第929話 簀巻きのクラウリアさんは荷物扱い



「……荷物はともかく……いえ、そちらも荷物扱いでよろしいのでしょうか?」

「あー、こっちは人……いや、荷物とも言えるのかな?」

「自分で立てないんだから、荷物でいいんじゃない?」

「立てないのは、私達が縛ったからだがな」

「ふぬーっ! ふぬぬぬーっ!!」


 ヒルダさんが訝し気に見て聞いて来るのは、簀巻き状態猿ぐつわ付きのクラウリアさん。

 エルサは既に小さくなって俺の頭にコネクトしているので、地面に転がされてビチビチと陸に上がった魚のように跳ねていたりする。

 自力で移動できないので、荷物扱いでいいのかもしれない……。

 相変わらず、クラウリアさんには冷たい感じのモニカさんはともかく、俺やソフィーの言葉に抗議するように、鼻息が荒いクラウリアさん。

 

「あの……あれは魔力なのでしょうか? 私は初めて見ましたが……」

「あぁえっと、クラウリアさんと言って……ツヴァイと同じく魔力を与えられた人間のようです。その、ヘルサルで騒動を起こしたので捕まえて連れてきました」

「それは……畏まりました。――すぐに陛下に報せを! リク様がお戻りになった事も。それと、ヴェンツェル様も……」


 可視化された魔力を見るのは初めてみたいで、ヒルダさんにしては珍しく驚きを表面に出しながら、ビチビチしているクラウリアさんを見ている。

 魔法を使おうとしているわけじゃないんだろうけど、必死に動いているから魔力が漏れ出ているのか……これでよく今まで、ヘルサルに潜めたなぁと思う。

 ともあれ、簡単にヒルダさんへクラウリアさんの事を伝えると、すぐに近くにいた兵士を姉さんへの知らせに向かわせた。

 まぁ、ツヴァイとかと関係するって言われたら、今一番の問題事でもあるからこんな対応になるか。


「では、リク様」

「はい」

「ふぬーっ! ふーぬぬーっ!」


 ヒルダさんに促されて、城の中へと移動する。

 あんまり多くの人に聞かせられない話になるだろうから、とりあえず俺の部屋で姉さんが来るのを待とう……その際、別室へ移動して話をとなれば、そちらへ行くだけだからね。

 クラウリアさんは、相変わらずビチビチしていたのを兵士さんが二人がかりで担ぎ、俺達と一緒に運ばれる。

 俺や他の皆が特に気にしていないのと、とりあえず一緒にと言ったからなんだけど……さすがに可視化した魔力をお漏らししているせいで、担ぐ兵士さんは最初腰が引けていたりもしたけどね――。



「りっくんお帰り! 何か面白……じゃなかった、重要な情報の塊を持ち帰ったみたいね!」

「リク殿、相変わらず予想外の話を持って帰って来ているなぁ」

「リクは常に何か問題事に巻き込まれて、大変そうだな、ははは……」

「ね……いや、陛下。ここには知らない人もいるので……。――ヴェンツェルさん、エフライム。俺が求めたわけじゃないんだけどね……あはは」


 部屋で、ヒルダさんの淹れてくれたお茶を飲んで一息入れていると、扉を勢いよく開けて姉さんが楽しそうに飛び込んで来る。

 その後に、ヴェンツェルさんとエフライム……姉さんの勢いなのか、俺がクラウリアさんを連れて来たからか、二人共苦笑している。

 その後ろにはフィリーナもいて、エアラハールさんを除いて勢揃いになったわけだ。


 とりあえず、クラウリアさんがいるので姉さんに注意をしつつ、俺も思わず苦笑しながヴェンツエルさんやエフライムに応えた。

 ちなみに、当のクラウリアさんは簀巻き状態に慣れ過ぎたのか、ウトウトしているところに姉さん達が来たので、体をビクッ! と跳ねさせて驚いて目が覚めたようだ。

 簀巻きで猿ぐつわされているのに、よくウトウトできるなぁ……それだけ図太いんだろうけど。


「アルネ、エルフの集落の研究は奪えたの?」

「奪うとは言葉が悪すぎるぞフィリーナ。ちゃんと話して、技術提供してもらう事になった」

「そう、話し合いで解決できたのね。……うん? アルネ、何か少し以前と雰囲気が違う気がするわね?」


 姉さん達の後ろから入ってきたフィリーナは、研究成果の方が気になるようで、真っ先にアルネに問いかける。

 エクスさんの事を知っているからか、話しが拗れたり面倒な事を予想していたのかもしれない……さすがに、奪うというのは人聞きが悪すぎるし、冗談半分なんだろうけど。

 結果を聞いてホッと息を漏らしたフィリーナだけど、ジッとアルネを見つめて何かに気付いた様子。


「やはりフィリーナにはわかるか。自分でも、もしかしたらというくらいだったんだが……まぁ、色々あってな」

「ふーん。そうなのね……」

「なになに、アルネも何かあったの?」

「陛下、リクに付いていると想像もできない事が起こるのです。いえ、今も起こっている最中とも言えますが……」


 アルネ自身もなんとなく感じている事らしいけど、フィリーナが見たらはっきりと違いがあるのかな? 俺が見ても今までと何が変わったのかよくわからないけども。

 考えるように口元へ手を持って行ったフィリーナとは別に、興味津々な様子で姉さんがアルネに聞いた。

 アルネの方は、チラリとユノを見たから……多分、神様がどうのとか、アルセイス様に関係する事なんだろう。


「とりあえず、陛下やエフライム達には順を追って話すよ」

「そうね。色々聞きたい事はあるけど、そこで簀巻きになっているのも含めて、説明して欲しいわ」

「そうですね、陛下。――だが、予定より戻って来るのが遅かっただけで、話さなければいけない事が増えるのはリクらしいというかなんというか……」

「ははは、自分から求めたわけじゃないんだけどね。えっと、まずヘルサルに行ってからかな……あ、ヒルダさん。できればハーロルトさんにも聞いて欲しいので、忙しくなければ呼んで来てもらえますか?」

「畏まりました……」


 クラウリスさんもいるので、この場で全て話すわけにはいかないけど、全体を通しての話をしようと全員でソファーに座って話し始める。

 お茶を用意してくれていたヒルダさんに頼んで、途中からでも参加できればとハーロルトさんも呼んでもらう。

 魔法具研究とかはともかく、クラウリアさんの事はハーロルトさんにも話しておきたいからね。

 ヘルサル農園の様子を見た話しや、獅子亭が人気になり過ぎて手伝っていた事や、そのために戻って来るのも少し遅くなったと話しているあたりで、呼ばれたハーロルトさんが合流。


 今はあまり忙しくなかったのかな? と思ったけど、俺からの話であれば重要な事だろうとクラウリアさんを見ながら言っていた。

 まぁ確かに、重要情報でもあるか。


「ふむ、スイカが多く生産できそうね。りっく……リクのおかげで、ハウス栽培は安全に作物を育てるのに有効な事がはっきりしたわ」

「ただ、ヘルサルでは魔力溜まりが原因だから、他でどうかはまだわからないけどね。結界で外から魔物が侵入するのを防いだり、入り口を限定する事で管理しやすくなるのはいい事だと思うけど。あとは、エルフの集落で作られた魔法具を使って、温度管理ができればッてとこだと思う」



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