第950話 ドラゴンも恐れる力任せ魔力任せ
魔法の失敗と同じように、魔力の扱いを間違えたのかな? なんて考えつつ、エルサの話を聞くと本当にそうだったらしい。
剣に這わせた魔力は、可視化されるくらいの量でしかも練られていたらしい……ついつい集中するあまり、加減せずに魔力を放出していたようだ。
そういえば剣を振る前に確認した時、確かに魔力が剣を覆うようになっているのが『見えて』いたっけ。
考えて見れば、魔力が目に見える事なんて魔力量が多い事に違いないから、その時に気付くべきだったなぁ……魔力探知でも、見るのではなく感覚でわかる感じだし、そもそもさっきは使っていなかったからね。
「結局、力任せと変わりないのだわ。ユノが言っていた次善の一手っていうのは、武器の質を多少上げる程度……なのにリクは異常な魔力で、剣を異常な状態まで押し上げたのだわ。……どうやったら、そんな剣でこれだけ滑らかに斬れるのか、私でもできないのだわ。武器を使う気はないのだけどだわ」
「まぁ、エルサの手だったら武器を持つ事はできても、振るのは難しそうだからね。それはともかく、魔力が多過ぎたのかぁ……いつも使っている剣とは、どっちがいいんだろう?」
「魔力的にも性能的にも、私が見る限りは大差ないのだわ。使いやすい方を使えばいいのだわ」
「そうなのか……じゃあ、わざわざ自分で魔力を操作する必要がない、これまでの剣の方が楽に扱えるね」
どれだけの魔力を使ったのか、あまり自覚がないため次善の一手を常に使うのと、これまでのように魔法具の剣を使うのではどちらがいいのか聞いてみると、あんまり変わらないみたいだ。
それなら、意識的に魔力を使う必要がない方が、剣を使う事そのものに集中できるから、今までの剣の方が良さそうだね。
これまでの……あの呪いとも言われている黒い剣に、次善の一手のように魔力を這わせたら……とも一瞬考えたけど、ワイバーンすらスパスパ斬れる斬れ味をさらに強化しても、特に意味がないのですぐに考えを打ち消した。
頑丈さも十分過ぎる程だし、魔力の無駄になるだけだろうからね。
「やっぱり、リクは私達の基準で考えない方がいいな……」
「ん、ソフィー? モニカさん達も?」
いつの間にかうしろに来ていたソフィーが、呆れたような声音で言う。
振り向くとソフィーだけでなく、モニカさん達全員がいた……少し離れた場所では、新兵さん達がこちらを見ていて、結構注目されていたのだと今更ながらに気付く。
まぁ、剣に可視化される魔力を這わせるなんて事をやったら、気にされるのも仕方ないか。
「ソフィーの言う通りね。一回で成功させるなんて……魔力量に任せたやり方みたいだけど。――エルサちゃん、大丈夫?」
「なんとか大丈夫なのだわ。後ろに転がるのがあと一歩遅ければ、良くて吹き飛ばされる、最悪の場合は毛を刈られたうえに怪我をしていたのだわー」
「……よっぽど危険だったのですね」
「ドラゴンにそうまでできるのは、リクくらいなの!」
「いや、ユノも前にエルサの毛を剣で斬っていたじゃないか。というか、皆来たんだね。次善の一手の練習は?」
モニカさんが鞘を取って横に置き、エルサを抱き上げる。
うーむ……俺自身集中していたからよくわからなかったけど、以前ユノがエルサに対して剣を振った時と似たような状況だったらしい。
とりあえずユノは、自分の事を棚に上げるのは止めような? あの時エルサは何度も悲鳴を上げていたからね?
まぁ、今回とあの時だったら、どちらが危険だったかは大差ないんだろうけど……エルサが油断していた分、今回の方が危険だったかな?
とりあえず、モフモフが損なわれるのは世界の損失でもあるはずなので、今後は気を付けよう。
「とりあえずは、なんとなく感覚が掴めたってくらいかしら」
「そうだな。まだまだ咄嗟には使えないだろうし、実際に私やモニカは魔法具の武器だからな。これから練習していく必要がある」
「でも二人共、私が聞いて試した時より、感覚を掴むのが早いですよ。魔法具や、魔法を使っているのもあるのかもしれません」
「成る程ね。まぁ、俺はまだしも、モニカさんやソフィーもフィネさんも、練習していく必要があるんだね」
「そうね。まぁ、私達が感覚を掴むのが早いとしたら、多分今までリクさんを近くで見ていたからかしら?」
「俺?」
モニカさんもソフィーも、まだ実用できるという程でなくとも、ある程度感覚はつかめたらしい。
フィネさんも二人を褒めているから、魔法具や魔法を使っていると感覚がわかりやすいのかもしれない。
そう思っていたら、モニカさんは俺の近くにいたからだとの事。
あんまり関係ない気がするんだけど……?
「リクさん、魔法を使う時に散々可視化された魔力を放っていたからね。それを見ていて、魔力って目で見るとあんな感じなんだ……ってわかっていたから」
「おかげで、自分が魔力を操作する時も、感覚というか考えやすかったのはあると思う」
「あぁ、成る程……」
魔力って、空気が流れていない場所での湯気みたいに、モワァっと広がる不定形のものだからね。
探知魔法や魔力を練るとかで、ある程度魔力の扱いに慣れている俺は別として、そういった魔力の動きを見ていると見ていないのでは、勝手が違うんだろう。
フィネさんの前では、魔法を使って可視化された魔力をあまり見せていないから、長く一緒にいて見ていた分、モニカさんとソフィーが有利って事かな。
どちらにせよ、結局は本人の資質や魔力量によって習得の速さは違っても、練習などによってある程度は使える技らしいから、最初に感覚を掴むのが早いか遅いかくらいの違いなんだろうけどね。
習熟速度も違うかもしれないけど、素振りなどの武器の扱いと同じく、日々の鍛錬によるところが大きい技と言えるかな。
「そういえば、どうして皆こっちに? モニカさんとソフィーなら、もっと練習していそうなのに……魔力を使うから、通常の訓練とは違う疲れがあるのかもしれないけど、体力的にはあまり疲れないでしょ?」
二人だったら、もっと練習して慣れておきたいと考えそうだ、と思いながら聞く。
魔力を使うから、そちらでは披露するのかもしれないけど、激しい運動をするわけじゃないから、体力的な疲れは少ないはず。
「まぁ、魔法を沢山使うとかじゃないから、魔力自体は使用量が少ないみたいだし、疲れはないわ」
「だが、そろそろ一度リクの部屋に戻ろうとな。ほら……」
「ん? あぁ、ヒルダさんが来ているんだ。だったら、夕食の準備ができたから呼びに来たとかかな?」
「夕食なのだわ!? リクがケチでおやつをくれなかったのだわ! 早く食べるのだわー」
モニカさんとソフィーが、一緒に示した先……訓練場の出入り口には、ヒルダさんがいた。
俺の視線に気付くと、会釈をしているからこちらに用があるのは間違いない。
まぁ、ヒルダさんが新兵さん達の方へ用があるとは考えづらいので、当然なんだけど。
マティルデさんの話から、次善の一手の話、そこから訓練場での練習……夕食には丁度いい時間なんだろう――。
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