第825話 クォンツァイタは魔物集結装置に使われていた



 さらに続くアルネの説明では、埋めたクォンツァイタを遠く離れた場所と魔力通路を繋げておいて、定期的に魔力を流して補充すれば、長期間魔物を集め続ける事ができるだろうとの事。

 魔物は魔力が放出されている場所では、満たされて落ち着く事が多いという観測もされているらしく、そのために種族の違う魔物が集まってもお互いが争う事がほぼなかったのかもしれない。

 とはいえさすがに、遠くから魔物を集めるに足る魔力を流すなんて、エルフにすらできない事だろうから、イオスかモリーツか……それとも別の人物が、ツヴァイのように異常な魔力量を持っていたのだろうという推測もあった。

 これに関しては俺も考えていた事だから、腑に落ちる……こんな事なら、イオスやモリーツさんの魔力を確認しておけばと思ったけど、まぁ済んだ事だから後悔しても仕方ない。


「とはいえ、全てが今の推測の通りというわけではないだろうが、クォンツァイタの性質を改良して利用したのだろうな」

「そうだね。魔物がなんの理由もなく集まって、しかも争わないなんて通常じゃ考えられないから、作為的だとは考えていたけど……クォンツァイタを利用していたんだね」

「あぁ。そして、魔力が満ちていれば魔物達は落ち着いていると言ったが、その満ちた魔力の供給が絶たれたら……」

「おとなしくせず、動き始める……いや、今まで満ち足りていたものが急になくなったから、暴れ始める……かな?」

「あ、もしかして……!」

「モニカさんが見たって言っていた、赤くなった目というのは、その供給が絶たれた瞬間なのかもしれないね」


 今まで満ち足りていた物がなくなったために、暴れ始める魔物……近くに別の種族の魔物がいるが、少し移動したら人間の物と思われる魔力が集まっている……。

 そこで、標的になったのがルジナウムだったのかもしれない。

 全て予測ではあるけど、これならある程度は説明が付くか……もしかしたら、放出されていた魔力にも、エクスブロジオンオーガを復元する時みたいに、何か仕込んでいた可能性だってある……それこそ、魔力供給がなくなったら、人間を探して襲う……みたいなね。

 一部の人間を襲わないように仕向けながら復元できるくらいだから、そういった仕掛けを組み込む事ができてもおかしくない、かな。


「イオスと会って、結界を使ったりイオス自身の意識を途絶えさせたり、タイミングとしてはモニカさんが見たのとそう離れていないと思う。もしかしたら、イオス自身も自分に仕組みを組み込んでいて、魔力供給する仕掛けと繋がっていたんだと思う」


 イオスがツヴァイのように異常な魔力を持っている前提ではあるけどね。

 ともかく、クォンツァイタを活用してハウス栽培をしようと研究をする事で、奇しくもルジナウムやブハギムノングでの騒動の謎が一気に解けてしまった。

 まぁ、全てアルネの推測通りではないかもしれないけど、大筋は間違っていないだろうからね。

 そしてそれは、イオス達とツヴァイが繋がっているのもわかっているから、意図的にアテトリア王国への攻撃意思とも取れるわけで……やっぱり、帝国との繋がりというか、帝国が仕掛けてきている証拠のような物を見つけたいな、と思った――。



「成る程ねぇ……これは他にも何かやられている可能性もあるわね……」

「うん。まぁ、予想なだけで何も見つからないかもしれないけど」

「そこは仕方ないわよ。確実な情報が少ないのだからね。向こうも巧妙に……と言えるのか今の段階では微妙だけど、隠そうとしている事だから。でも他にもという事なら……」


 アルネとの話を終えた後、クォンツァイタへの研究というより微調整に戻るのを見送り、代わりに夕食の時間になったのでヒルダさんが準備を整えている間に、姉さんとエフライムが部屋に来た。

 恒例というか、俺がいる時はもうここが食堂のようになっているね。

 少し行儀が悪いかもしれないけど、食べながらじっくり話ができるし、姉さん達もあまり肩肘張らずにリラックスできるみたいだから、構わないんだけども。


 ともかく、アルネと話したルジナウムやブハギムノングの繋がりとか、魔物を集結させる方法など話をしているところで、予想ではあるけどほとんど間違いじゃなさそうな事を確認中。

 そんな中で、姉さんが食事をする手を止めて口に手を当てながら、何かに気付いた様子……口元を隠して食べる様子を見せないとかではないみたいだ。

 さらにエフライムも何かに気付いた様子で、姉さんに声をかける。


「陛下……クォンツァイタを利用した本当に魔物を集結させられるのなら……」

「えぇ、私も同じ可能性に気付いたわ」


 二人が気付いた事は、既に俺達も気付いている事でもあると思うけど……それを話し合う前に姉さん達が来て、夕食が始まったんだよね。


「王城への魔物も、もしかしたら……だよね?」

「りっくんも気付いていたのね。えぇ……もしかしたら、だけどね。エフライム?」

「はい。これは調べる価値はあるかと……日数が経っているので、何も出ない可能性もありますが」

「できれば、あの時すぐに調べられたら良かったんだろうけど、クォンツァイタの事を知ったのは最近だからね、仕方ないよ」

「そうね……とにかくあの時、魔物の動きが妙だったというのは間違いないわ。これは、私達国側もそうだけど、冒険者ギルドも共通の認識をしているわ」

「私はその時の状況を見ていませんが、話しに聞く限りではそうですね」

「まぁ、私達も騒動が収まってから、妙だと思ったくらいだけどね。あの時は大変だったし……」


 仕組みを施したクォンツァイタに魔物が集まるようにできるのであれば、王城へ大量の魔物が押し寄せ来たのも、説明が付くかもしれない。

 エフライムはその場にいなかったので、話しに聞いたくらいだけど……あの時バルテルが行動を起こすと共に、大量の魔物が王城めがけて押し寄せてきた。

 その際、城と迫る途中にあるはずの城下町では、あまり暴れる事なく一直線に城へ来ていた事が確認されているけど、魔物の行動としてこんな統率された行動をする事そのものがおかしい。

 単一種族で、それなりに知識があれば不可能とは言えないけど……ルジナウムの時と同じように、複数種類の魔物がいたし、統率できなさそうな魔物だっていたからね。

 でも……。


「アルネと話していた、ルジナウムで使われたクォンツァイタは、魔力を放出して魔物を集めるだけだったから、城に押し寄せてきたのとはまた違うかもしれない……」

「魔物を集めて、一斉に城を目指させるとかではだめなのか?」

「それだと、城に来る前に城下町で暴れているよ。魔物によるけど、人間を見たら暴れる魔物だっているし、城だけを目指す理由がわからないんだ」


 魔物としては、不自然な行動……ルジナウムの場合は、集結してクォンツァイタの魔力がなくなってから行動を起こしていた。

 けどそれは、単純に近くにある街へと襲い掛かるというだけで、魔物らしい自然な行動とも言える……まぁ、すぐ近くにいる弱い魔物が狙われたりしなかったのはなぜなのか、という疑問もあるにはあるんだけどね。

 優先度が弱い魔物よりも、魔力を多く持っていて大勢の集団で固まっている人間だった、と無理矢理納得させる事はできるけど――。



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