第840話 マックスさん達へ説明



 全員がフルで働き続ける……というのは、当然全員が疲労していく事になるから、俺もモニカさんが言うように少しくらい休んでもいいんじゃないかと思うんだけど……。

 通常、俺が知っている飲食店とかはシフト制で交代しながら働くんだけど、それができない状況というのはいつまでも続かないんじゃないかと思ってしまう……まぁ、日本とは考え方や働き方が違うのは当然だけどね。

 まぁ、元々家族経営のお店だし、俺が知っている獅子亭ではある程度休む余裕があったから、全員が疲れ果てるという事はなかった。

 せめて定休日とは言わなくても、営業時間を少なくするとかで対応した方がとは思うけど、今の様子を見るとマックスさん達が受け入れてくれそうにないなぁ……。


「まぁ、俺達の方はなんとかするさ。新しく人手を雇うよう考えているしな」

「そうなの?」

「料理人の方はちょっと時間がかかりそうだけど、給仕の方は多く雇えると思うわ。近所に時間が余っている奥さん方とかもいるのよね。そちらはなんとかなると思うわよ」

「早く見つかって欲しいわぁ……最近、私達って本当に冒険者だったのか、忘れそうになる事があるからねぇ」

「冒険者の活動をするために、依頼以外でお金を貯めようと働き始めたはずなのに、それは本末転倒のような……?」


 料理人を雇うとするなら、ルディさんのように最初からある程度できる人を雇うか、一から教える人を雇うかとかもあるし、すぐにというわけにはいかないか。

 でも、マリーさん達の方を手伝える人は、なんとかできそうなら良かった……かな?

 仕事を覚えてもらったり教えたりする必要はあるけど、難しい事は多くないし、忙しい時はさっきの俺のように皮むきなどの簡単な事もできるだろうから。

 マリーさんが当てにしている様子の奥さん達なら、料理をした事もあるだろうし、マックスさん達の補助も期待できそうだ。


 それはともかく、冒険者としての活動資金を得るために働いている部分が大きいのに、冒険者だという事を忘れそうになるというのは、本末転倒過ぎるように思う。

 獅子亭で忙しく働いしているから、冒険者として依頼を受ける事ができないのが原因だろうけど……まぁ、ヤンさんや冒険者ギルドの様子を見る限り、緊急の依頼はなさそうだし依頼そのものもあまり多くないんだろうけど。


「俺達の方は、なんとかするから心配はいらないさ。それよりも、リク達はどうして急にまたヘルサルに戻って来たんだ? 手伝ってもらってから聞くのもなんだが……」

「そういえばそうよね? リクやモニカ達が元気なのは見て安心するけど……ただの里帰りというわけじゃないんでしょ? モニカは、リクと一緒にいれば私達の事は忘れていそうだからねぇ」

「それは父親として、ちょっとどころではなく寂しいんだがな……」

「いやいや、母さん達の事を忘れたりしないって! 父さんや母さんの事だから、大丈夫だとは思っているからよ!」

「ははは……ヘルサルへは様子を見に戻ってきました。農場予定地へ結界を張っただけで、放っておくというわけにもいきませんから。まぁ、他の用もあったので、通りがかりに寄ったってのもありますけど……」


 マックスさん達に、ヘルサルへ来た目的や王都を離れている理由などを、簡単に説明する。

 農場の様子を見に来たのは当然伝えたけど、エルフの集落へ行く目的はちょっとぼかしながらだね。

 まぁ、冒険者ギルドと直接関係ないマックスさん達なら大丈夫だと思うし、姉さん達からハウス栽培に関して秘匿するとも言われていないので、問題ないと思うけど……本当にアルネ達以外のエルフの協力が得られて、確実にハウス栽培ができるようになってから伝えた方がいいと思ったから。

 作物に関しては、料理を提供する獅子亭の仕入れにも影響するだろうし、変にぬか喜びさせて結局駄目でした……とは言いにくいからね。


「成る程な、またエルフの集落へか。だからアルネがいたのか。だが、フィリーナはどうした? 前回はフィリーナの方が来ていたが」

「今回は王都で留守番しているって言ってました。アルネとは別の事に興味を持ったようで、それを調べているみたいです」

「そうか」

「アルネは王都でも会った事があるし、リクと一緒にいるのはわかるわ。でも、もう一人女性を連れていなかった?」


 前回はフィリーナが獅子亭に来ていたので、マックスさんは少しだけ気になったようだ……まぁ、特別な事情というわけでもなく、フィリーナが残りたいと言ったから、今回は連れてきていないだけだ。

 納得したマックスさんとは別に、マリーさんはフィネさんの事が気になった様子。

 ルギネさんが俺達を見つけて、すぐに奥へ行ったのにちゃんと見ているのは、さすがマリーさん。


「あの人フィネさんって言って、Bランクの冒険者です。本当は、ここから北の方にある領主貴族の人に使えていたんですけど、今は訳あって一緒に行動しています」


 さすがに、フランク子爵やコルネリウスさんの事を全て説明するわけにはいかないので、訳あってとぼかしておく。

 息子のコルネリウスさんに関して広まるのは、フランクさんも喜んだりはしないだろうからね。


「リクーだわぁ!」

「エルサ?」

「あらぁ?」


 マックスさん達に、諸々の事情説明をしていると、フィネさん達に任せていたエルサが小さい体のままで翼を出して、俺達の方へ飛んできた。

 ただし、突撃した先は俺じゃないけど……。


「……だわぁ……リクとは違うけどだわ、ここも心地いいのだわぁ」

「んぅ……ちょっとくすぐったいわぁ、エルサちゃん?」

「……エルサ、急に飛びつくのはアンリさんが驚くから、今度から気を付けるんだぞ?」

「だわぁ……わかったのだわぁ……」

「はぁ……」


 空中を飛んで突撃したのは、アンリさんの所……前回来た時にも、抱き上げられて気持ち良さそうにしていたっけ。

 アンリさんの豊満な胸に飛び込んだエルサは、体を擦り付けるようにしているため、アンリさんはくすぐったそうに笑っているけど、急に飛び込んだら驚かせてしまうから気を付けさせないと。

 あと、自分で女の子とか言っていたはずなのに、邪なオジサンみたいな事をして……エアラハールさんの癖がうつったとか? 違うか。

 ……エルサが飛び込むなら俺の所だったはずなのに、なんて考えてちょっと寂しかったりはしない……けど、おやつのキューはしばらく減らしたいと思う……むぅ……。


「エルサちゃんが、こちらに飛んで来たともいますけど……あぁ、アンリさんの所にいるんですね」


 エルサが急に飛び出したからだろう、様子を見に来たカテリーネさんが声をかけながら厨房に入って来る。

 その後ろには、ルギネさん達やフィネさんとアルネもいた。


「まぁ、ここでこのまま話し込んでいてもいけないか。マリー?」

「そうね……まだ残っているお客さんも、料理皿が空になっているわ。追加を注文する様子もないし、そろそろ帰るように見えるから、ちょうどいいかしらね」

「だな。それじゃ、話しは後にして後片づけだ! 遅くはなったが、夕食の準備もな。客が帰るまでは気を抜くなよ?」




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