第921話 広場でモニカさんと待ち合わせ



 ――翌朝、宿で朝食を食べてエルサにもキューを食べさせて……。


「リク様、エルサ様はこちらで預かります」

「エルサはリクが帰って来るまで、こっちなのー」

「え、そうなの?」


 朝食が終わり、準備してモニカさんと合流しようか……と考えていた時、フィネさんやユノからエルサを預けるように言われる。

 今エルサはキューや料理を食べてへそ天状態で、満足しているようだけど。


「ふわぁ……今日は仕方ないのだわー。リク一人で行って来るのだわー。保護者がいないと心配だけど、モニカがいるから大丈夫なのだわ?」

「いや、エルサの保護者が俺になると思うんだけど……はぁ…。わかった、それじゃフィネさん、ユノ、エルサの事を頼むよ。アルネやソフィーも」

「畏まりました、お任せ下さい」

「あぁ、了解した」

「まぁ、リクはモニカと楽しんで来ればいい」

「エルサとお昼寝するのー」


 保護者がどちらなのか……というのはまた今度話し合う必要がありそうだけど、ともかく提案通りにフィネさん達にエルサを預ける事にしてお願いする。

 それぞれ頷き、了承してくれた……ソフィーあたりはエルサのモフモフを触りたそうにしているし、ユノは一緒に寝たり遊んだりそうだから、問題はなさそうだね。

 だけど……。


「楽しんでって言われても……ソフィー、俺はマリーさんに頼まれて、モニカさんと街の調査というか昨日の騒動からどうなっているのかの確認に行くだけなんだけどね?」

「はぁ……だからといって、楽しんではいけないという事はないだろう?」

「まぁ、そうだけど……」


 今日はモニカさんと一緒だけど、マリーさんから頼まれて街の様子を見るのだと考えていたんだけど……何故かソフィーに深いため息を吐かれた。

 見れば、ソフィーだけでなくアルネやユノ、ひっくり返ってお腹を見せているエルサでさえ、首を振って溜め息を吐いていた……どうしてだろう?

 フィネさんは、苦笑していたけど――。



「えーっと、まずは大通りに出てモニカさんと合流かぁ……」


 俺の疑問に答えられる事はなく、準備をして宿を出る。

 最初は俺が獅子亭にモニカさんを迎えに……と思っていたんだけど、何やら目印になる場所で待ち合わせをして合流をと言われた。

 大通りの真ん中にある広場……俺が初めてヘルサルに来た時、最初に来た広場の中心は特に目印になるような、目立つ建造物はないんだけど、わかりやすい場所としてよく待ち合わせに使われるらしいので、そこで合流する事にする。

 日本だと、犬の銅像がある場所の前で待ち合わせとかだろうけど、ヘルサルに目立つ銅像とかないからね。


 ちなみに宿を出発する際、なぜかソフィーとフィネさんに呼び止められ、全身を観察されたり及第点と言われた。

 あれはなんだったんだろう?


「少し早いから、まだあんまり人はいないみたいだね。昨日はあんな騒動もあったし、今日は皆ゆっくりなのかもしれないけど」


 広場に到着して辺りを見回してみると、ちらほらと人が通ったり同じように待ち合わせしている人がいたりする。

 広場の端では屋台の準備か、数人がかりで荷物を運んだりと何やらやっているのが幾つか、ってところだね。

 これなら、人ごみに紛れて合流できないって事はなさそうだ。


「さて……とりあえず中心に来たけど……モニカさんはまだのようだ。まぁ、向こうは獅子亭の準備とか手伝っているかもしれないし、もう少しかかるかな?」


 ちょっと歪な円形になっている広場の中央に立って、大通りや別の場所へ通じる道を見るけど、まだモニカさんが来ている様子はない。

 とりあえず、見逃さないように獅子亭の方に通じる道を見ていれば、モニカさんが来たらわかると思う。


「……何か、暇潰しでもあれば良かったかな? でも、本とか読まないし、そもそもあんまり売っていないしなぁ」


 この世界、というかアテトリア王国では、紙が高いので本という物があまり作られない。

 ヘルサルや王都のような大きく人が集まる場所では、それなりに売られているんだけど、数は少ないし高い。

 お金持ちの道楽とも言われていたりもして、王城の書庫のような場所は貴重な知識があるため、重要な場所ともなっているらしい。

 それもあって、エルフと比べたら短命な人間は技術を後世に残したり、知識の蓄積をするのが難しい……エルフはそもそも寿命が長いので、書物に残さなくても覚えていたりするから、後々に技術や知識を伝えやすいとか。


 暇潰しの手段として、本を読むというのは日本人や地球の人間ぽいのかもしれないけど、そこまで考えて俺自身が読書家じゃない事に気付く。

 時間が余っているからって、本があっても実際には読まないだろうから、考えるだけ無駄というかどうでもいい事だなぁ……なんて考えながら、モニカさんが来るのを待つ。


「ねぇねぇ、君。これからどこか一緒に行かない? 俺、こう見えても有望な冒険者でさ。最近それなりに高難易度の依頼を達成して、報酬をもらったばっかりなんだけどさー」

「はいはい。わかりましたから、冒険者は冒険者ギルドに行ってくださいね」

「……ん?」


 ぼんやりとしながら、時折空を見上げて雲を眺めたりしていると、何やら聞き覚えのある声……。

 男性の声もしているけど、そっちは聞き覚えがない。

 声をかけられている様子の女性の声は、もしかしなくてもモニカさんのような……?


「そんな連れない事言わないでさー。美味しい食事ができる所も知ってるよ? 最近ここ以外でも評判な、踊る獅子亭って店なんだけどさー」

「はぁ……あ、リクさん!」

「モニカさん!……と、そちらは?」


 声がした方に視線を向けると、いつの間に来たのか……俺が空を見ている間に、広場に入って来ていたんだろうけど、モニカさんと後ろについて来ている男の姿があった。

 男の方は、なんというか……わかりやすい冒険者風の姿で、剣を腰に下げているし皮の鎧を身に着けているため、さっき言っていたように冒険者なのかもしれない。

 溜め息を吐いたモニカさんが、俺に気付いてこちらへ駆け寄り、お互いに声をかけ合う。

 多分というか、絶対知り合いじゃないけど一応、後ろにいる男の事も聞いてみた。


「この近くで声をかけてきて、しつこくついてきたよく知らない人よ」

「なんだぁ? 今俺はこの人に声をかけているんだから、横から入り込むのは男としてどうかと思うよ?」

「いや、横から入り込んだとかじゃないし、そもそも俺と待ち合わせしていたんだけどね……」


 やっぱりモニカさんの知らない男だったらしい。

 おそらく、モニカさんを見てナンパみたいに声をかけたってところだろう、今回以外にも似たような事はあったからね。

 男の方は、モニカさんと話す俺を訝しげに見て、難癖を付けるように言っている。


 腰に下げている剣い手をかけている事から、脅せば俺が逃げ出すとか考えていそうだ。

 その男性、冒険者風なのはその通りで、実際はどうかわからないけど……身に着けている鎧や剣に、一切汚れが付いてなくてピカピカなのがちょっと気になる――。



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