第817話 梱包材の代わりになる物



 クォンツァイタは、ガラスに近い脆さを持っているため、大きな衝撃を与えてしまうと割れてしまう。

 多少小さくなる程度なら、魔力を溜める性質は損なわれないらしいけど、粉々に割れてしまったらもう使えなくなってしまう。

 試してはいないけど、テーブルから落ちてしまうくらいでも割れる事だってありそうだ。

 もしかしたら運んでいる途中に遭遇した魔物から、攻撃を受けて荷馬車への衝撃が原因で……とも考えたけど、どうやら違うようだ。


「単純に、輸送する際の衝撃のようね。衝撃吸収材とかないから……」

「あー……成る程。そういう事なんだね」

「仕方ない事なんだけど……原産地に無理は言えないし、費用込みで今以上に高く買うようにしたら、今後のクォンツァイタを使った物の価格が上がり過ぎてしまうのよねぇ」


 鉱石を輸送する際には、木箱に詰め込んでそれを荷馬車に乗せて運ぶという単純なものなんだけど、馬車って結構揺れるから、その振動で割れてしまうんだろう。

 割れやすい物だから、一応布で包んだりはしていたのかもしれないけど、それでも限界があるからね。

 完全に衝撃を吸収するくらい、何枚もの布で分厚くして包もうとしたら木箱に詰める容量を取ってしまうし、多くの費用がかかってしまう。

 元々の価値が低い物だから多少利益を削って、輸送費に充てる事もできるだろうけど、それはブハギムノングの利益を少なくしろと言っているようなものだし、そもそもの買取価格を上げてしまうと、市場に出した際の価値が上がり過ぎてしまう。


 詳しい事はわからないけど、仕入れ価格が高い物を安く誰でも買えるような値段で売る事はできない事くらいは俺にもわかる。

 かと言って、ブハギムノングの方に無理は言えないし……いや、かなり大きな利益が出るようだから言えるのかもしれないし、姉さんからとなると国からの勅命になるため、命令する事もできるんだろうけどね。

 ただ、最初に輸送する際の費用も含めてフォルガットさんには既に今の価格でと、直々に手紙を出した手前、すぐに変更をというのは言いづらいんだろう。

 まぁ、権力的には無理を通すのは簡単でも、姉さんがそんな事をする性格じゃないからね。


「りっくん、梱包材とかの作り方って知らない?」

「いや、知らないよ。使った事はあっても作り方がわかるわけじゃないし……確か、あれって化学製品でしょ? もし知ってても、すぐに作れると思えないよ」


 気軽に姉さんから聞かれるけど、まだ高校卒業前だった俺に聞かれてもね。

 そちらに興味を持って勉強していたならともかく、俺はただ特に将来の展望もなかった学生だ……元だけど。

 それ自体の物を知っていても、作り方なんてわかるわけがない。


「そうよねぇ。私はそっち方面に詳しくないから、当然わからないし……学校で習うような知識はあっても、作り方を詳しく知っているわけじゃないものね……紙や布を使うしかないかしら? でも、紙はもっと費用がかかりそうだわ」

「「?」」


 愚痴を漏らすように呟く姉さに対し、エフライムとヒルダさんは頭にハテナマークを浮かべている状態になっていた。

 梱包材とか言われても、こちらの世界の人にはよくわからないだろうから、仕方ないよね。

 思い出されるのは白い……えっと、ポリエチレン……だったかな? 柔らかい素材にビニールとプラスチックの中間のような触り心地をした物だったり、空気を入れて衝撃を吸収させる物だったりかな。

 ポリエチレンの作り方なんて当然知らないし、空気を逃さないためにビニールの代わりになるような物も知らない……もしかしたら、魔物の素材とかで似たような性質の物も探せばあるのかもしれないけど、使われている様子を見た事がないから、ない可能性が高い。


「あぁ、梱包材って言ったら、あのプチプチしたのを思い出したわ」

「姉さん、黙々とあれを潰すの好きだったよね」

「まぁね。なんでかわからないけど、落ち着くのよねぇ……」

「……あれを潰している時の姉さん、ちょっと怖かったよ」


 プチプチは、今思い出した梱包材の一つで、日本人なら多分誰でも知っているであろう梱包材……正式名称は忘れた。

 あれを潰してプチプチと音を立てている時の姉さんは、鬼気迫る雰囲気が感じられて近寄りがたかったっけ……ストレス解消の一種なんだと思うけど。

 化学製品以外の梱包材代わりになる物もあるんだろうけど……昔はどうやって物を運んでいたんだろう?

 人が持って運ぶのが一番確実だろうけど、それだと輸送に時間がかかるし、さらに費用もかさむから本末転倒だし。


「あ、そうだ。そういえば、籾殻を使って梱包代わりにしていたって話を聞いた事があるかも……」


 何かの授業の時、合間の雑談とかちょっとした小話で聞いた覚えがある。

 あれは……日本史か何かだったかな?


「籾殻ねぇ……残念ながら、米の籾はないわ。麦の籾でも大丈夫かどうかわからないけど、元々使われていない使用法だから、捨てられているはずよ。まぁ、改めて収穫の際に集める事もできるだろうけど、それも多くの手間がかかりそうね……」

「まぁ、そうだよね……」


 米があれば、その籾殻を使ってという事もできたのかもしれないけど、この国にはないみたいだしなぁ……あぁ、お米が食べたい。

 それはともかく、麦の方では元々使用されていない物だから、改めて集めるには時間も人でもかかるだろうから、難しいらしい。


「あぁ、そう言えば海綿もあったわね。まぁ、海の資源が少ないアテトリア王国では望めない物だけど」

「面している海が少ないとそうなのかもね。うーん……他には……」

「相談の邪魔をして申し訳ありません、陛下。その……梱包材というのはどういった物なのでしょうか?」


 自然に取れて、この国にもありそうな梱包材代わりになる物を、姉さんと唸りながら考えていると、蚊帳の外だったエフライムからの質問。

 ヒルダさんも同じように聞きたそうにしていたので、姉さんと二人で簡単に説明。

 要は、輸送する物の損傷を防ぐための物だと伝えた。


「運ぶ際の荷物への衝撃を軽減するための物なのですね。……ふぅむ」

「どうしたのエフライム、何か思い当たる事でもあるのかしら?」


 説明を終えた後、梱包材がなんなのかを理解したエフライムは、口元に手をやって何やら思案する様子になり、姉さんから逆に質問される。

 ヒルダさんは何も思いつかないようで、話を聞いて理解した際に頷いた以降は、静かにお茶の用意をしてくれていた。

 ちなみに、一応の知識があるはずのエルサとユノは、満腹になったのかベッドに横になってゴロゴロしている……まぁ、エルサの知識は俺の記憶からだし、ユノは日本へ遊びに行ったくらいだから、さすがに作り方まではしらないんだろう。


「いえその……藁を使うのはどうなのか、と思いまして……。作物を運ぶ際にはよく使われています。運んでいる途中で傷をつけないためではありますが、布で包むよりは良いのではないかと。叺(かます)という、藁を編んで重ねた袋のような物もあります。革袋程丈夫ではないのですが……」



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