第837話 謎のエルフ製作の剣



「ふむ……リクのあの剣、俺も確認させてもらったが……エルフが作った形跡が見られたな」

「はい。仕入れの際に聞きましたけど、随分前にエルフが作って売った物だそうです。ただ、そのエルフが何者かは誰にもわからないとも……」

「……随分前か……どれくらい前なのかは、ここで聞いてもわからないだろうな。リクの剣を見る限りでは、少なくとも数十年……場合によっては百年以上前のエルフの魔法技術が使われていた」

「百年以上!? そんなに前なの?」


 話が完全に俺の剣に移ったから、ソフィーが肩を落としながら別の剣を見に離れる中、アルネが以前俺の剣を見た時の事を思い出しながら話す。

 イルミナさんも仕入れ先も詳しい事は知らず、エルフが作ったとだけしかわからないようだけど、実際にかけられている魔法の術式なんかを見て、アルネは大体いつの物かを判断したみたいだ。

 でも百年前かぁ……そんなに前の剣が、今俺が使う物になっているというのは、ちょっと想像しづらい。


「少々古い技術でな。今エルフの集落であの技術を使う者はいない……忘れられたわけではないが。だがリク、知っての通りこの国でエルフと人間が積極的に交流を始めたのは、つい最近の事だ。長老達に会っただろう? 百年前くらいだと、まだあの長老たちの発言力が大きかった頃だ」

「あー、人間を毛嫌いしてたエルフさん達だね。まぁ、俺も人間なのに色々と誘われたけど」

「リクは人間離れしているからな、それで人間に対すると見方をしなかったんだろう……」

「俺、れっきとした人間なんだけど……まぁそれはともかく、エルフが作って売った剣なのに、売られた時にはエルフと人間が交流していなかったって事だよね?」


 俺は間違いようもなく人間なんだけど、長老さん達からすると人間と同じに見えなかったのかもしれない……むぅ。

 エルサのようなドラゴンと一緒にいたり、通常ではありえない魔力量やドラゴンの魔法を使っているから、最近では自分でも人間離れしているなぁと感じる事はあるけど。


 それはともかく、いつ頃からかは正確に知らないけど、アテトリア王国内で人間とエルフが積極的に交流を持つようになったのは、エヴァルトさんやアルネ、フィリーナのような若いエルフが台頭して来てからの事だというのは聞いている。

 まぁ、若いと言っても俺の数十倍は生きているんだけど。

 長老達は、はっきりと人間を嫌っているような言動だったから、あの人達の発言力が強い時に、集落の外でエルフが作った物を売るというのは、難しそうだ。


「絶対に集落の外へ技術を売ったり漏れたりする事がない、とは言えないんだがな。そうでないと、魔法が今も昔も広く人間に使われていたりはしない。ともあれ、魔法具……それも技術を詰め込んだような剣で、しかも使われなくなった技術とはいえ、あれは洗練され過ぎていた……」

「アルネから見ると、そんな風に見えるんだね……俺からすると、ただよく斬れる剣なんだけど」

「魔法理論や技術に詳しくなければ、そんなものだろう。ともかく、古い技術でありながら、今の技術ですら追随を許さない程の物になっているんだ。それはつまり、作られた時のエルフの技術の中でも最高峰に位置すると考えていい。なのに、交流の少ない人間に売ったというのはどうもな……」

「ちょっとした技術とかなら、人間に売る事があったみたいだけど……その時偶然に漏れた……というのは考えにくいかぁ……」


 閉鎖的だったエルフの集落。

 人間を警戒してもいただろうから、生活のために最低限の交流はしていても、自分達の最高峰の技術が漏れるのは容認できないはずだ。

 最先端技術を外に漏らさないよう、秘匿するようなものだね。

 だからこそ、他の物と一緒に外へ漏れるというのは考えにくいと……。


「むしろ、高度な技術過ぎたから、売っても人間が理解できないだろうと思った……とかはないかな?」

「人間を見下している長老達なら、その驕った考えももしかしたらあるかもしれないが……わからんな。当然ながら俺も生まれている頃の話のはずだが……あの時にそのような話はなかった。所詮は集落で狭いから、最高峰の技術が詰め込まれた剣を作ったり、それが売られたという事があれば、噂くらいは聞いているはずだ」

「……そう、だね。そう言えばアルネもフィリーナも、既に生まれている時の事か。うーん……そういえば、エルフの集落って剣を作ったりするのかな?」

「しないわけではない。だが、鍛冶技術は未熟と言わざるを得ん。火を使わないなんて事はないが、その辺りはやはり人間に劣る部分だな。森の生活に慣れ過ぎた……と言う事は、リクの剣はエルフの集落の外で作られた? いや、だがあの魔法技術は確かにエルフの技術で……」


 結局のところ、エルフが作った事や技術は古いが今の技術でも不可能なくらい、高度であるという事くらいしかわからない……まぁ、ここで話していたってそんなものだろう。

 エルフの集落に行くのだから、考え込むアルネに向こうで情報を集めてみては? と提案してその場は終わった。

 あとは、しばらく適当な武具を見つつ、装備の消耗品などを買ったりして時間を潰す。

 ……冷やかしに来るだけだったら、イルミナさんに悪いからね。


 手入れ用だったり、簡単な手入れをしてもらったり、一概に武具と言ってもその物を買っただけでずっと使えるわけじゃない。

 俺の剣は特別だけど……あと、エアラハールさんからの指示で持って来ている、折れそうなボロボロの剣とかはそのままだけど。

 新しい武具を買ってはないけど、それなりの金額になるもんだな……と思ったら、ソフィーがこっそり振動剣を買って、王城に届けるようにイルミナさんへ言っていた……やっぱり欲しかったんだ。

 アルネに研究してもらって、完成させてもらうとか呟いていた――。



「あ、モニカさんこっちこっち!」

「リクいたのー。モニカ、モニカ」

「はいはい、今行きますからねー」

「ちょ、ユノちゃん。走るとはぐれてしまいますから!」


 イルミナさんの店を出てから、合流する大通り周辺で少しだけ待っていると、遠目にモニカさん達が歩いているのを見たので声をかける。

 さすがに他の人達から注目されてしまっているけど、ヘルサルの人達には慣れているから大丈夫そうだ……何人か、俺に手を振ってくれているので、モニカさんを呼ぶついでに降り返しておく。

 モニカさんとフィネさんは、間にユノを挟んで手を繋いでいて微笑ましいんだけど、俺を見つけて駆け出そうとするユノを抑えてちょっと大変そうだ。

 ……モニカさんはルジナウムにいた時に慣れているのか、保護者感が出ているけど、フィネさんはちょっと戸惑っているみたいだ……まぁ、あの小さな女の子が剣でエアラハールさんすら敵わないのだから、気持ちはわかる。


 見た目とのギャップに戸惑っているのを、王城にいた時から見かけていたからね。

 ユノ自身が騙そうとか、悪気とかはないのでそのうち慣れてくれると思う。



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