第918話 火事も起きていた模様
「……リク、ごめんなさいなの。ちょっとやり過ぎたの」
「うん、次から気を付ければいい……というか、俺もやり過ぎるからユノに注意できないんだけど。でもユノ、謝る相手は俺じゃないと思うよ?」
「うん、行って来るのー!」
ヤンさんとの話を終えて、冒険者ギルドから出たら待っていたユノから謝られた。
まぁ、俺も魔法では特にやり過ぎると言うか、失敗する事が多いから注意できる立場じゃないんだけど……ともかく、謝るのは俺じゃなくて実際に塀を壊されたギルド側だろう。
そう思って、一緒に出てきたヤンさんの方を示すと、タタタッとすぐに駆けて行き、丁寧に頭を下げていた。
「はぁ……あれで本当に創造神だとはなぁ。破壊神と言われても信じてしまいそうだ」
「俺もあまり人のことは言えないけど……アルネ、その話は」
「おっと、そうだったな……」
「まぁ、あの姿を見ていたら、誰かが聞いても信じたりはしないだろうが」
ユノを注意していたアルネが、謝っているユノを見ながら溜め息を吐く。
ただ、あんまり外でユノが本来は神様だとか、そういう話はしないように注意。
どこで誰が聞いているかわからないからね……まぁ、ソフィーの言う通りやっている事はともかく、見た目が小さな女の子のユノを見て、神様だとかの話を信じるかは微妙だろうけど。
「でも、どこに誰がいて、話を聞かれているかわからないからね……」
「そうだな。あまり多くないと思いたいが、どこかには紛れ込んでいるんだろう」
アルセイス様は、帝国と向こうのエルフに、破壊神が干渉していると言っていた。
そのため、もしかしたら組織の関係者や帝国の関係者がいた場合、ユノの事が伝わってしまうかもしれないからね。
破壊神の事を向こう側が把握していたら、創造神の事だって知っていてもおかしくない。
ユノ、というのは俺が決めたから名前を呼ぶだけならまだしも、神様がという話はできるだけ控えた方がいい……できれば、そういう話をするのは屋内で信頼できる人しかいない時にしたい。
「リク、謝って来たの!」
「うん、偉いな。――ヤンさん、すみません」
「ははは、気にしないでいいのですよ。冒険者ギルドの建物への直接的な被害はありませんし、ユノさんのおかげであれくらいで済んだと思いますから」
ヤンさんに謝ったユノが、胸を張って報告して来るのを、頭を撫でて褒めておくけど……自慢するような事じゃないからね?
ユノの後ろについてきたヤンさんに、俺からももう一度謝ると、笑いながら手を振って気にしていない様子。
まぁ、ユノが止めなければギルドの建物の方が爆破されていたかもしれないし、それを考えれば被害が少なく思えるか。
クラウリアさん曰く、狙いは冒険者ギルドや庁舎のような街の主要な建物らしいから、人への被害はともかく、標的の建物に対しては容赦なく魔法が使われただろうし。
建物が倒壊するかはともかく、一部の塀が瓦礫になるよりは被害が出ていただろうからね。
「それにしても、改めて見るとそれなりに建物が崩れているんだな」
「まぁ、それでもヤンさんから聞いた話だと、人が住んでいない家がほとんどらしいけどね」
「落ち着いて見るのはこれが初めてだが、人に向けられなかっただけ良かったと思うべきか」
「黒焦げなのもあるのー」
冒険者ギルドを離れ、ソフィー達と街の中を歩きながら改めて周囲を見てみると、結構な数の建物が崩れていた。
俺がギルドへ行く時に通ったのとは別の道だけど、あの時見たのはまだマシな方だったらしい。
片付けをしている人達が、黒い炭のようになった塊を運んでいて、ユノが珍しそうに眺めている。
黒焦げというか、隅のように焼けたのは爆発の魔法が炎を発生させていたからだな……俺は結界でなんともなかったけど、結構な火柱が立っていたから。
まぁ、あれは複数の魔法が同時に俺へ向けられたからでもあるけど。
「焼けた建物の消火は、中々面倒だったな……」
「アルネはまだ魔法が使えるから、楽だっただろう? 私は、水を運んでいたからまさに肉体労働だぞ?」
「二人は、火が上がった建物の消火も手伝ったの?」
「まぁ、爆発後は大抵の建物から火の手が上がったからな。そちらに対処している人が多かったから、犯人立の捕縛に時間がかかっていたのもあるだろう」
話を聞いてみると、爆発の魔法は火の勢いが強かったせいもあって、そこかしこで火事が起こっていたらしい……確かに、上空から見ると煙も結構上がっていたっけ。
木造の建物が多く狙われているから、というのもあるみたいだけど……人が住んでなさそうな建物が偶然木造ばかりだったのか、火の手を上げるために木造を狙ったのかは、わからないけど。
ともあれ、工作員の捕縛と一緒に、アルネ達は消火活動もしていたらしい。
水関係の魔法が使える人は、魔法で。
使えない人は井戸などの別の所から水を汲んできて、消火していたとか。
「あれ? ソフィーの剣、氷の魔法だから消火には良かったんじゃない?」
「一か所だけなら、それも良かっただろうが、さすがに複数だとな。魔力にも限界があるから、そう何度も使えないぞ」
「そりゃそうか」
「魔法具は、常に一定の魔力を使用させるからな。気付いたら枯渇していたという事になりかねない。よっぽどの事がなければ連続で使うべきではないだろうな」
ソフィーの剣は、氷の魔法を発動させる事ができるから、消火するのに良さそう……と思って聞いてみたけど、魔力の関係で使わなかったらしい。
複数個所だと何度も発動させなきゃいけないし、魔法具だと自分で魔法を使うより調整が効かないからね。
例えば、自分で魔法を使っている場合は、一時的に魔力量が少なくなった時、他の少ない魔力の魔法に切り替えたり使用を控えたりできる。
けど魔法具の場合は、一定の魔力を必ず使うし、一つの魔法を使うしかできない。
魔力量が少なくなった時に、魔法具を使おうとすると枯渇しようと関係なく魔力が使われるので、危険もあったりする。
気付いたら魔力が枯渇、もしくは魔力量が少なくなり過ぎて動けない……という事にもなりえるので、注意が必要という事だね。
まぁ、俺も魔力を使う剣を使い続けて、気絶した事もあったし……あれは、他でも魔法を使っていたのも原因だけど。
「私も手伝ったのー」
「ユノの場合は……まぁ、手伝ってくれて助かったのは間違いないが。豪快だったな」
「あぁ、豪快だった」
「……えっと……?」
自分も手伝った、と主張するユノに対し、ソフィーとアルネは何やら含みのある言い方。
一体どんな手伝い方をしたのかな? と思って詳しく聞いてみると、汲んできた水を空にばら撒いて雨のように降らせたらしい。
ちゃんと火事になっている場所に降らせていたし、確かに消火の助けにはなったようなので、問題はないんだけど……ただ豪快だった、という感想になったとの事だ。
「火事の時はスプリンクラーなの」
「それ、地球での話だろ? こっちにスプリンクラーはないだろうに……」
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