しいけど……」
「姉さんは、俺がクランを作るのに反対なんだ……まぁ、確かに俺がクランを作って人をまとめるのは、向いていないかもしれないけど」
昔から俺の事を知っている姉さんからすると、クランとかを作って俺が人をまとめたりするのには向いていない……とか考えていてもおかしくないかもね。
俺自身、モニカさん達と一緒のパーティを組んで、リーダーを任されているのですら不向きだと思っているくらいだから、近くで見てよく知っている姉さんからすると、特にそう感じるんだと思う。
数人くらいなら背伸びをしてなんとかだろうけど、十人……十数人や数十人と数が多くなっていくごとに、人をまとめる事の難しさが増すだろう。
「……いいえ、そうじゃないわ。クランを作るのがりっくんに向いているとか向いていないとか、そういう事じゃないの。それに、クランを作る事そのものに反対するわけじゃないわ。りっくんにもいい経験になるだろうし、ここにいる皆以外にも慕われている様子を見れば、むしろ向いているとさえ思うわ」
「え……それじゃ、何に反対なの姉さん?」
「……戦争よ」
「戦争……つまり、俺がクランを作って戦争に参戦する事には、反対って事?」
「えぇ……」
厳しい目を向けて頷く姉さん。
この視線はまだ日本で姉さんといた頃に、何度か向けられた覚えがある。
俺がいたずらしたのを叱る時、遊びたくて勉強を嫌がっていた時などなど……俺に対して何かを諭したり教えたりとかに向けられていたと思う。
大体は、教育というか俺を成長させるためだったはず……まぁ、それもあって姉さんに逆らえない弟ができ上がった要因の一つでもあるんだけど。
「ですが陛下、冒険者が参戦してくれれば、戦力の向上に繋がります。冒険者は魔物との戦闘経験も豊富なので尚更です。それに、リク達がいてくれれば魔物だけでなく、帝国の軍勢も蹴散らして……」
「黙って……いや、黙れエフライム」
「は……はっ! 申し訳ありません……」
参戦に対して反対な姉さんを説得するためか、俺が冒険者を集めたクランとして参戦した場合の利点を話すエフライム。
しかし、途中でその話を遮った姉さんがエフライムを睨み、女王様モードになって強く言葉を止めさせた。
俺の部屋でリラックスした状態の姉さんなら、それでも話せたんだろうけど……覇気というのか、女王様モードになった姉さんから迫力のようなものを感じる。
エフライムはそんな姉さんに押されて、一瞬戸惑った様子だったけど、すぐに頭を下げて引き下がった。
「……」
急な女王様モードに、静まり返る部屋の中。
しかもイライラというか、不機嫌な様子にまでなっているので誰も発言できない。
まぁ、目の前で女王陛下が不機嫌そうにしながら眉根を寄せ、威圧感のようなものを発していたら、こうなるのも当然か。
……こういう時、話せるのは俺くらいだろうなぁ。
あんまり気は進まないけど。
というより、姉さんがどうして反対して、不機嫌になっているのかがわからない。
エフライムの言う事はもっともで、冒険者は魔物と戦う事が多いため兵士達よりも経験豊富なのは間違いない。
そもそも、帝国が魔物を使う可能性を考えた際に、冒険者と協力できないか……みたいな事も考えていたのに……いやまぁ、俺が含まれるからの反対なんだろうけど。
とはいっても、俺やモニカさん達、ユノやエルサも加わる事でかなりの戦力になるのは間違いないはずなのに……今更、俺一人加わってもほぼ戦力にならない、なんて言う程ボケてはいない。
……自覚するのが遅すぎる、というのもまぁ……うん。
「ね……いえ、陛下。反対する理由を、教えてもらえませんか? その……エフライムの言葉ではありませんけど、協力する事で助かる人が多いと思うんです」
誰も言葉を発せられないので、仕方なく俺が代表して姉さんに聞く。
聞きたいのは皆同じだろうから。
クランを作るべきかどうかを迷う俺に対して、姉さんは参戦する事に反対……そもそもクランを作らなくても、俺は参戦する方向で考えていたから、クランは関係なく理由を聞いておかないとね。
「そうだな、話しておかないといけないか。いや……すー……はぁ……そうね。りっくんには話しておかないとね。ヒルダ、エフライム。モニカちゃん達もだけど……ちょっとりっくんと二人で話したいから、席を外してくれるかしら?」
「畏まりました……」
厳しい視線の姉さんを見返す俺に頷き、深呼吸して女王様モードからリラックスモードになった姉さん。
まだ、少しだけ余韻というか、覇気のようなものは残っているけど……これは厳しい表情を姉さんが崩していないからかもしれない。
ともかく、俺以外の人の退室を促す姉さんに、ヒルダさんやエフライム、モニカさんやソフィー達も頷いて、部屋を出て行く。
皆夕食を食べ終わっていたので、宿に戻ると言ってユノも連れて行ってくれた――。
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