第927話 衝動的な思い切った行動
「なんとなくね。……あぁでも、やっぱりちょっと恥ずかしいかな。モニカさんがいつもの服装でもいいと思うなら、戻して……」
「ううん、とっても嬉しいわ! リクさんが私との事を考えてくれていて。それに、似合っているし……その、素敵よ?」
「そ、そうかな……?」
「えぇ……」
耐えられなくなって、引き返しておばさんに預けてある元の服に戻そうかと振り返りかける俺を、ほのかに頬を赤くしたモニカさんが止める。
似合っていると言ってくれるモニカさんの顔を見て、緊張や気恥ずかしさから、顔が熱くなるのを自覚しながらも、目が離せなくなる。
モニカさんの方も同じなんだろうか? 聞き返す俺に頷いた後、ジッとこちらを見た。
お互いの顔、目を見続けて、どれだけの時間が経ったのだろう……一瞬のようにも思えるし、数時間も見つめ合っているようにも思える。
「……初々しいですね?」
「……そうね。私の若い頃、思い出すわぁ。一緒に過ごして、お互いいつもとは違う服装で相手に自分をアピールして……そしてふとした時に見つめ合って、距離が近くになり……」
「「ハッ!!」」
「あら、見つかっちゃったわ」
「そりゃ、話していれば見つかりますよ」
聞き覚えがある……どころか、さっきまで話していた店員さんとおばさんの声が聞こえ、モニカさんと同時に正気に戻り、振り返る。
そちらでは、服が置かれている棚から顔だけ出して、面白そうに見る二人がいた。
そうだった……ここ、お店の中だし見られるのも当然だった……。
「もう、おばさん!」
「かっかっか! モニカちゃんもそういうお年頃よねぇ。あら? これは前にも言ったかしら?」
「確か、言っていたと思います」
「お年頃とかじゃなくて……もう!」
顔を真っ赤にしたモニカさんが、おばさんに詰め寄って文句を言うように詰め寄るけど、人生経験の差か、逆にからかわれてしまう。
店員さんも冷静に見ているし、慌てている状況じゃどうしようもないなぁ。
俺が助けに入ろうとしても、多分火に油を注ぐというか、焼け石に水というか……モニカさんと一緒にからかわれて笑われるのがオチだろう。
んー、とは言ってもせっかく着替えたのに、このままおばさんにからかわれるだけじゃ、もったいないよね……そうだ!
「モニカさん!」
「え、リクさ……きゃ!」
「ごめん!」
「あらあらー。若いっていいわねー」
「やはり、勢いが違いますね。いえ、私はまだ若いですけど」
「いや貴女、私とそこまで変わらないでしょうに……あ、リクさん。元着ていた服は、獅子亭に届けておくわねー! 頑張ったサービスよー!」
「すみません、お願いします! それじゃ!」
なんとなく、このまま時間が過ぎるのがもったいない気がして、おばさんと話しているモニカさんの右手を掴む。
そのまま、店の出口に向かって引っ張った。
無理矢理だから嫌がるかもと思ったけど、すんなりついて来るモニカさん……驚いて悲鳴っぽい声を上げていたので、謝りつつも歩みは止めない。
後ろから冷やかしなのか応援なのか、よくわからない声に応えつつ、モニカさんを連れて大通りへと駆け出た――。
「はぁ……はぁ……リクさん、どこまで行くの?」
「あ、どこに行こうとかは考えてなかった……」
「はぁ、ふぅ……まったく、急に走り出すからびっくりしたわよ?」
「ごめん……」
モニカさんを引っ張ったまま、大通りに出た勢いのまましばらく走る。
後ろから、息を切らしたモニカさんの声で我に返り、立ち止まった……いつの間にか、大通りを抜けてお店や人通りの少ない住宅街っぽい場所に来ていた。
息を整えたモニカさんに言われ、自分でも勢いだけで行動してしまったと後悔し、謝る。
なんでか、さっきはあぁした方がいいような気がしたんだよなぁ……なんだろう、おばさんにからかわれている時間がもったいないというか……。
「リクさんがこうやって、誰かを引っ張るのは珍しいわね?」
「そう、かな……? でもなんとなく、こうしなきゃいけないような気がして。せ、せっかく一緒にいるんだから、他の所も一緒に見たいかなぁ……って」
振り返る俺に、手を引っ張られてついて来ていたモニカさんが、首を傾げながら不思議そうにする。
良かった、怒ってはいないみたいだ。
もはや、最初に考えていた昨日の騒動から、街の様子を確認する当初の予定はどうでもよくなっている。
今は、モニカさんと一緒に歩くというか、二人でいる事の方が重要な気がするからね。
「そ、そうなのね……でも、他の所ってここに何か見るものがあるの?」
「え、いや……何も考えずに走ったから、ここに用があるわけじゃないんだけど……」
俺の言葉に対し、恥ずかしそうにするモニカさんに答える。
目的地なんて、一切考えていなかった……周りを見回しても、ちらほらと人が歩いているくらいで、建物はあっても住宅ばかりでお店もない。
広場のように、のんびりするような場所でもなく、単なる路地の一角だ。
こんな場所に、何か見る部分があるわけないよね。
「ふふ、リクさんでもそんな事があるのね。今日は珍しい部分をよく見れるわ」
「ははは……そうかな。あーでも、ちょっと情けないかな?」
笑うモニカさんに、自分の無計画さとか衝動的な行動が恥ずかしくなり、苦笑する。
それと共に、もう少し落ち着いて行動できなかったのかと思い、自分が情けなくなる。
「ううん、そんな事ないわよ。慌てる事や焦る事は多々あったと思うけど、これまで意味のない行動って、リクさんがするところを見た覚えがないのよね。だから……さっき引っ張られて走ったのもそうだけど、楽しいわ。それに、リクさんが情けないなんて事、私は一切思わないからね?」
「そ、そう。モニカさんが楽しいなら、良かったよ」
優しい笑みというのだろうか、いつもとは少し雰囲気の違う笑みを浮かべながら、楽しかったと言ってくれるモニカさん。
今日は何度も似たような事になっているけど、気恥ずかしさからモニカさんの顔を直視できなくなって、顔を逸らしながら頷く。
きっと、今の俺の顔真っ赤になっているんだろうなぁ。
これまでに感じた事がないくらい、顔が熱い気がするから。
「ふふ……」
「な、何かおかしい事でも?」
顔を逸らしている俺を見てなのか、笑い声を漏らすモニカさん。
やっぱり、何か笑われるような失敗でもしてたかな? と心配になってしまう。
これまでも色んな失敗をして来たけど、今の状況だと小さな失敗すら気になってしまうのは何故なのか、よくわからない。
「いえ、おかしいわけじゃないわ。そのね? 離さなきゃいけない事はあったけど、外にいる時はずっと手を離さないでいてくれるなぁ……って」
「え、あ……そうだね。自分から繋ぐようにしたわけだし、できるだけ離しちゃいけないと思ってたから。もしかして、痛かったりとかした?」
「さっき引っ張られる時に少しね。でも、そんなのも嬉しいなって……」
「そ、そう? 痛い思いをさせてしまったのは、ごめん。でも、嫌じゃないなら良かったよ」
「リクさんと手を繋ぐ事を、嫌がるなんて事はないわよ」
一瞬でも痛い思いをさせたのは反省すべきだろうけど、モニカさんが嫌がってはいないと言ってくれて、一安心だ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます