第833話 ヤンさんへの挨拶終了
ヤンさんからの質問に、依頼をしばらく受けない事を伝えつつ、どう説明したもんかと少し悩む。
言われている通り、冒険者だからといって全てをギルドに報告しなきゃいけないわけじゃないし、強制もされない。
そこはまぁ、冒険者とギルドとの信頼関係にも繋がるんだけど……一応、ハウス栽培の事に関してはギルドよりも国に関係する事だから、はっきりと教えていいのかどうか微妙なところだ。
「俺が魔法研究のために、必要な話をするので一度里帰りをする、というだけです。リクには、ちょっと付き合ってもらっている形になります。まぁ、エルフの集落と王都を往復するのは、かなりの日数がかかりますから」
「成る程……エルフの方が魔法研究というのは、今後の魔法に関しての発展が望めそうですね」
「そ、そうですね。それで、途中にあるヘルサルの様子もついでに見ようと思って、ここに寄ったんです」
国が豊かになる事はギルドとしても歓迎する事だろうけど、冒険者が国の用件で動いているのは歓迎されないだろうし……と思っていると、アルネが代わりに説明してくれた。
アルネは国からのお願いと、冒険者ギルドとの関係をフィリーナから聞いていたんだろう……フォローしてくれて助かった。
便乗して、アルネを送るついでにヘルサルに寄ったという事にしておこう。
ヤンさんになら詳しく話をしても問題ないと思うけど……実際まだハウス栽培に着手する前だし、一応伏せさせてもらうという事で。
「北側の緊急事態を解決した後は、南のエルフの集落……リクさんも忙しいですね……」
「ははは……まぁ……」
「あぁ、農場の様子を見に来たというのなら、クラウス殿にも?」
「はい、会って話を聞いてみようと思っています。まぁ、忙しい人なのであちらの様子を窺いつつ……ですけど」
「でしたら、私からリクさんが話したがっていると伝えておきましょう。正確には、使いの者を出すだけですが……リクさんからと言えば、クラウス殿ならすぐに対応してくれるかと思います。それこそ、今日中に獅子亭に向かうかもしれませんね……っと、やはり今回も宿は獅子亭で?」
「それは助かります。あ、でも……今回は獅子亭ではなく……」
クラウスさんに、俺達に変わってヤンさんがアポを取ってくれるみたいだ……俺が直に行くよりもそっちの方がいいかな。
俺からと言うと、クラウスさんは本当に仕事を放っておいて駆け付けかねないけど、そこはトニさんが押さえてくれると願いつつ、ヤンさんへ獅子亭では泊まれないだろうという事情も説明。
とは言っても、獅子亭にリリーフラワーの人達が滞在しているのは知っていたらしく、宿を取ったと言うとすんなり納得してくれた……やっぱり、ルギネさん達は獅子亭にずっと滞在しているようだね。
あと、ついでなのでトニさんが大変にならないように、クラウスさんと話したいけど、俺からというのを伏せて欲しいともお願いしておいた。
本当に飛んで来たら仕事が片付かないし、トニさんに負担がかかってしまうからね。
そこに関しては、ヤンさんがギルドの部屋で話せるように手配してくれるのと、アポを取るのも問題ないと請け負ってくれた。
ギルドマスターになったからこそできる事、とちょっと楽しそうだったな……職権乱用だけは、辞めて下さいね?
――ヤンさんとの話を終えた後、相変わらず注目されながら冒険者ギルドを後にした。
他に用がある場所はないし、このまま獅子亭に行くのがいいかと皆に提案してみた。
「ちょっと考えていたより少し早いけど、獅子亭に向かう? ヤンさんが、クラウスさんに連絡してくれるって言ってくれたから、予想より早かったけど……」
「そうね……今の時間からだと、そろそろ忙しくなる時間ね」
「獅子亭の料理は待ち遠しいが、まだ昼食からあまり経っていないしな」
「獅子亭で食事をするなら、夕食時が終わってからになるわね。今からだと、多分挨拶もそこそこにお店を手伝う事になると思うわ。もちろん、私は慣れているからそれでもいいんだけど……」
「うーん……俺も手伝うのは構わないけど、今回はフィネさんやアルネもいるからね。適当に済ませるよりは、ちゃんとした紹介と挨拶をした方が良さそうだね。」
今は大体おやつ時くらいの時間……日が傾き始めそう、というくらいだからまだお腹もすいていないからね。
モニカさんも手伝うのはやぶさかではなさそうだけど、フィネさんやアルネを紹介したり挨拶をしっかりするなら、夕食時の準備を始めているこの時間はさけた方がいいだろうと、意見が一致した。
まぁ、アルネは王都でマックスさんやマリーさんと会った事があるはずだけど、ルギネさん達は初めてだから。
「私は、改まって紹介されなくても適当でいいのですが……」
なんて、フィネさんが呟いていたけど、パーティではないにしろ同行者というか仲間だから、こういうのはちゃんとしたい。
マックスさんはともかく、マリーさんとかは仲間意識とかそういう部分に厳しそうだから。
「じゃあ、お腹を空かせるのも含めて、夕食時の一番忙しいのは避けるとして……これからどうしようか? 適当なお店に入って、お茶でも飲みながらのんびりする?」
「そうねぇ……久しぶりと言う程じゃないけど、私としては馴染みのある街だから、見て回りたい気持ちもあるわ。前回戻って来た時は、母さんに捉まってろくに外へ出られなかったし……」
「あぁ、そう言えばモニカさんはマリーさんにしごかれてたよね……」
「私は、自由に動けるなら武具店とかも見ておきたい。前回来た時も一応見ていたんだが、何か珍しい物が入っているかもしれないからな。あの店は、王都にない珍しい物を仕入れていたりする。実用に足る物かどうかはまた別だがな」
「私は、お婆ちゃんに会いたいの! 元気になっているはずなの!」
「私は皆様に任せます。初めての街なので、どこに何があるのかもわかりませんし……」
「俺は、エルフの集落や農場で結界などを見る以外は、特に目的がないからな。リク達に任せる」
「ぐぅ……ぐぅ……だわぁ……」
お茶を飲んで時間を潰すという意見は、賛同者がいないようで少し寂しかったが……ともあれ、皆の意見だ。
モニカさんは街を散歩気分で見て回りたくて、ソフィーは武具店……俺が買った剣や、モニカさんやソフィーの魔法具でもある武器を売っていた、イルミナさんの店だろう。
あそこは、実用性はともかく確かに珍しい物を多くし入れているみたいだから……イルミナさんの趣味で。
あと、ユノはがま口財布を売っていた露天商のお婆さんに会いたいか、前回来た時は怪我をしていたのを俺が治したんだったな……元気になっているはずだ。
フィネさんはラクトスに詳しくなく、アルネは目的外は特に意見があるわけでもないので、皆について来る……と。
エルサはヤンさんと話していた時から、退屈だったからか満腹だからか、寝言っぽい声を漏らしながら俺の頭で熟睡中で、特に意見はなしと――。
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