第935話 本質と量は変わらない
「ユノ、それじゃ皆に伝わらないんじゃないか?」
「んー……体内や体外に魔力を通る道みたいなものがあるの。それが、アルセイスを顕現させる時の干渉と、大量に魔力を使った事で広がったから……なの」
水道管から、言葉を変えて説明するユノ。
最後の方はちょっと自信なさそうに話していたから、ユノ自身も確証はないんだろう。
創造神様でも、はっきりわからない事があるんだなぁ……。
「つまり……?」
「アルネは今、アルセイスの干渉を受けたから、リクやアメリのように世界間移動をしたのと、似たような状況なの。それと一緒に、魔力の通る道が広がっているから、今までよりも多くの魔力が扱えるようになっている……と思うの。でも、アルネ自身の魔力量は変わっていないから……」
「調子に乗って使っていると、枯渇を招くわけか……」
「多分、そうなの。自然の魔力も集めやすくなっているから、今までより魔法に魔力を込められるの。だけど、自分で調節しないと危険なの」
つまりは、さっきユノが言ったように水道管のような魔力が通る道が広がったから、流れはスムーズだし多くの魔力を放出したりできるようになったと。
ただし、アルネの魔力量は変わっていないから、調子に乗って多くの魔力を魔法に込めていたら、すぐに枯渇してしまう。
ただし、自然の魔力を集めるのもスムーズになっているため、強力な魔法が使えるようになっている……という事かな。
「まぁ、アルネはちょっと気を付けないといけないって事ね」
「そうなの」
「その事は、同じエルフで魔力が見えるフィリーナと話し合った方が良さそうね。リクは魔力量が多過ぎるし、私やモニカちゃん達はそもそも人間だから、エルフの魔力はよくわからないわ」
「はい、陛下」
「アルネ、こっち……」
「おい……まだ話が全部終わったわけじゃないんだが……」
同じエルフで魔法や魔力への知識が豊富だし、魔力が見えるので、フィリーナと相談しながら注意して行った方がいいのは確かだ。
姉さんの言葉を受けて、アルネが頷いてすぐ、フィリーナが部屋の隅に引っ張って連れて行った。
まだ話し終わっていない事があるので、こちらの邪魔をしないよう、離れて相談するらしい。
「それでりっくん。アルセイス様と話をしたまでは聞いたけど、アルネの魔力がというだけのはなしではないんでしょ? それだけのために、エルフの神様が干渉して来るとは思えないわ。ユノちゃんが神様だっていう事は、最初から聞いていたけど」
「まぁね。ユノがアルセイス様に呼ばれて、俺やアルネを連れて行ったわけだけど……アルセイス様はユノと俺に話があったみたいなんだ」
「ユノちゃんにはわかるけど、りっくんにも?」
「うん。まぁ、俺に対しては興味からって言うのが大きかったみたいだけど……」
そうして、部屋の隅でボソボソと相談を始めるアルネ達を放っておいて、姉さんにアルセイス様と会った時の事を話す。
アルセイス様が俺を試すために圧力を掛けたり、という事はまぁ、おまけみたいなものかな。
本題は、ユノという創造神と表裏一体の破壊神。
その破壊神が帝国にいるエルフに干渉し、帝国の人間と協力させたりで何かを企んでいるだろうって事。
……まぁ、破壊神というのだし、ユノとアルセイス様との話でもそうだったけど、何かというか単純に世界の破壊的な事を考えているんだろうけどね。
「破壊神……というのは私はピンと来ないけど、神様達の話なのだからまぁいいわ。それにしても、エルフと人間が積極的に協力している、か……はっきりと一つに繋がったわね」
「そうかな?」
「えぇ。エルフは魔法や魔力に造詣が深い。そして最近こちらの国を騒がせているのは、魔力で復元した魔物などよ。魔物を集結させたりもあるけど。人間の研究だけでなく、エルフの研究も混ざっていると考えていいでしょうね。それに、エルフが協力しているのなら、帝国そのものも関与しているのは間違いないわね。まさか、破壊神とやらがツヴァイ達のようなのが所属する組織を作って、エルフと拘わらせたわけではないでしょう?」
「そう言われると、そうだね」
エルフだって個人じゃなくて、人数は知らないけどアテトリア王国と同じく集団や、集落でまとまっているはず。
そこと協力しているのだから、いち組織ではなくその後ろには帝国という国家があると考えられるのか。
単純に、エルフの集団と拘わるには国単位で動く必要がある、という方がわかりやすいか。
「これまでの推測を決定付ける内容ね。とは言っても、さすがにこれが証拠にはならないのだけど」
「まぁ、そうだよね」
アルセイス様の話が信用できるかどうか、というわけではない。
ただ単に、神様と会って話をした……って言っても、信じる人は少ないだろうという事。
本当にアルセイス様と話した、という証拠なんてないからね。
「だからここにいる皆意外だと、今エルフの集落をまとめているエヴァルトさんくらいにしか、アルセイス様の事は言っていないからね。ヴェンツェルさんやハーロルトさんは信じてくれるだろうけど……」
「私と同じ判断しかできないって事よね。推測を確定させる事はできても、結局先の事を想定して準備をするだけだから、今と変わらないのよね」
「うん。まぁ、だから誰に話すかは、姉さんに任せるよ」
「りっくんから信頼されて任されるのは嬉しいわね。とは言っても、話すべき相手も少ないわ。ヴェンツェルとハーロルトにはそれとなく伝えるとして……あとは、様子を見ながらね。もちろん、おかしな方向に進む事も考えられるから、一部以外には伝えないでおきましょう。ヒルダ、エフライム、いいわね?」
「はい。先程も申しました通り、私がリク様の話される事を外に漏らす事は致しません」
「もちろんです。……お爺様にすら、話せるか微妙な内容ですので……この場の話だけと心にとどめておきます」
誰に話していいかは、俺には判断できない部分もあるので姉さんに丸投げだ。
まぁ、モニカさん達やエヴァルトさんには話したけど、誰彼構わず話すような人達じゃないからね。
姉さんが頷き、考えた後にヒルダさんやエフライムにも確認したけど、二人共頷いてくれた。
クレメン子爵なら信じてくれるだろうし、変に広めたりはしないだろうけど……判断は任せよう。
「あ、それとエヴァルトさんに話した後の事なんだけど……」
エルフが拘わっていると、アテトリア王国に所属している集落を代表して、エヴァルトさんに謝られた時の事を説明。
こちらに関しては、姉さんも俺と同じくエルフが拘わっているからと言って、全てのエルフが敵対しているとか考える事はないようだ。
まぁ、人間もそうだけど……善人も悪人も種族関係なくいるって考えだね。
「それと……アルネ、何かエヴァルトさんから預かっていたよね?」
「ん? あぁ、そうだ。――フィリーナ、話しは後にしよう」
「わかったわ。でも、エヴァルトから預かった物って何かしら?」
集落を離れる前に、アルネがエヴァルトさんから何か物を渡されていた。
しっかりと届けるように、みたいな事を言っていたのが聞こえただけで、実際に渡されている物は見ていないんだけどね。
その事を思い出して、部屋の隅で話し込んでいるアルネを呼んだ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます