第747話 テントの荷物は無事
「いや、武器を投げる際のコツなんかを聞いたのはいいんだが、投げる物が少なくてな……」
「そりゃ、用意とかもしていないんだから、少なくて当然だけど」
「思わず、いつも使っている武器を投げたらどうなるかなぁって……リクさん、ごめんなさい」
「私も、弓矢は使うけど、矢を投げた事はなかったからちょっと試しただけなのよ……うん、ごめんなさい」
「武器を投げるのが、戦闘でも有効なのはわかった。……いや、反省している。すまない」
「リク様、申し訳ありません!」
「いやまぁ、フィネさんはモニカさん達に言われて、手本を見せたりしただけだろうから、そこまで謝らなくてもいいんだけど……」
武器を投げたりなんて、今までしてこなかったんだから、用意もせずに投げる武器がそこらにあるわけがない。
それで自分の持っている武器を投げたんだろうけど、暗器というか、フィネさんのように元々投げるようにも使うために複数の斧を持っているならともかく、主武器を投げちゃ駄目だろう。
最終手段とかならともかく、戦闘中に持っている武器を投げてしまえば、それが決定打になればいいけど、ならなかったら素手になって自分が不利になるだけだからね。
それとフィリーナ、矢を投げるとか余程特殊な状況じゃないとあり得ないから、投げる事より弓に番えて打つ方を考えた方がいいと思う……矢を投げるくらいなら、懐に数本小さいナイフを忍ばせておいてそれを、とかの方が効果的だろう。
「とりあえず、戻ったらエアラハールさんに報告しないとね。なんて言うかなぁ?」
「……持っている武器を投げるとは、なんて怒られそうだ」
「悪くないアイデアだと思ったんだけど、主な武器を投げるのは駄目ね、うん!」
「私は……弟子入りみたいなことはしていないから、何も言われないわね、良かったわ……」
「フィリーナは、アルネに言っておくよ」
「ちょ、ただでさえ変な事に興味を持つくらいなら、魔法の研究を手伝えって言われるんだから、止めてー! 私もエルフだから、研究自体は楽しいけど……それでもたまには外に出たいのよぉ!」
エアラハールさんは、あくまで持っている武器を使って戦うから、それを捨てるように投げるなんて、とか言って怒りそうだ。
まぁ、有効なのは確かだから、暗器を使ってとかなら推奨されそうだし、最終手段としては投げる選択もあるんだろうけどね。
フィリーナの方はエアラハールさんに怒られたりはしない立場で、安心している様子だったので、兄であるアルネに報告する事にした。
アルネが研究にのめり込む質なのは知っているけど、さすがにフィリーナの方はずっと閉じこもって研究はしたくないみたいで、半泣きのような状態になっていた……まぁ、閉じこもるのが好きなら、気分転換に今回の作戦に参加しようとは思わないか。
「あ、そういえば!」
「どうされましたか、リク様?」
「ちょっと待ってて!」
「「「ん?」」」
アルネの事やフィリーナの事を考えていたら、思い出した事があったので急いで穴だらけのテントへ向かう。
フィネさんが声をかけてきたけど、とりあえずそれより中にある荷物の方だ。
首を傾げる皆をそのままにして、俺だけでテントの中に入った……穴だらけだから、入り口を使わなくても入れるのがなんともね……。
大きな穴が空いていたりするから、これ、今突き刺さっている以外にも何度か投げたんだろうなぁ……。
「えーっと……」
テントの中に置いてある自分の荷物の中から、目的の物を取り出す。
「良かった、荷物までは被害が出てないようで……あ、ソフィーの持っているのも渡さないといけないか」
テントは分厚くそれなりに丈夫な物で作られて入るけど、さすがに何度も武器を投げられて穴だらけになっていて、中にまでフィリーナの矢とかが入り込んでいた。
とはいえ、一応荷物に被害はなかったので壊れやすい物があっても何とか無事だったようで良かった。
これで壊れてたら、さすがに厳重注意のうえフォルガットさんに謝らないといけなかったからね。
まったく、せめて自分達のテントを標的にしたらいいのに、なんで俺が使っているテントを標的にしたのやら……溜め息を吐きつつ、荷物から取り出した目的の物を持って、テントから出た。
「どうしたのリクさん、急にテントに入って……あ、もしかして荷物にも何か突き刺さってた!?」
「いや、荷物は無事だったよ。……心配になるなら、やらなきゃいいのに」
「ごめんなさい……」
「と、ところでリク、何を持って来たの?」
「……あぁ、そうか。それをまだ渡していなかったな」
テントから出てきた俺に対し、最初に声をかけてきたモニカさんは、俺が荷物が無事かどうか確かめてきたと考えたようだ。
間違ってはいないけど、心配したり後悔するならもっと別の物を標的にして欲しかったなぁ……。
シュンとして謝るモニカさんと、同じようにすまなさそうにするソフィー達。
なんとなく落ち込んだ雰囲気を払拭するためか、フィリーナが俺の持っている物に注目して話を逸らし、ソフィーはそれが何か気付いたみたいだ。
「はぁ……えっと、これがブハギムノングでもらってきた、クォンツァイタだよ。研究施設の事があったから後回しになっていたけど、フィリーナが来るとわかっていたから渡そうと思って持って来たんだ」
「へぇ~……ふむ、綺麗な鉱石なのね」
「私の方からも……まぁ、後でいいか。どうせ今渡しても意味はあまりないからな」
「そうだね。ソフィーの方は後で渡しておいてよ」
荷物から取り出したのは、フォルガットさんにもらったクォンツァイタだ。
包んでいた布を外しながら、フィリーナに確認してもらうように手渡した。
もらったクォンツァイタはそれなりに大きいから、ソフィーと手分けして持って来ていたんだけど、あっちはフィリーナと同じテントだし、渡すのはあとでいいだろう。
実物を見るのは初めてなフィリーナは、受け取ったクォンツァイタをいろんな角度からしげしげと見て感心していた。
「……確かに脆そうね。何も知らない人が見たら、役に立たない鉱石と考えても不思議はないわ」
「そうだね。実際、ブハギムノングでも他の例に漏れず、クズ鉱石として捨てられていたらしいよ。宝石としても扱えなくて、今回の事がなかったら活用する方法がなかったみたいだから」
コンコン、とノックをするようにクォンツァイタを軽く叩きながら、脆さを確認するフィリーナ。
それくらいなら大丈夫だろうけど、ひび割れがあるので剥き出しの状態で雑に扱ったり、落としてしまったら割れてしまうくらいの脆さだ……ガラスに近いと考えればいいかもね。
「アルネの言っていた通りね……私の目で見ても魔力は感じられなくて、無色……ん?」
「どうしたのフィリーナ?」
「いえ……奥に何かあるように見えて……」
「あぁ、最初からそうらしいんだけど、不純物が混じっている物だからね。そういうのも多いみたいだよ?」
顔にクォンツァイタを近付けて、ひび割れてよく見えない内部を見ようとしているフィリーナが、何かに気付いて首を傾げた――。
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