第895話 短期間の滞在になったエルフの集落
「……それもそうだな。フィリーナは俺以上に人間達との交流を望んでいた。アルセイス様の加護を受けた目を持つフィリーナだからこそ、集落での影響力も高かったからのだが、おかげで交流に賛成するエルフも多くなったものだ。念願が叶った事、自分に少なくない影響を与えてくれた、加護をもたらしたアルセイス様、両方驚くだろうな」
「フィリーナって、集落では重要視されていたんだね」
「集落を代表する、とまでは言えませんけど……発言力は若いエルフの中でもトップです。これまで集落に片手で数える程しか生まれなかった、加護を持つエルフですから当然ですね」
アルセイス様を信じ、敬っていたエルフにとって加護を持つフィリーナは集落でも、重要な存在だったらしい。
あぁ、だからこそ集落が魔物に襲われて今後が危ぶまれた時、アルネと一緒に外へ出したのか……集落がなくなっても、アルセイス様の加護を持つフィリーナを生かすために。
若いエルフだからという理由も、全くの嘘じゃないんだろうけどね。
「加護を持つエルフは、同時代に二人と存在しないと言われている。まぁ、他国にいるエルフに確認をしたわけじゃないから、本当のところはわからないが……」
「それでも、集落にはただ一人……これまでにいなかったわけではありませんが、フィリーナが生まれた時点で加護を持つエルフはいなかったのです。重要視され、発言力が高まるごとに若いエルフを中心に、長老達の意見に反対してきました」
「フィリーナがいなかったら、もしかするとまだほとんど森の外で暮らすエルフはいなかったかもしれないな」
「そんなになんだ」
「だからこそ、これまでのエルフと人間達の交流を望み、意見をしてきたフィリーナにとって、ツヴァイを許す事はできなかったんだろう」
「あー、確かにあの時凄く怒っていたからね……アルネも聞いたんだ?」
「本人から直接な。魔物の研究などの時は冷静に話していたのが、ツヴァイの事を話し始めた途端、憤慨し始めたからな……」
「えっと、お疲れ様?」
極々稀に生まれて来る、加護を持ったエルフという事で、フィリーナは集落やエルフにとって重要になったんだろう。
そうして、フィリーナが人間との交流を望んだ事で、長老達が固執していたアルセイス様の教えもどきを覆し、疑問視していた若いエルフを中心に少しずつ広まったんだと。
地道な活動をしていた……かどうかはわからないけど、それらが無に帰す可能性もあった、エルフのツヴァイの行動に尋問中に怒って入ってきたりもしたのか。
あの時のあれで、全部終わった事のように考えていたけど、燻っていたものがアルネと話しているうちに再燃してしまったのかもね。
他の人の目がない場所で、兄のアルネが遠い目をするくらいだから、相当な怒りだったんだろうと察せるけど、俺には労う事しかできない。
声をかけながら、フィリーナを怒らせないように気を付けようとも、心に決めておいた……怒らせないように気を付けなきゃいけない相手が、増えて行くなぁ……。
そんなこんなで、少し話を脱線させつつも、この集落はアテトリア王国に所属する人間や獣人と、強力、共存、共栄する事を約束し、エヴァルトさんは帰って行った。
この後も、他のエルフさん達とこれからについて話し合わないといけないらしい……お疲れ様です――。
――翌々日、魔法具の話をした日は寝不足だった事もあって、ゆっくり休み、その翌日はカイツさんやエクスさんともう一度話して、細かな調整をし、現時点で完成しているクールフトとメタルワームを、荷物と一緒にエルサに乗せる。
「えーっと、これで全部かな?」
「あぁ。思ったよりも大きな物だったから驚いたが、エルサのおかげで何とか運べるな」
「これが馬車で運ぶとなると、一苦労だったわね。エルサちゃん、大丈夫?」
「これくらい重りにも感じないのだわ。平気なのだわー。でも、後でキューをもらうのだわ」
「はいはい、ちゃんとおやつをあげるからな。――それじゃ、エヴァルトさん」
「はい。もう少しゆっくり滞在して欲しいとは思いますが……仕方ありません」
ちゃっかりキューを要求するエルサに答えつつ、見送りに来てくれたエヴァルトさんと、他のエルフさんに挨拶。
俺ももう少しゆっくりして、集落に来ている人間や獣人の様子を見たりもしたかったけど、色々とのんびりできない事情ができたからね。
急を要するわけではないけど、アルセイス様の事を姉さんに報告したり……ヘルサルにも寄って、悪巧みしている人がいそうなのも、様子を見ておきたい。
……あれ? のんびりするって考えていたのに、結局あんまりのんびりできていないような……? 考えないようにしておこう。
「あー、えっと……」
「お気になさらず。変に絡んで、リクさんの予定を狂わさないようにする処置ですので」
「あ、はい」
エヴァルトさんと一緒にいるエルフさん達はともかく、その後ろの方で他のエルフさんや人間、獣人が協力して捕まえた挙句、縄で縛られるだけじゃなくて猿ぐつわまでされている状態の、長老さん達。
なんでも、俺が集落に来ている事を知ったのが遅く、それならと俺達が出発する頃合いを見計らって、長老と呼ばれるエルフ全員で集落入り口に待ち伏せしていたらしい。
先にエヴァルトさん達が見つけ、何やら抵抗しようとしたらしいので、人間や獣人も協力して捕まえているという事だ。
まぁ、確かに移動の時間も考えるとそんなに余裕はないから、長老達に時間を取られるわけにはいかないので、助かる。
ただ、エヴァルトさんが「教育が足りなかったようです」なんて言っていたのは、完全に立場が逆転しているよね? まぁ、現在の集落では長老達の影響力や発言権は、かなり低くなっているんだろう。
これも、他者を見下していた事の報いか……悪い事をしたわけじゃないから、罰せられるわけじゃないけど。
「まぁ、程々に……でいいのかな?」
「はい。決して、人間達……特にリクさんには迷惑をかけないよう、気を付けさせます」
本当に、これまで集落内でも影響力の高かった長老達への扱いには思えないけど……これも、集落が変わって行くうえでの事なんだろう。
ともあれ、エヴァルトさん達のおかげで変な絡まれ方をしたり、時間を浪費する事なく、エルサに乗り込んでヘルサルに向けて出発。
上空から見下ろした時、エヴァルトさんや他のエルフさん達だけでなく、一緒に人間や獣人と思われる人達も手を振っていてくれたので、こちらからも両手を振って応えておく。
「リク、このまま今日中にヘルサルに?」
「うん。少し速めに移動すれば、夜には到着できるだろうからね。まぁ、途中で休む時間は必要だろうけど……」
「私なら、ずっと飛んでいても疲れないのだわー」
「……けど、キューを食べる時間は必要だろ?」
「それは絶対に必要なのだわ! 途中で休憩するのだわ!」
ソフィーから予定の確認をされ、休憩はするけど今日中にヘルサルまで飛んで移動する事を伝える。
強がりでもなんでもなく、本当にエルサなら一日休憩なしで飛んでいても平気なんだろうけど、そうするとキューや昼食を取る事ができないからね。
俺達は、エルサの背中の上で集落を出る際に包んでもらった料理を食べればいいけど、飛んでいるエルサは食べられないし、火が使えないから温める事もできない……できれば温かい物を食べたいのもある。
無理をしたらなんとか温める方法はあるんだろうけど、無理をする場面でもないからね。
そうして、キューと聞いて意見を覆したエルサを皆で微笑ましく笑いながら、途中で休憩を挟みつつ、ヘルサルへと向かった――。
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