第783話 王城での報告会



「ではまず、今回の研究施設で得られた情報を。ヴェンツェル、ハーロルト」

「はっ! それではまず、私から……」


 姉さんに指名され、ヴェンツェルさんとハーロルトさんが起立して話し始める。

 まずはハーロルトさんから、研究施設を見つけた経緯をアメリさんの事も含めて話し、そのヴェンツェルさんが実際の作戦行動について話していく。

 と言っても、ハーロルトさんが話す事は既に皆知っている事だし、突入して制圧後などは大まかに報告されているので、ほとんど確認するだけの話だった。

 まぁ、なぜか話の大半が俺がやっていた事を報告するようになっていたけど、ヴェンツェルさんと一緒にいる事も多かったし、一応指揮の真似事もやっていたのだから仕方ない。

 ……ツヴァイとの戦闘や、逃げた男の追跡から確保までが大袈裟に語られたのは、ちょっと恥ずかしかったけど……というか、逃げた男を捕まえた時ってヴェンツェルさんいなかったのに……。


「そして、引き続き施設の調査をするために、マルクスなど一部の兵士を残して、拘束した者達を王城へ連行するために戻って参りました」

「調査をしている者達へは、補給物資や交代要員を既に派遣しています」

「うむ。兵士に偽装して潜り込む者がいたとも聞く。警戒を怠らず、調査の成果を挙げて見せよ」

「「はっ!」」

「でだ……ヴェンツェル、フィリーナ……王城に戻る前にあった事を、話してもらおう」

「はい……」


 施設に関しては、調査が引き続き行われて追加の情報が得られるように、ちゃんと支援されるようだ。

 兵士さん達も、ずっとあの施設にいるのは辛いだろうし、食べ物なんかも必要だからね。

 一応の確認を済ませて、話しは連行中に起こった事へ。

 フィリーナが立ち上がり、ヴェンツェルさんと視線を躱して話し始めた。


「王都への帰還を開始して、半分程度の道程が進んだ頃です。厳重に拘束していた二人の男……重要人物と見られる魔力が高い二人です。そのうちの一人が、急に苦しみ始めたのです」

「私は、報告を受けてすぐにその男の下へと向かいました。その頃には既に、息絶える間近という様子でした」

「急に苦しみ始めたのか? 予兆は何もなく?」

「はい。私は、その時近くで見ていましたが、何も予兆がなく苦しみ始めました。見張っている兵士はいましたが、振れる物は誰もおらず……離れて誰かが魔法を使った、というわけでもありません」

「……リクから聞いている。フィリーナの目はエルフでも特別で、魔力の流れなどが見えるのだったな?」

「そうです。魔法で何かをしたのであれば、見ていた私の目に魔力の流れが見えるはず……ですが、その時には何も見えませんでした」


 急に苦しみ始めて、ヴェンツェルさんが駆け付けた時にはもう手遅れ……という状態だったのか。

 魔法でないなら考えられるのは毒だけど、その場面で急に毒を使うというのも違うと思うし、そもそも調べて毒は排除されていたはずだ。

 なのに、急にそんな事になるのはなぜなのか……。


「ふむ。魔法ではないと……それであるなら、誰かが毒を盛った、などの事が考えられるが……」

「徹底的に調べさせて、毒を所持したり仕込んでいない事を確認しています。リクの報告で、仕込まれている可能性が示唆されておりました。拘束した際に、口の中……歯を噛みしめる事で、毒を服用できるように仕込まれてはいましたが、それは取り除いていました」

「毒でもない……だが、実際に目の前で苦しんで死んだのだろう? その者は、何か病気でも持っていたとでも言うのか?」

「見る限りでは、病気ではなかったと……」

「病気でも毒でも魔法でもない……それならばなぜ、その男は死んだのか。まさか、連行中に拷問を与えたわけでもあるまい?」

「それはもちろん。取り調べに際して多少強引になる事はあっても、王城へ連れて来るまでは強引にはしないようにしております。もちろん、怪我をさせる事すらありません。……抵抗すれば多少荒っぽくなるのも当然ですが、観念していたのか、男はおとなしくしておりました」


 一体どういった理由でその男が死んでしまったのか……フィリーナとヴェンツェルさん以外で、その場にいる皆は姉さんや宰相さん、ハーロルトさんも含めて皆が眉を寄せて難しい表情をしていた。

 ちなみに、ヴェンツェルさんが怪我をさせないと言っているけど、取り調べの際に殴り飛ばしたりもしているのは、既に報告されている事らしい……まぁ、鼻血を出したりはしたけど、それが原因で苦しみ始めたというわけではないだろうけども。

 そういう事も知っているため、拷問云々を姉さんが聞いたのは、単なる確認のためだと思う。

 どうぜ、王城に連行した後は厳しい取り調べがあったんだろうし……ハーロルトさん辺りが、アメリさんを巻き込んだ事もあって、やる気満々だ。


「陛下、その男が苦しんだ原因はともかく、問題はその後なのです」

「その後……何かあったのか? 男が苦しんで息絶えた……と言うだけではないと?」


 どうしてそうなったのか、というのを皆で頭をひねって考えていたのを、ヴェンツェルさんの言葉で止める。

 その後にまだ何かあったのか……でも考えてみれば、フィリーナもヴェンツェルさんも、目の前で人が苦しんで死んだ事くらいで、姉さんが言っていたように憔悴するとまではならないか……。

 いや、何も感じないとか、そういうわけじゃないけどね。


「周囲の者達は男が苦しみ始めてから、なにかできるかと対処を試みましたが……ただただ、男が息絶えるのを待つだけでした。しかしその後、動かなくなった男の魔力が、急に膨れ上がったのです」

「魔力が?」

「はい。いきなり苦しみ始めた混乱で、はっきりとは見ていなかったのですが、息絶える前……苦しみ始めてから男の魔力が乱れていたように思うのです」

「……ヴェンツェルは、何か感じたか?」

「いえ、私はフィリーナ殿と違い、魔力や魔法にはあまり詳しくないので……」

「おそらく、他の兵士達もその時はよくわからなかったでしょう。私も、乱れていたような? と思うくらいでしたから。苦しみ始めた混乱のせい、といえば言い訳になりますが……」

「ふむ。フィリーナ一人がそう言うのでは、確証とまでは言えんか。して、その後の魔力に関しては?」

「そちらは、私だけでなく、その場にいた部下達も確認しております。息絶えたはずの男から、急に魔力が膨れ上がるのが見えたのです」

「見えた? 魔力は通常目に見えないはずだが……それだけ大量の魔力だったという事か?」


 魔力は本来透明で目に見えないもの……それを、大量の魔力が一か所に集まる事で、目に見える可視化がされる。

 例外と言えるのかわからないけど、練り込んで密度を濃くする事で、少なめの魔力が目に見える事もあるけど、それは特殊な例だったね……アルネが研究中の事だ。

 死んだ男は、ツヴァイと同等の魔力量があるようだったから、可視化できる程の魔力を出せるのは当然の事のように思うけど、それが息絶えた後にとなると、通常では起こりえないとしか考えられない――。


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