第788話 真面目モードの後はリラックスモード
「文官の方も万が一に備え、準備を怠らないように通達しろ。そして、もし内部に内通者を発見した場合には容赦はするな。ハーロルトと連携をするのを忘れるな」
「はっ、王城内の者に限らず、国全体の者達へ通達を致します」
宰相さんは文官のトップで、各街にいる代官さんの上司とも言える人だから、各人へ通達し、各街での警戒や戦争を行う可能性から、それに対して備えるように働きかけるようだ。
街単体では警戒とか、何かの企みがあるかを探すくらいしかできないと思ったんだけど、周辺の村にも協力してもらっての生産力の向上とか、兵士を募っての戦力増強を計り、全体的な国力を上げるように努める、という事みたいだ。
兵士を募っても、いつどんな事があるかわからず、訓練がちゃんとできずに戦力と見るのも怪し人が多くなるだろうけど、そういう人は戦争に参加というわけではなく、参戦する兵士がいなくなった後の街を守る衛兵とか、数を揃えて他国への牽制する見せかけにも使えるからとの事。
まぁ、戦争するから兵士になれとか、満足に訓練していない状態で前線に送られる、という事はないようで少し安心した。
姉さんが特に、そういう事に対して気を配っていた印象だから、日本での歴史などの知識が行かされているような気がするね。
強制徴募や学徒兵導入とか、ある程度歴史を学ぶとわかるけど……その先にあるのは最悪で敗北、なんとか負けなくとも国力の低下や国としての疲弊しか考えられない。
本当に負けそうな時は、悠長な事は行っていられないのかもしれないけど、疲弊して国民の生活が不安定になるのは避けたい構えだ……魔物もいるから、犠牲になる人は俺や姉さんが考えるよりずっと多くなりそうだから。
「はぁ~、疲れたわ。久々に真面目にしていると、疲れるわね~」
「いや、姉さんは女王様なんだから、久々とかじゃなく、いつも真面目にやらないと」
「やる時は真面目にやっているわよ。だからさっきも真面目にやっていたでしょ? でも、ずっと肩肘張って過ごしていたら、疲れて続けられるものじゃないわ」
「それでうまくいっているんならいいんだけど……確かに、ずっと緊張状態ってのは辛いだろうけど。長く女王様モードなのを見たのは、勲章授与式以来かな? まぁ、格好良かったよ」
「お、りっくんに褒められたわ。やった……」
会議が終わり、俺に宛がわれた部屋に戻ってきた途端、ソファーに倒れ込んでリラックスモードになる姉さん。
部屋には今、俺と姉さんの他に、会議中は留守番をしていたユノとエルサしかいないから、のんびりしていてくれていいんだけど……。
女王様モードの姉さんは、この部屋にいる時と違って、凛としていて格好良いのは間違いない……女性に言う事ではないのかもしれないけど、言われた姉さんは小さく呟いて喜んでいる様子だ。
「今の姿を、宰相さんとか他の偉い人達に見せたら、どう思うか……まぁ、ヴェンツェルさんやハーロルトさんは知っているだろうけど」
一応、俺の部屋にヴェンツェルさんやハーロルトさんが来た時は、先程とまではいかなくとも女王様モードに切り替わって、ある程度キリッとしているんだけど……今のダレた姿を見たら、何を言われるか……。
「おー、エルサちゃんはリクが管理しているだけあって、モフモフねぇ~。癒されるわぁ~……」
「ふふん、だわ。私は一国の女王も骨抜きにするくらい、なんでもないのだわ」
「はぁ……」
「リク様、ヴェンツェル様やハーロルト様だけでなく、宰相様も陛下のこの姿はご存じです。……おそらく、城のある程度以上の地位を持っている方で、知らない方はいないかと。今でこそすぐに切り替えることができますが……以前はすぐに切り替えられませんでしたので……」
「そうなんですか? じゃあ、皆呆れているんじゃ……」
エルサのモフモフを触って癒されている姉さんを見ながら、溜め息を吐く。
そんな俺に、ヒルダさんから他にも知っている人がいる事を知らされた。
結構、知っている人多いんだ……それで誰も何も言わないのであれば、黙認されているというか、認められているのかもしれないね。
もしくは、諦められているとか?
「いえ、そんな事はございません。まぁ、リク様のように、もう少ししっかり……と考える者もいるようですが、今では切り替えもすぐにできるようになり、一応執務も問題なくこなしておられますので」
「そうよー。私はちゃんと頑張っているのよー。弟ならもっと労わりなさい」
「……陛下、この数カ月はリク様の方が頑張っていると存じます。それは、陛下もわかっておいでなのでは?」
「ぐっ……そうね。りっくんのおかげで、国内の街だけでなく国その者が助かっているわ。それに、ハウス栽培の件もあるし……弟のくせに生意気よー、私より活躍するなんて! りっくんが活躍するのは、私も嬉しいんだけどね……」
「生意気って言われても、俺はできる事をしただけだからね……」
弟のくせにって言われても……そりゃ日本にいた頃は、どちらかというと姉さんに面倒を見てもらっていたり、俺も姉さんに付いて回ったりしていたけど……。
一度姉さんが生まれ変わっているせいか、以前よりも年齢差が少なく俺自身も成長しているので、昔みたいに姉さんがいないと何もできない、という事はない。
……それでも、姉さんに逆らう事はできないし、逆らうつもりもないんだけどね。
「なんにせよ、対外的に女王陛下としての面目が保たれていれば問題ないかと。政策は前国王陛下よりも、民に寄り添う政策として評判がよろしいようですし、人気もありますから」
「まぁ、確かにそうみたいですけど……」
前国王陛下、というのは姉さんのこちらの世界での父親らしいけど、その人がどんな人だったのかとかはあった事がないのでわからない。
けど、姉さんが女王様としてこの国の人達に慕われているというのは、なんとなくわかる。
ラクトスの街で代官をやっているクラウスさんとか、俺のファンだとか言うのを覗けば、女王陛下に心酔している様子も見られたからね。
オーガの研究をしていた研究者達も、国に対して叛意があるわけでなく、むしろ国のためにと考えていたようだし……結局騙されて利用されてしまったようだけど。
「私がこうしていても問題ないとわかったら、お姉さんを労わるのよりっくん」
「はぁ……わかったよ……」
大体こういうと時は、何をしたらいいのかは決まっている。
日本にいた時から変わっていないなぁ、と思いながらも溜め息を吐いてソファーに転がっている姉さんに近付き、うつ伏せになっているその肩に手を当てた。
「あぁ~、やっぱりりっくんにやってもらうのが一番気持ちいわぁ~」
「姉さん、そんな声を出して……もう少し年相応の……いえ、ナンデモアリマセン」
俺が始めたのは、姉さんの肩のマッサージだ。
胸が大きいと肩が凝るとかなんとか、以前聞いた事があるけど、今回のは真面目に女王様モードをやったからだろう、わりと硬くなって凝っているのを揉んでいる手から感じた――。
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