第862話 クラウスさん達との会議



「リク様、何やら話がある様子。早く始めた方が良いのではないでしょうか?」

「あ、そうですね。朝早くからすみません、元ギルドマスター。マックスさんやマリーさんも」

「まぁ、気にするな」

「そうよ、リク。人でも増えたし、もちろんモニカ達にも手伝ってもらうから、店はなんとでもなるわ」


 クラウスさんやトニさんだけではなく、元ギルドマスターやマックスさん、マリーさんもテーブルについていて、話をするのを待っている。

 元ギルドマスターに言われて、早く話を始めた方がいいと思い、俺も椅子に座りながら皆に時間を取らせてしまった事を謝る。

 マックスさんやマリーさんは、自分達のいる獅子亭なので問題はないけど、お店の支度をしないといけないから、そちらも申し訳なく思う……本人達は、気にしないように笑っているけども。

 モニカさん、話している間の手伝いは頼みます……!


 ちなみに元ギルドマスターは、冒険者ギルド側という事で一応昨夜のうちに、今朝話をとお願いしておいた。

 本来は、もう冒険者ギルドの人じゃないんだけど、ヤンさんと連絡を取ったり、元とはいえギルドマスターだった人だから話をしておいた方が良さそうと考えたからだ。

 農作業は朝早くからあるらしく、朝食の時間よりも前に集まる事は問題なさそうだったけど、ルギネさん達の訓練や、農園にもいかなきゃいけないだろうに、わざわざ参加してくれてありがたい。


「えっと……とりあえず何から話したらいいのか……」


 話をすると決めたはいいけど、どう話したものか、何を言って良くて何を言ったらいけないのかの判断が難しい。

 国家機密だろう部分もあるからなぁ……。


「リク様、衛兵からの報告で最近のヘルサルの治安に関する問題について、お話がと聞きましたが?」

「ヘルサルの治安もそうですけど、原因というか、その治安を悪くしている人に拘わる話、ですかね」


 悪い事をする人が、全員ツヴァイの関係者というわけではないだろうけど、多くは口に毒を仕込んである形跡があったらしいから、そこの話はしておかないといけないだろう。

 もしかすると、獅子亭に迷惑をかけるのも出るかもしれないし、備えという意味でもマックスさんやマリーさんにも注意を促したい。

 マックスさん達やルギネさん達、場合によっては元ギルドマスターもいる獅子亭だから、多少の事なら簡単になんとかしそうではあるけども。


「ふむ、ヘルサルに人が増えているために、治安の問題ですか」

「そちらは、私共も把握しています。現在は衛兵による治安強化を徹底し、以前からの住民、ならびに新しく来られた方々が安心して暮らせるよう、務めております」

「……まぁ、外から来る人間が増えれば、そういう事だってあるだろう。そのあたりは、元から住んでいる奴らも、俺達もわかっている事だ」

「ですなぁ。困った事に、冒険者にもならず者はいます。なので、ランクが上の冒険者やギルドで監視できる部分は、気を付けて見ています……いえ、今はヤンがギルドマスターなので、私ではありませんが」


 まずは軽く、人が集まって来ている事での治安悪化の話をする。

 クラウスさんやトニさんは当然知っている事で、マックスさんや元ギルドマスターも、それなりに理解……というか、そうなるだろうと予想していた範疇のようだ。


「はい。衛兵さんからもそう聞いています。クラウスさん達が治安維持に努めている事も。ですが、その治安を乱している人の中に、特殊な人間が紛れ込んでいるようなんです。これは、クラウスさんは知っていると思いますけど……」

「……リク様の耳にも入りましたか。いえ、衛兵からの報告ではリク様が男達を取り押さえて、その後私へと話が来たので、もしやと考えてはいました」

「そうですね。まぁ、衛兵さんから聞き出しました。……無理にではないですけど、話してくれた衛兵の隊長さんはあまり責めないであげて下さい」


 無理矢理迫って聞き出したわけじゃないけど、あまり広めて回る事でもないから、俺に話した隊長さんが罰を受けたりしないようお願いしておく。

 クラウスさんとトニさんは、俺相手なら問題ないと頷いてくれた……良かった。


「それで、その特殊な人間というのが……まずは、元ギルドマスターやマックスさんにも、わかるように説明していくと……」


 まずはマックスさん達に歯に毒を仕込んで、何かあれば噛みしめる事で自死できる事や、その歯を無理矢理引っこ抜いた形跡のある人達に付いて話しをする。

 マックスさんや元ギルドマスターが理解できたところで、俺がルジナウムやブハギムノング、ツヴァイの研究施設であった事の一部をクラウスさん達にも話した。


「……リク様はそのような……つまり、何かしらの組織が各地に潜り込んでいるという事ですな?」

「はい。そして、その組織の人達は多くが口の中に毒を仕込んでいて、もし何かがあった場合に自分で自分に口封じをするようでした。逃げられる場合は、付近の協力者と連携して逃げようともしますね。まぁ、俺が今まで見たのは、ある程度組織でも役割を持っている人に毒が仕込まれているようでしたけど……」

「それが、ヘルサルで捕まった奴らの多くが毒を仕込まれていたと……話を聞く限りでは、小物がするような悪さをしている者も、という事か」


 俺が見た毒を仕込んである人は、ツヴァイやイオスなどの何かしら役割というか、幹部に近いんじゃないか? と思うような人物ばかりだった。

 研究所の研究者達は仕込まれていなかったけど、管理していた側であるツヴァイの手下たちは、半分くらいは仕込まれていた……かな?

 どういう条件で毒を仕込まれるのかわからないけど、全てが自分の意思でというわけではないのはヘルサルでの状況を見てなんとなく思った。

 自分の意思で毒を仕込むんだったら、歯を引っこ抜いたりはしないからね……誰かに引っこ抜かれた可能性もあるから、絶対じゃないけど。


「どういう条件で毒を仕込んでいるのかはわかりません。そして、誰が仕込まれているかは、実際に捕まえてみないとわからないんです。見た目で判断できる事じゃないので……」


 口の中なんて、それこそ本人が見せようとしなければ簡単に隠せるからね……しかも、チラッと見ただけじゃ本当に毒が仕込まれているかどうかもわからない。


「ヘルサルだけの事かと思っていましたが、リク様だけでなく国全体に影響を及ぼす可能性もある事だったのですね……」

「そうですね……向こうは、アテトリア王国の人達がどうなろうと関係ない。むしろ、混乱を来たしたり、人が減ればいいくらいは考えていると思います」

「国全体か……それは、私も手に負えんな。というより、今はしがない農作業者なのだが……冒険者ギルドのギルドマスターでも何かできる事ではないだろう」

「そうですね。でも、ヘルサルの治安を守ろうとするくらいはできると思います。目を光らせる人が増えるだけでも、随分違うかと」

「つまり、現ギルドマスターのヤンや冒険者も協力して治安を維持させ、何か企んでいる者がいたとしても、計画を勧めないようにですね?」



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