第812話 槍での戦い方



「一撃の威力が低い……確かに、弱い魔物はまだしも……ある程度以上の魔物が相手になると、一度ならず二度三度と攻撃を加える事が多いのは確かです。突き込む事が多い、槍を使っているためと思っていましたけど……」


 一撃の威力かぁ……俺は力任せに剣を振る事が多かったから、避けられた時の事を考えるよりも、力でねじ伏せる感じだったんだけど、モニカさんはその逆……と言っていいのか、そんな感じらしい。

 エアラハールさんの言葉に、モニカさんが考えながら槍の特性のため、力を込めるより何度も攻撃を加えて魔物を倒していたと言う。

 それは、突きというのは振るよりも早く、点の攻撃なために防御もし辛い代わりに、急所以外に刺さっても致命傷になりづらいうえ、槍だと刃の部分が剣より小さいために止めを刺すのが難しいという事なんだと思うけど、違うのかな?


「一度突き込んでも倒せない、確かに突きと言うのはそういうものじゃ。斬るのではなく突き刺すのじゃから、致命傷にはなりにくいの。じゃが、そうだからと言って一撃で相手を仕留められないときまったわけではない。力量不足を武器のせいにするのではないのじゃ」

「……はい」

「若い頃の知り合いじゃが……槍を振れば魔物の首が飛び、突き込めば確実に息の根を止める……さらには柄ですら相手を吹き飛ばして行動不能にする。という槍の使い手がおった。じゃが、そいつはもし槍を避けられたからと言って、隙を生じさせるような事はなかったのじゃ。剣でも言える事じゃが、槍も流れるような動作が必要な武器……避けられても良いわけではないが、全力で突き込みながらも隙を生じさせぬ扱いをする事じゃな」

「……全力でありながらも、隙を作らないように……」

「まぁ、今言ったのは極端な例じゃがの。そいつも、そこまでになるのに血の滲むような努力と訓練を欠かさなんだ。一つの動作にすら、何千何万という反復を繰り返してやっと……なんて事も言っておったの」

「何千何万と……」


 それは、どれだけ気の遠くなるおような訓練……いや、修練だったんだろうか。

 武器は、それぞれに長さや重さなどなど、特性があって扱い方も変わるのは当然だけど、槍を極めるにはそこまでの事をしなければいけない程、厳しいんだろう。

 いや……剣にしても斧にしても、一つの武器を極めるのにはそれだけ努力をしないといけないという事なんだろうな……俺も、ボロボロの剣を折らないよう、意識して戦うのが辛いなんて、考えている場合じゃないね。

 まぁ、剣豪になるとか、剣の道を極める! とまで熱い思いがあるわけじゃないんだけども。


「いきなりそこを目指せと言うわけではない。まずは、避けられたらとばかり考えている動作を改善させる事じゃ。全力で突き込み、払いつつも次の動作に繋がるというのが理想じゃが……一撃の威力を上げながら、隙を減らすにはどうしたら良いのかを考える事かのう。上手くいけば、多数を相手にもできるようになるぞ。今のままでは、一体を相手にするのに時間がかかり過ぎるからの」


 一対一、という用意された状況でならまだしも、魔物が相手だと必ずしもそうなるとは限らない。

 特に、剣を持っているソフィーとかは多数を相手にするのが苦手になってしまうのは、同じく剣を使う俺にもわかる事だ。

 魔法を使わないように戦えと言われた俺も同じくだけど……ともかく、多数に囲まれたりした場合を考えたら、モニカさんが槍のリーチを生かして複数の相手をしている間に、ソフィーや俺が一体ずつ確実に数を減らすという戦い方もできるわけか。

 今のままだと、一撃の威力が足りないので一体を処理するのに時間がかかるし、動きを止めるだけというのも難しいため、多数を相手にするのが厳しい……とエアラハールさんは言いたいんだ思う、多分。


「さて、モニカ嬢ちゃんはとりあえずこんなところかのう。後は考えながら訓練に励む事じゃ。上達していけばまた別の壁に当たる事もあるじゃろうし、ワシからも指摘する事が出て来るじゃろうが……それは成長にも繋がる事じゃからの」

「はい。エアラハールさんに言われた事を噛みしめて、一層成長するよう頑張ります!」

「うむ。……次はソフィー嬢ちゃんじゃな」

「はい……」


 モニカさんへの指摘が終わった後は、ソフィーの番。

 エアラハールさんは経験豊富だから、槍を扱うモニカさんに対しても指摘できたんだろうけど、本来は剣の使い手だから、ソフィーにはもっと厳しめの意見が出される事も予想できる。

 その事をソフィー自身もわかっているのか、神妙にエアラハールさんの言葉を聞こうとしてはいるけど、少しだけ及び腰でもあった。


「まずはそうじゃの……ソフィー嬢ちゃんは、真っ当な剣の使い方じゃと思う。そうじゃの……冒険者というより、騎士の扱う剣という方が近いのかもしれんの」

「騎士……」


 考えながら、顎に手をやりソフィーに言うエアラハールさん。

 ソフィー自身の凛と雰囲気や喋り方もそうだけど、真っ直ぐな性格をしているから確かに騎士というのはしっくりくる。

 金属の鎧に身を包んで人々の先頭に立ち、騎士として戦っている姿とか、ソフィーを見ていたら簡単に想像できるくらいだ。


 クレメン子爵の所の騎士さん達と模擬戦をさせてもらったけど、一部変わった戦い方をする人は除いて、あちらの人達と近い戦いをしていると思う。

 なんというか、奇策とかを使わず真っ直ぐ戦いを挑んで、正面から切り伏せるようなイメージだ……力任せとか、そこに技術がないとかそういうわけじゃないんだけどね。


「良い意味では、悪心がない正道の剣と言えるじゃろう。じゃが、人間相手でもそうじゃが……魔物を相手にする時はもう少しずる賢く動くもんじゃよ」

「ずる賢く……ですか?」

「そうじゃ。ソフィー嬢ちゃんの剣は、はっきり言うと予想しやすいのじゃよ。それでも持ち前の技術やこれまでの経験、鍛錬でなんとかできる事は多いのじゃろうが……頭の切れる相手には通用せん事が多い」

「……確かに、私の剣は相手に防がれる事が多いような気はします。防がれて二の次三の次と剣を振るう事も多々あります。それは、私自身の動き方や剣の扱い方……速さや威力が足りないからだと思っていましたが……」

「エクスブロジオンオーガとの戦いもじゃし、リクへの打ち込みも何度か見たがのう……速さは申し分ない。威力に感しては確かにもう少し欲しいと思うところじゃが、それはいずれじゃろう。片手でも扱える大きさの剣じゃから、限界はあるからの」


 ソフィーの戦い方は、どちらかというと正面から向かって行き、剣を振るう速さで敵を打ち倒す感じだと俺は思っている。

 まぁ、モニカさんと一緒に俺へ打ち込む時など、特殊な動きをする事もあるけど……基本は速さで相手を翻弄する動きが多いかな。

 それは、女性だからというのもあるだろうし、そもそも片手で持てるショートソードの部類に入る剣を使っているから、斬れ味はともかく重さにも関わる威力という点では、少し物足りなくなるのかもしれないね――。



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