第894話 エルフと人間達の協力



 長老達は森で不自由なく生活しているうち、森の中が世界の全てのように感じ、森の外へ出るという事が考えられなかったんだろう。

 もしかしたら、森の外や人間を怖がったために、変な方向へ教えを曲解してしまったのかもしれない……というのは、俺の勝手な考えだけど。

 呼ばれて話したアルセイス様は、そんな森の中だけで生活しないと許さないだとか、人間と交流を盛ったらいけない、エルフは特別で上位な存在……なんて言うような感じではなかったから、アルネの言う通り正しく曲解なんだろうね。


「最近はその考えも、リク様のおかげで改められていたのですが……アルセイス様が顕現した事が知れると、曲解した教えが再燃しかねません」

「場合によっては、アルセイス様が仰った事と勝手な事を言い出し、森の中へ戻り人間との交流も経つべきだ……なんて言いかねん」

「それは……ちょっとどころじゃなく騒ぎになりそうだね」

「どうなるかはわかりませんが……今の長老達であれば、もしかしたらリクさんを祀る動きも見せるかもしれません」

「え、俺を!? アルセイス様どころか、神様でもないのに……?」

「アルセイス様の顕現に立ち会い、言葉を交わした者としてです。その際にはアルネも同様でしょう」

「……それは少々どころか、かなり困るな。長老達の事だ、森の中かはともかく集落から離れる事を良しとしないだろう」

「我々を見捨てるのですか! とか言いそうだ。今の長老達は、何かに縋りたい状態でもあるからな」


 森の中で他者を拒否して……というのはすぐに想像できたけど、さすがに俺やアルネを祀ろうとするのはどうかと思う。

 本当にアルセイス様に対して、狂信的な一面があればそうなる可能性はあるんだろうけど。

 ともかく、変な絡まれ方をしてしまうと困るので、絶対に長老達にはアルセイス様の事を話さないと、エヴァルトさんだけでなくアルネも深く頷いて決まった。

 まぁ、長老達に限らず、集落にエルフさん達にも同様だけど……騒ぎを起こしに来たわけじゃないからね。


「長老達の事はともかく、アルセイス様には何か感謝を捧げねばなるまいな。祭壇に捧げる供物……食糧を多く供えるか」

「それなんだがなエヴァルト……おそらく祭壇でも問題ないのだろうが、アルセイス様が顕現された場所が……」


 祭壇にて、アルセイス様に感謝を伝える意味も込めて、多くのお供え物をと考えるエヴァルトさん。

 それに対し、言いにくそうにしながらアルセイス様と話した場所について、説明するアルネ。

 顕現した場所が祭壇ではなかった事に驚きと、今まで見当違いの場所で祀っていたのかと、エヴァルトさんがショックを受けていた。

 まぁ、今までそこが正しい場所だと思って、祭壇を作って祀っていたんだから、ショックを受けるのも当然か。


 日本で言うと、神様の住処として神社を作ったのに、全然別の場所で何もない所におられた……と考えれば、神社で神職を務めている人はショックを受けるだろう。

 いや、想像だし単なる例え話だけど。

 ともあれ、アルセイス様は去り際に「森が私の目。エルフだけでなくユノ様やリクの事も、見させてもらうわー」なんて言っていたから、祭壇が森の中にさえあれば大丈夫だろうと思う。


 後でユノに聞いたら、今回顕現した場所が一番アルセイス様との繋がりが大きい場所らしいけど。

 ちなみに、去り際の言葉を聞いて、ユノは「勝手に覗いたら、でばがめなの!」とか言っていたけど、そう返せるのは元神様のユノだけだろうな。

 というかでばがめって……地球の日本に遊びに行った時に、知った言葉だろうけど、神様に対して言う言葉じゃないよね……。


「何はともあれだ、リクさんの事や様々な事情、アルセイス様の事を踏まえて考えて……我々エルフは、アテトリア王国の一員として人間との交流、全てをいきなりというわけではありませんが、知識の提供や共有を惜しまない事をお約束いたします」

「えっと、俺にそれを宣言しなくても……とは思いますが、わかりました。陛下には必ず伝えさせてもらいます」

「はい、ありがとうございます。我々からも、追って王都へ報告をさせて頂きます」


 アルセイス様に関する事や、諸々を離し終えた後、急に改まって宣言と共に頭を下げるエヴァルトさん。

 わざわざ俺に向けて宣言をしなくてもと思うけど、意思表明としても大事だったのかもしれない……さすがにこれまでの事で、自分が国の重要人物扱いされているのもわかってきているからね。

 それに、姉さんとも直接話せるから、俺から言った方が早いという事もあるんだろう、エヴァルトさん自身はそこまで知らなくとも、王都の王城にいる事が多いとは雑談の中で伝えてあるから。

 正式には集落から王都へ向かって遣い出すのとは別に、差し当たっての意思表明と受け取り、報告する事を約束。


 アルセイス様に関連していたり、他国のエルフが人間と協力して悪巧みをしていそうな事なども踏まえると、のんびり少しずつ交流して距離を縮めるよりは、すぐに強力した方がいいとの考えだろう。

 事は、この集落だけで対処できる問題の大きさじゃないし、国家間の関係にも及んでいるからね。

 エルフの立場を確保するためにも、今人間と協力する事を決めておいた方がいいと判断したんだと思う。


「だが、いいのか? 長老達は様子を見るに、大丈夫そうではあるが……だからといって、人間や獣人との交流に反対するエルフがいなくなったわけではないだろう? もちろん、俺もエヴァルトと同意見なのだが」


 エヴァルトさんが宣言した事を、アルネが一応の確認。

 ここで言った事が、エヴァルトさんの独断専行で、他に多くのエルフさん達が反対したりしたらと考えての事だろう。

 聞いていて、アルネ自身も念のための確認っぽいから、ほとんどそんな可能性は考えてなさそうだけども。


「朝、モニカさん達に事情を聞いた後、集落内を駆けずり回った。元々、既に人間や獣人との交流が始まっていて、その人間や獣人が集落に来ている事もあり、反対する者はほとんどいなかった。いや、正確には皆無だったな。難色を示す者もいたが、それも消極的賛成といったところだ。これから次第ではあるが、なんとかなるだろう」

「そうか。なら、私も安心してリクと共に研究に励めるな。王都にいるフィリーナにも、良い報告ができそうだ」


 俺達が魔法具を求めてカイツさんやエクスさんと会っている間に、エヴァルトさんは集落内を回って話を付けて来ていたらしい。

 エルフにとっては、アルセイス様の事が最重要らしいけど、その事もあってどうしても俺と話したいとここに来たんだね。

 大体の答えはわかっていたようで、アルネは納得して頷いていた……少し安心した様子も見え隠れしているのは、フィリーナの事だけじゃなく誰かが強く反発するする事で、同じ集落のエルフ間で不和が起こらないか心配していたからと思われる。


「それもそうだが、フィリーナにアルセイス様が顕現なされた事を伝えても、驚くんじゃないか?」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る