第781話 久々の気を遣わない朝食
「もちろん、しばらくゆっくりしてからでいいわ。クォンツァイタの研究も始まったばかりだし、急がなきゃいけない事じゃないからね。今日帰ってきたばかりなんだから、少しはゆっくりしなさい」
「……姉さんが行ってくれって言ったはずなんだけど……まぁいいか……」
そうして、久しぶりに王城で夕食を食べ、宿へと戻るモニカさん達を見送って、エルサをお風呂に入れた。
ユノは、最近ずっとモニカさんと一緒だったから、今日は俺の部屋で一緒に寝る事になっている。
俺というよりも、エルサのモフモフを抱えて一緒に寝たいらしい……ほんと、元神様とは思えないくらい子供らしくなったなと思う。
いや、エルサを毎日モフモフしながら寝ている俺が言う事じゃないかもしれないけど――。
翌日、昨日は疲れてすぐ寝たので、部屋まで来れなかったエルフライムが朝食を一緒にと、訪ねて来た。
モニカさんやソフィー、フィネさんは宿でゆっくりすると昨日聞いていたので、朝食は俺とエルサ、ユノとエフライムに姉さんだ。
……いつの間にか、姉さんが朝食の席に入り込んで座っていたんだけど……それでいいのだろうか、女王様。
ヒルダさんは溜め息を吐きつつ、執務に支障がなければ問題ないとの事で、朝食後は引きずって行きますと言われた。
「引きずられなくても、ちゃんと自分で行くわよ! ヴェンツェルじゃないんだから!」
なんて言って抗議していたけど、例として出されるヴェンツェルさん……ハーロルトさんの苦労が偲ばれる。
「それにしても、リクは朝からニコニコしているように見えるな……何かいい事でもあったのか?」
朝食を食べながら、俺の様子を見たエフライムから聞かれる。
言われる程ニコニコしている自覚はなかったんだけど、機嫌がいいのは確かだね。
いや、機嫌というより、久々に気兼ねなく過ごしていると言った方がいいかも。
「いやぁ、最近ずっと同性と一緒にいる機会が少なかったからね。ヴェンツェルさんやマルクスさんがいたりしたけど……年が離れているし、なんか違う感じがしてたんだ」
「……なんというか、俺が原因なのだろうが……ちょっと気持ち悪い気がするのだが?」
「いやいやいや、気のせいだよ、うん。俺はただ、年の近い男友達と一緒に過ごしたいだけだから」
「……色々と、誤解を招く発言な気もするわよりっくん。というか、私やヒルダもいるんだけどね?」
「私もいるの!」
「私も……どうでもいいのだわー、キューが美味しいのだわー」
何か勘違いさせる発言だったかもしれないけど、王城を離れている時は、モニカさんやソフィー、フィリーナがいた事もあったし、最近ではフィネさんも加わって、女性が多い状況だったからね。
なんというか、嫌とかじゃないんだけど微妙に気を遣うというか……エアラハールさんは一歩引いている感じもあって、肩身が狭いとも少し感じていた。
まぁ、俺がそう思っているだけで、モニカさん達が男に対して気を遣わせたりという事ではないんだけども。
部屋には姉さんやユノもいて、何やら主張しているけど……姉とか妹に近くて、家族みたいな感じでそこはまたモニカさん達とは違うからね。
ヒルダさんは……お世話してくれてありがたいけど、常に一歩引いて前に出て来ないので、さらにこっちも違う……本人は、姉さんの主張には同調せず、淡々とユノやエルサの世話をしてくれているだけだ。
エルサは……まぁ、流れに乗って主張しようとしたけど、キューを食べるのに夢中で他の事はどうでもいいみたいだ。
こっちは、特に気を遣う相手でもない……モフモフはするけど。
総じて、久しぶりの開放感のようなものを感じているから、エフライムに指摘されたようにニコニコしてしまっていたんだろう。
何度も言うけど、モニカさん達がいるのが嫌というわけじゃない。
「しかし、リクも色々大変だな……」
「ん? 急にどうしたのエフライム? いや、確かに女性が多い状況は大変だったけど……」
「そちらではなくだな……冒険者の依頼だと思ったら、街の防衛で大量の魔物との戦い。さらに、助けた女性から得た情報で不審な建物の調査から、突入だ。これだけの事をやっているのだからな。しかも、陛下から聞いたぞ? 今度はエルフの集落にも行くのだろう?」
エフライムがしみじみと呟いたので、なんの事かと思ったらここ最近で俺が拘わった事に関してだった。
細かく言うとブハギムノングの鉱山で、エクスブロジオンオーガと戦ったり、ルジナウムの防衛では今まで以上に強力な魔物が多かったり、アメリさんを助けた時には爆発するオーガを発見したし、そのオーガを研究した施設にはヴェンツェルさん達と突入して、ツヴァイとの戦闘もあった。
確かに、並べてみると大きなイベントが目白押しだなぁ……なんて感想が沸いて来るくらいだね。
エルフの集落に関してはこれからだし、一度行っているので特に問題らしい問題は起こらない……と思いたいけど。
「さすがりっくんよね。まさに英雄の活躍だわ」
「確かに、英雄と呼ぶにふさわしいでしょう。というより、リク一人でどれだけこの国は窮地を救われているのか……」
「いや、俺一人で全てやったわけじゃないから……皆がいてくれたから、ってのが大きいよ?」
今回は特に色んな人に協力してもらったからね。
俺一人だと……ルジナウムの防衛すら難しかっただろうから、アメリさんを助けたり、ツヴァイを倒した事くらいは誇れるのかな?
「……りっくん、王様になって英雄王とか名乗っちゃってもいいんじゃない?」
「いやいやいや、さすがにそれは……俺は王様とかになれるような人間じゃないよ」
「まぁ、さすがに陛下の冗談だろうが……リクになら、下に付く者は多いだろうな。それだけの事はやっている」
冗談めかして言ってはいるけど、さすがに俺が王様だなんて似合わなさ過ぎる。
国を統治するにしても、何をしたらいいかとかわかんないし、そもそも貴族になる事すら分不相応だからね。
俺はやっぱり気軽に冒険者をやっている方が、性に合っている気がする。
「……国王になれば、国中からモフモフを集められるわよ?」
「な、なんだってっ!?」
モフモフを集められる……それはつまり、モフモフの楽園を作れるという事で……モフモフパラダイスができるという事に!?
「その分、王としての責務や、様々な事が圧し掛かるがな。陛下、リクにモフモフをと言ったら、本当に実現させそうなので止めて下さい。それに、今は女王陛下が統治しているので、そんな冗談を他の者が聞いたらなんと思うか……」
「あははは、そうね。まぁここだから言える事だけど、他の者達には聞かせられないわね。意外と、りっくんを歓迎する人も多そうだけど」
「くっ……やはり冗談だったかっ! いいよー、俺はエルサのモフモフで満足してるからー」
「ちょっとリク、キューを食べるのに邪魔なのだわ」
姉さんの冗談に釣られた悔しさを、エルサのモフモフを撫でて緩和する。
キューを夢中で食べているエルサからは、邪険に扱われるけど気にしない……ふっふっふ、ぬか喜びさせられた悲しみを抱く俺には、その程度効かないのだ!
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