第834話 組を別けて別行動



「うーん……それじゃ、それぞれ別れて街を見たりのんびりするなりして、頃合いを見て獅子亭に集合、かな?」

「獅子亭に入る時は、他の皆もいて欲しいな……ルギネがうるさそうだ」

「あー、ソフィーはそうだよね。じゃあ、近くで合流して獅子亭に行こう。大体……日が暮れて少ししたくらいに合流でいいかな?」

「そうね。完全に日が落ちた後、少し待つくらいで獅子亭も落ち着いた頃でしょうから」

「じゃあ……それぞれの別け方は……」


 皆でバラバラに行動して、頃合いを見てから合流……その後獅子亭へ向かうという事で決まった。

 ソフィーは一緒にいる人が少ない状態で獅子亭に入ると、ルギネさんからの勧誘や追及がありそうだから、皆と一緒がいいんだろう……前回は早とちりから変な絡まれ方もしていたから。

 獅子亭は常連さんが遅くまで残っている事もあるけど、ピーク時さえ避ければある程度落ち着いて挨拶できるだろうからね。

 そうして、とりあえず皆それぞれに別れて行動を開始した。


 分け方は、まず俺とエルサにアルネとソフィーで、武具店を見るくらいののんびりした組。

 モニカさんとユノとフィネさんの、適当に見て回りながら露天商のお婆ちゃんに会いつつ、ヘルサルをよく知らないフィネさんに案内も兼ねている組の二組だ。

 三組くらいに別れると思ったけど、とりあえずついて行くフィネさんとアルネが別れたくらいで、色々見て回りたい組と、目的が決まっている組で別れた感じかな。

 俺も、イルミナさんの店で珍しい武器とか見てみたいし……あと、以前買った黒い剣が役に立っていると、お礼も言いたいからね……エルサは寝ているからそのままだ――。



「いらっしゃいませ! って、リクさん!? と……ソフィーさんも一緒ですかぁ」

「イルミナさん、お久しぶりです」

「イルミナ、しばらくぶりだな。何か、面白い武具が入ったか?」


 イルミナさんの店に入ると、元気よく迎えてくれるイルミナさん。

 俺を見て驚き、ソフィーを見て納得した雰囲気……ソフィーがもう常連のようになっているのは、何度も足を運んでいるからだろう。

 本来このお店は、イルミナさんの両親がやっている店なんだけど、その両親は国中の珍しい武具を探して各地を転々としている事が多く、イルミナさんが切り盛りしているので、通う人の間では既にいる皆さんの店と呼ばれている。

 ちなみに、珍しい武器を見つけて仕入れるかどうかの最終判断は、店を切り盛りしているイルミナさんが決めるらしいので、完全にイルミナさんが店の主人と言っても過言ではなくなっているとかなんとか。


 半分以上、面白さで仕入れる武具を選んでいる部分もあるらしく、経営は大丈夫なのかと心配になったりもするけど、意外にも受けがいいらしく、売り上げは悪くない……とかなり前にユノを可愛がりながら話していたりもする。

 実用性皆無どころか、魔物相手にいざ使おうとすると危険な物もあるので、本当に売れるのか疑問ではあるんだけど……ネタ用とかかな?

 まぁ、変な効果が出る魔法具も、単純な武具として使えばそれなりの質の物が多いので、効果は無視で売れてたりするのかもしれない。

 まともな効果じゃない物って、安売りしていたりするから……それで採算が取れるのかは俺にはわからないけど。


「ふむ……ここには魔法具になっている武具が、多く置かれているのだな」

「イルミナの店は、珍しい物が多くて面白いんだ。通常では仕入れないようなおかしなものもある」

「ソフィーさん、私の店を変な店のように言わないで下さい……って、エルフ……ですか!?」

「いや、実際に変な店と言えなくもないのだが……他の店では見ない、実用性皆無な物もあるしな。あぁ、こちらはエルフのアルネだ。色々あってリクや私達と一緒に行動している」

「おぉー! エルフをこの目で見られるとは……眼福とはこの事を言うのですね! ユノちゃんとはまた違った眼福さですよ!」


 眼福さ、という数値的なものでもあるのか、アルネを見て感動している様子のイルミナさん。

 王都で慣れたのか、アルネはエルフの特徴とも言える耳を隠していないから、すぐにわかったんだろう……街中を歩いていてもある程度見られていたけど、俺と一緒にいる事で皆納得していた。

 なんで俺なら納得できるのかは疑問だけど……イルミナさん、俺の事はすっかり忘れた様子だ。

 まぁ、改まって歓迎されたりするよりマシだから、気にしない。


 あと、アルネは美青年で目を引くからね……ユノは可愛い子供的な意味だろうし、わからなくもない。

 エルフらしいと言えばらしいかな、フィリーナも美女だ。

 とはいえ、近くにいてよく接しているからもう慣れたし、エルフの集落に行けば美形ばかりだからね……羨ましく思う事は多少なりともあるけど。


「はっ! あ、あのー……ここにある魔法武具は、ほとんどお遊びのような物なので……エルフの方が見る程のものでは……」


 アルネの容姿に驚いていたイルミナさんは、急に何かに気付いてハッとなり、恐縮した様子でアルネに言った。

 確かに、お遊びとしか言えないような効果の物が多いけど……なんで急に恐縮しだしたんだろう?


「……イルミナさん?」

「ふむ、アルネを見て急にか。何かエルフに対して思う事があるのか?」


 首を傾げる俺と、イルミナさんの視線を追ってアルネを見るソフィー。


「……まぁ大方、エルフが魔法具を見て何か文句を言うのではと考えたのだろう。魔法具を作るのはエルフだけでなく人間もだが、やはり効果の高い物を作るのはエルフ、と思われているようだからな。王都で魔法具を売っている店に行った時も、似たような反応をされた」


 アルネ本人は、イルミナさんの反応と似たような状況に遭遇した事があるらしい。

 人間が作った魔法具だからとか、効果がどうのとか文句を言われるのではないか……とイルミナさんは考えたみたいだね。


「そういえば、アテトリア王国の魔法や魔法具はエルフが主に研究開発しているって聞いたっけ」

「実際には、エルフが魔法に関する理論ややり方を見つけ、それを人間が応用している事が多いがな。魔法具を作る事もあるが、人間の方が多くを生み出している。おそらく、改良する方が人間には合っているのだろう。その過程で作られた物は、ソフィーが言っていたように実用性皆無の物もあって、俺も何度か見た事がある」

「つまり、アルネはここにある変な魔法具を見て、注文を付けたり文句を言ったりは?」

「しないな。既に作られている物だし、実用性がないと言っても、何かの過程で作られた物かもしれない……研究をする者としては、それに何かを言う事はない。まぁ、改良をして良くなる余地があるかを考えるくらいはするがな」


 魔法の理論を作るというか、詳しいエルフからしてみると、ここにある魔法具はおもちゃみたいな物に感じるかもしれないけど、それも応用するうえの過程で作られた物であり、悪くいう事はないとの事。

 研究者でもあるから、逆に新しい発想だとか、面白い物を見るような感覚なのかもしれない――。



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