第939話 クランとは一体何なのか



「とにかく、リク君は既にいくつかの大規模討伐……アテトリア王国以外ではクランで、それもさらに複数のクランで対応するような事をやっているの」

「つまり、これから先も同じような事が起こる可能性を考えて、という事ですか?」

「端的に言えばそうね。統括ギルドマスターなんてやっていると、色々な情報が入ってくるから……」


 これからも同じ事……かどうかはともかく、マティルデさんは似たような事が起きるのではないかと考えているらしい。

 まぁ、帝国だとか暗躍する組織だとかを考えたら、今でも王国内のどこかで魔物が集結を始めていてもおかしくないから、その予想は的外れじゃないんだろう。


「リク君はAランクだから、それなりに優遇される位置にいるけれど、単なる冒険者であるよりはクランを作っていた方が自由に動けるわ。クランは簡易的な、ギルドの下部組織とも言えるから……多少なりとも決定権が与えらえれるわ」

「決定権ですか……でも、クランを作る事で何が良くなるかわかりません」

「そうね……まずはクランを作る事、クランを運用するとできる事とかを話しましょうか」

「はい……」


 マティルデさんとミルダさんで、俺達にクランの事を説明していく。

 クランとは、先程も話したようにいくつかのパーティを集めた組織であり、対外的には冒険者ギルドの下部組織のような扱いになる。

 複数のパーティが集まるので、規模で言えば十数人は当たり前……他国にあるクランの最大規模では数千人もいたりするらしい。

 人数が増えれば増える程、大規模な討伐も可能になるし複数の依頼も同時にこなせる。

 しかも、クランマスターにはギルドから直接依頼を受けなくても、省略して依頼をしたい人から受諾する事も可能であり、ギルドが仲介する手数料なんかも少なくなるとか……早い話が、報酬アップにつながるわけだね。


 当然ながら、依頼に関しては冒険者ギルドへ報告する必要があるし、規模が大きくなって多くの冒険者が所属したり、同時に複数の依頼をこなしていたら報告する事が多くなったり、管理するのも必要なので、事務的な人を雇う必要もあるみたいだけど。

 そして、クランを作りクランマスターになるためには、冒険者ギルドからの信用とAランク以上である事。

 一定以上の依頼達成率がある事や、ギルドに預けているお金が一定額以上だとか普段の素行など、そこまで見なくてもいいんじゃない? と思うものまであるみたいだけど、ギルドが信頼して任せるのだから必要なのだそうだ。

 まぁ、そこらの人に任せられないのはわかるけどね。


「あとは……ミルダ、他にあったかしら?」

「そうですね、リク様には直接関係がないのかもしれませんが……。低ランク冒険者の受け皿にもなってもらえます」

「低ランク冒険者ですか?」

「はい。低ランクという事は、依頼の報酬も少ないので……生活に困窮している者もいます。そういった人を、クランの一員として面倒を見たり、別の仕事を当てがうなどもできますね。先程説明したクランから冒険者ギルドへの報告をしたり、事務作業をする人員としても期待できます」

「それは……せっかく冒険者になったのに、事務作業をやってもらっていいんでしょうか?」

「本人達が承諾すればではありますけど、ほとんどが受け入れられていると聞いています。低ランクでの生活が苦しいからというのが理由のほとんどですが……少なくとも冒険者になって数年、Dランクになれるかどうか、くらいで低迷している方は望ましい事のようですね」

「ま、いい方は悪いが、見込みがないから転職するみたいな事よね。それに、低ランクとは言え冒険者なのだから、多少の知識があるわ。ギルドの事、冒険者の事……何も知らない人を雇うよりは、教える事が少ないって寸法ね」

「成る程。確かに、ギルドや冒険者の事をある程度知っている人の方が、事務作業だとしても慣れるのは早いかもしれません」


 魔物への知識だけでなく、ギルドの規定とか依頼などの手続き方法、冒険者としての心得などを知っているから、お互いやりやすいと思う。

 何も知らない人だったら、一から全部教えなきゃいけないし……その手間が省けると思えば、低ランクの冒険者を引き受けた方が良さそうだ。

 ミルダさんも言っているように、ちゃんと本人からの承諾あってこそだけど。


「さっきも言ったように、もしこれからもヘルサルやルジナウムのように、多くの魔物が押し寄せるとなった場合、リク君が作ったクランの判断で大規模討伐に対応して欲しいのよ。まぁ、リク君一人でなんとかなっちゃう事も多いようだけど」

「いや、俺一人というか、モニカさんやソフィーもそうだし、エルサとか……協力してくれた皆がいるからなんですけどね」


 まぁ、ここにきて大した事はしてない……とは言えないのは、俺でもわかっている。

 ヘルサルやエルフの集落では、大体怒りに任せてだし、王城では兵士さん達や冒険者など多くの人に協力してもらったうえ、エルサや新しく買ったばかりの剣のおかげと考えて、自覚は薄かったけど。

 ルジナウムで、限界近くまで戦って……エルサも頑張っていたけど、ある程度自分の事を理解できてきている。


 ……モニカさん達に言ったら、今更!? とか言われそうだから、言わないけど。

 でも、皆の協力があってこそだと言うのも間違いないはず。

 エルサやユノがいなければ、魔物相手に苦労していただろうし、ルジナウムでは遠くから魔法の援護までしてくれたからね。

 あの時あれがなかったら、どうなっていたか……。


「まぁ、どう考えるかは自由よね。けど、リク君が言う通りなら、尚更他の冒険者からも協力してもらった方がいいと思うの。それに……」

「それに?」


 なぜかはっきり言わず、言いよどむマティルデさん。

 何か言いづらい事でもあるのだろうか?


「……まぁ、いいか。最近、少しだけきな臭い雰囲気が漂っている気がするのよね。何が、とは言えないしわからないけど、入ってくる情報を整理したら、もしかしたらの可能性も考えられるわ」

「もしかしたら……」

「戦争よ」

「……それは」


 帝国との関係に、薄々気付いているのかもしれない。

 まぁ、ある程度の事は話しているし、ヤンさんが気にしていたように帝国側の冒険者ギルドの事がある。

 そこから帝国が何かを企んでいるとか、戦争と言わないまでも不穏な何かを感じ取ってもおかしくはないのかもね。


「あくまで、現状は私の勘ね。入ってくる情報から、それとなく感じている事でもあるのだけど。まったく、統括ギルドマスターという立場なんて、なるもんじゃないわ。知りたくない情報が嫌でも入って来るんだから。はぁ……」

「責任のある立場なのですから、仕方ありません。私だって、ギルドマスターを補佐する副ギルドマスタ―でなければ、もっと気楽に受付とかだけしたいですし……ロ―タ君のいる村にも行きたいんです!」

「……その趣味、危険だから直しなさいと言っているのに」

「あははは……」



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