第842話 相変わらず無自覚なリク
「あとは、あの服装もだな。マリーに言われて渋々変えてもらった……リクも覚えているだろうが、あのままで働かせるわけにもいかないからな」
「あー、あれですね」
物足りない、というわけじゃないけど前回会った時のルギネさんが、今回と違う部分は服装。
前回は煽情的とでも言うのかな? ある意味目を引くけど、目のやり場に困るビキニアーマーっぽい物を身に着けていたけど、今はヘルサルの街中でも見かけるような服を着ている。
アンリさんとかも、多少露出が多目の服装だったけどルギネさんは特にだったからね……あのまま獅子亭で働くのはさすがに……今はいないけど、エアラハールさんとかが見たらすぐに飛びつきそうだ。
というか、男を敵視と言わないまでも避けているのに、どうしてあんな恰好をしていたんだろう?
「いやまぁ……あれは自分が女である事の証明と、パーティ内で評判が良かったから……今はこの服装にも慣れたからいいが、以前はあれを着ていないと落ち着かなかった……」
「という、特殊な考えだったのよ。もう、無理矢理服を着せて店に出す事にしたわよ。あのままお客さんの前に出ようとするんだものねぇ……評判はともかく、近くにアンリちゃんがいるから、同じ女性として自分に自信がなくなりそうになるのはわかるんだけどね」
「あはは……まぁ、あのままじゃさすがに出られませんよね」
責められているように感じるのか、尚も体を縮こまらせながらおずおずと呟いた。
ため息交じりに言葉を継いだマリーさんが、無理矢理ルギネさんに服を着せたらしい……きっと、平気な顔をしてあのビキニアーマーっぽい鎧を着たまま、接客しようとしたんだろうなぁ。
女の証明、という意味では確かにあの鎧は一目でわかるんだけど、男からすると目に毒だとか困る事もあるからね……アンリさんの自己主張激しく、エルサが気に入ってしまった胸部とか振る舞いを見ていたら、確かに女性として色々と考えてしまうのかもしれないけど。
「俺はマリー一筋だから、変な目で見ないと自信を持って言えるが、それでもあれはなぁ……」
「ともあれ、マリーさんに着せられた服も慣れて、ちゃんと働いているんだから良かったです。――ルギネさんも、前の鎧はちょっと目のやり場に困る事が多かったですけど、今着ている服は似合っていていいですね」
「っっ!!」
「……はぁ~」
「ん、あれ?」
マリーさん一筋なマックスさんでも、ルギネさんのあれには困っていたらしい……まぁそりゃそうか。
ともあれ、今は問題ない恰好をしていてちゃんと働けているので、少し安心かな? 俺が心配する必要はないんだろうけど。
あと、あまり表に出さなくても、アンリさんと比べてしまう事で過激な方向へ行ってしま他のかもと思い、今の恰好を褒めて自信を持ってもらおうと、ルギネさんに笑いかけながら似合っていると言う。
すると、俯いていたルギネさんがパッと顔を上げ、俺を凝視しながら瞬間的に真っ赤になり、他の皆からはなぜか溜め息が漏れた……どうしてだろう?
さっきまで船を漕いで眠そうだったユノやエルサすら、大きなため息を吐いているし……俺、変な事を言ったかな? ただルギネさんを褒めただけなんだけど……。
「はぁ……これが他の皆……じゃいけないな。特定の誰かに向いて気が利いていれば、リクは完璧なんだがなぁ……」
「でも、最近はそれじゃリクさんっぽくないと思うようになってきたわ」
「モニカも苦労しているな。エルフはそういった方面には弱い事が多いのだが、それでも今のはちょっとな……」
「あまり長く一緒にいたわけではない私でもわかるのに、リク様ってそうなんですね……」
「いつものリクなのだわ。多分これからも変わる事はないのだわ」
「もう少し、女心をわかって欲しいの……」
「俺は、喜んでいいのやら……よくわからないな」
「あなたは、本来悲しむべきなんじゃないの? いえ、娘が大事なら怒るべきかしら?」
「リクが……リクが私の、私の事を褒めてくれた……」
皆がそれぞれに、俺へとジト目を向けたり溜め息を吐いたりしながら、それぞれで話し始める……あれぇ?
なんというか、俺が問題発言をしたような反応だけど、そこまでおかしなことは言っていないよなぁ?
ルギネさんだけは、真っ赤になってまた俯いてしまったけど……うーん……よくわからない。
女性の服装をあまり親しくない、男の俺が褒めるのは不躾だったとか、そういう事だろうか……。
結局、よくわからない状況はアンリさん達が戻って来るまで続き、俺が聞いても溜め息を吐かれるくらいで何がなんだかというままだった。
アンリさん達が戻ってきた後は、事情を聞いたグリンデさんが俺に敵意を向けていたような気がするけど、苦笑したアンリさんがルギネさんを連れて獅子亭で借りている部屋へと連れて行ってから、解散となった。
とりあえず、問題はなかったという事にしておこう、うん……よくわからなくても前向きになる事は重要だと思うから――。
「それではリク様、また明日」
「俺はソフィーから剣を預かったから、部屋で調べるか……」
「フィネさん、おやすみなさい。――アルネは、熱中し過ぎて寝不足にならないようにね?」
微妙な雰囲気のまま、解散になった後獅子亭を出て、宿へと戻った。
モニカさんとソフィー、ユノは空いているモニカさんの部屋で一緒に寝るようだけど、ルギネさん達がいるので予想通り他に部屋の余裕がなく、俺達は宿で休む。
宿の廊下で自分達の部屋に戻るフィネさんに挨拶をして、アルネには注意をしておく。
というかソフィー、あの振動する剣をもうアルネに任せたんだ……そのために買ったんだろうけど、アルネが研究に没頭し過ぎないように気を付けないと。
そんな事を考えつつ、ほぼ寝ている状態のエルサを連れてお風呂場へと向かった。
「ぶわ!? な、なんなのだわ!」
「エルサ、お湯に顔を突っ込むから……よっぽど眠かったというか、寝てるからだよ」
お風呂場では湯船に浸かるようにはなっていないのが残念だけど、桶に溜めていたお湯に寝入ってしまって頭をコクンッと下げたエルサが、鼻からお湯を吸い込んでしまったようで、びっくりしていた。
込み上げる笑いをこらえながら、洗っている最中に寝ないよう注意してエルサにお湯をかける。
いつもならもう寝ている時間だから仕方ないし、お風呂好きのエルサは現れている時も気持ち良さそうにしているから、寝入ってしまうのもわかるんだけどね……お湯につかっていないからいいけど、お風呂で寝るのは危険だ。
エルサが抗議をするように、体を震わせて毛から水気を飛ばしてきたりするのを受けながら、なんとか自分も含めて洗い終わってお風呂は終了。
部屋まで戻るまでの間で、またエルサは寝てしまった……まぁ、ドライヤーもどきをやるといつもすぐ寝るので、あんまり変わらないかと考えつつ、エルサの毛を乾かしてベッドに寝かせ、俺も就寝した。
というか、ヘルサルに来て昼食を食べてから、ほとんど寝ていたのによく寝られるなぁ……寝る子は育つとかかな? エルサが子かどうかは疑問だけど――。
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