第791話 ドラゴンも小遣いが欲しい
小遣いを要求するエルサは、いつも俺と一緒にいる事が多いから、何か欲しい物があればエルサがお金を出す必要はないんだけど……最近人間に興味を持ち始めたらしく、その真似をしてみたいんだろうと思っておく。
使い道があるかはわからないけど、空の移動を含めて助けてもらっているし、お金に困っているわけじゃないから問題はない。
ただ、財布とかお金の入れ物はどうしようか……大きくなった状態ならともかく、手のひらサイズの饅頭を両手で持ってもくもくと食べる、今のサイズだとあまり大きな物は持てないだろうしなぁ。
まぁ、困ったら俺が代わりに持っておく、とかでもいいか。
なんて、お小遣いをもらえると喜ぶエルサとユノを見ながら考えた。
「ドラゴンにお小遣いをあげる……さすが英雄……」
「大きくなったエルサちゃんはともかく、今の大きさだと、間違いではないように思えるから不思議ね」
「私達を乗せる時のエルサであれば、小遣いという響きは違和感しかないがな」
フィネさんを始め、モニカさんとソフィーの呟きだけど、エルサが特別なだけでお小遣いをあげる事に英雄とかは関係ないと思います……。
大きくなったエルサが欲しがると、ソフィーの言う通り確かに違和感しかないけど……むしろ、欲しい物は力づくで奪い取る! とか言う方が似合っているような気もする……エルサはそんな事しないけど。
小さい時のエルサならまぁ、見た目に可愛げがあるから違和感は消えるけどね。
……モフモフなドラゴンがお小遣いをもらえると喜ぶ違和感は、考えないようにしておこう。
――――――――――――――
「よし、準備はできたから行ってみよう!」
「行くのだわー!」
翌日、冒険者ギルドにいくために、簡単な準備を終わらせる。
意気込んでいる俺に呼応して、声を上げるエルサもテンションは高めだ。
理由は、小遣いがもらえるからだろうけど。
昨日は、モニカさん達が持って来てくれたお菓子を食べてのんびりした後、フィネさんも混じって王城の訓練場の片隅を借りて、無理はしないよう素振りをするくらいで訓練は済ませていた。
その後も休日としてゆっくり休ませてもらう。
とはいえ、フィネさんが王城にある訓練場にやたらと緊張していたり、姉さんが俺の顔を模した饅頭を見て爆笑したりと、何もなかったわけじゃないんだけどね。
まぁ、フィネさんはフランク子爵付きで王城に来た事はあっても、冒険者が王城の訓練場を使う事は本来ないので、仕方ないか。
姉さんに関しては、爆笑した後「りっくんの顔美味しいわぁ」とか連呼しながら食べていて、かなり微妙な気分になったけど。
とりあえず、王都の名産品としてお土産用に国を挙げて、作った店を保護しようと言い出したのは、全力で止めておいた。
美化されて、似ているとほぼ言えない自分の顔とされる物が名産品になるなんて、どんな悪夢かと……。
なんか、近い事が前にもあったような気がするけど、覚えておいても仕方ないので、記憶から消去したい……というか消去しよう、前回もきっと消去して覚えていないだけだね、うん。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「はい。行ってきます」
「行って来るのだわー」
ヒルダさんに言葉をかけられながら、部屋を出て王城内を歩き、外を目指す。
モニカさん達とは城門を抜けた先で合流する予定にしてあるし、ハーロルトさんにも確認して、今ならあまり目立った事をしなければ、城下町も普通に歩けるだろうと言われたので、久しぶりの町散策を楽しもう。
マックスさん達と見て回ったりした頃以来だからなぁ……。
荷物も遠くへ行くわけではないので、剣を持っている以外はお金や冒険者カードくらいで、身軽でいい。
「お疲れ様です。……それは?」
「はっ! ハーロルト様に申し付けられ、捕獲して連行しています!」
王城を歩いている途中、すれ違う兵士さん達の中に、見覚えのある巨体を二人がかりで引きずっているのを見かけて声をかける。
引きずられているのは、情けないその姿を見慣れてしまった感のある、ヴェンツェルさんだ。
「……ハーロルトより、私の方が立場は上なはずなのだがな」
「また逃げ出したんですか?」
「まぁ、少々体を動かしたいと思ってな。例の、油断をしていた兵士の再訓練もしようと考えていたのだが……」
「ハーロルト様だけでなく、陛下よりヴェンツェル様を見つけ次第、連行するようにと仰せつかっております!」
「ははは、ハーロルトさんだけでなく陛下も加わっているんじゃ、仕方ないですね」
「むぅ……」
油断していた兵士というのは、おそらく研究施設で眠らされたり、鎧を盗まれた兵士さん達の事だろう。
戻ったら厳しく訓練を、とか言っていたからそれなんだろうけど……ヴェンツェルさんには他にもやる事があるから、姉さんもハーロルトさんに協力したんだろう。
連行してきた研究者達や、ツヴァイの事もあるからなぁ……それに、王都を離れていた間の書類仕事とかもありそうかな。
かなり重要な役職なんだから、逃げずにちゃんと仕事をして欲しいと思う反面、体を動かしたくなる気持ちというのも少しはわかるので、同情はしておく……するだけだけども。
不満気な声を漏らして、二人がかりで引きずられて行くヴェンツェルさんを苦笑で見送り、気を取り直して城の外へ歩いて行った――。
「あ、リクさん、エルサちゃん。こっちこっち!」
「こっちのなのー!」
「モニカさん。ユノとソフィーにフィネさんと……フィリーナ?」
「私がいちゃいけない?」
「いや、いけないわけじゃないけど、アルネと研究に忙しいと思っていたからね」
王城を囲む堀にかかる橋を渡り、城門を出たところでモニカさんとユノに声をかけられる。
そこには、昨日話していたモニカさん達だけでなく、フィリーナも一緒にいた。
ユノは昨日、モニカさん達の宿に行ったから、一緒にいるのはわかるんだけど……。
「まだ、王都へ帰ってくる時の光景が、頭にこびりついて離れないのよ。アルネに言って、今日ものんびり過ごさせてもらうようにしているわ」
離れない光景というのは、連行途中の男が死んでしまった時の事だろう。
さっき見かけたヴェンツェルさんは、結構平気そうだったんだけど……まぁ、フィリーナの方が繊細そうだし、それも仕方ない事かな。
「俺達は冒険者ギルドに行く事が目的だけど、それでもいいの?」
「私は冒険者じゃないけど、それでもいいわよ。とりあえず、何も考えずに適当に過ごしたいだけだからね」
「わかった。それじゃ、一緒に行こう」
町の喧騒に紛れて、凄惨な光景を忘れたいんだろう……特に目的はないみたいだし、フィリーナのためにも冒険者ギルドに行った後は、城下町観光をして気を紛らわせるのもいいかなと思う。
俺も、久しぶりに見て回りたいし、まだ見ていない場所とかもあるから。
「そういえば、エアラハールさんはどうしているんだろう?」
「エアラハールさんなら、今日はまだのんびりお酒でも飲むと言っていたわ。近いうちに、また訓練を再開させるとも言っていたけど」
「成る程、わかった。それじゃ、それまでこっちものんびり過ごさせてもらおう。……お酒を飲んで、トラブルを起こさないといいけど」
「まぁ、リクとは違って飲み慣れているからな。大丈夫だろう」
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