第734話 結界は逃げられないようにするにも便利
俺達が降りた事を確認すると、エルサが結界を解除してすぐに俺の頭へコネクト。
くっ付いてきたモフモフを撫でつつ、いつでも結界を張れるように備えながら、馬に乗ってこちらを凝視している二人に近付く……この頃には、魔法を放つのが無駄だとわかったのか、それとも人間が降りて来たからなのか、魔法攻撃はなくなっていた。
俺の隣で、一緒に男達へ近づきながらも、モニカさんは持っている槍を握る手に力を込めていた……さすがに構えるまではしてないけど。
近付いて来る俺達に、魔法を放っていた男は叫び、もう片方の鎧を着ている男は驚きの声を上げる。
うん? この人見た事があるような……?
「な、なんの用だ! あんな化け物に乗っているなんて……!」
「化け物とは失礼なのだわー」
「まぁまぁエルサ、大きくなっていたのを見て驚いているだけだろうから。――えっと、ちょっとそっちの人……もう少しよく顔を見せてもらえませんか?」
「リクさん、やっぱり……」
「……っ!」
化け物と言われて、頭上で憤慨するエルサのモフモフを撫でて落ち着かせつつ、驚いてすぐ俺から顔を逸らした方の人へ声をかける。
兜もしているから、よく顔が見えないんだけど……どう見ても見覚えのある鎧を着ているんだよね。
具体的には、ヴェンツェルさん達の連れてきた兵士さん達と同じような……それに、金属鎧には珍しい青い鎧って時点でね……。
モニカさんの方も気付いたのか、握っていた槍を構えて警戒体制から戦闘態勢に移った。
「あっ、おい!」
「いいから逃げるぞ! 追っ手だ! こいつらはまずい!」
「なんだって!? くそっ!」
「あら?」
「そりゃ逃げるわよねぇ……エルサちゃんにもう一度乗せてもらって、追いかける?」
「いや、それには及ばないよ。……結界!」
「なっ! ぐあ!」
「あ、ぐっ!」
鎧を着ている方に声をかけたら、すぐさま体ごとそっぽを向いて馬の方向を変える。
もう一人の男が驚いて声をかけるのに、馬を走らせ始めながら叫ぶ鎧の男。
あれよといううちに、二人は馬を反対へ向けて走らせ始めた……追っ手とか言っていたし、やっぱりあの二人……鎧を着ていた方で当たりだったようだね。
逃げたのを見て、槍の構えを解いて聞いて来るモニカさんに、左手を振って大丈夫と示しつつ、右手をかざして馬の進行方向に結界を発動。
見えない壁に阻まれた馬は、結界に勢いよく激突して弾かれ、乗っていた男達はそのまま放り出された。
あ、魔法を売っていた方の人が、頭から落ちちゃった……ピクピクしているから死んではいないようだけど、気絶したみたいだね……まぁ、無力化する手間が省けたと思えばいいか。
あと、馬の方は何も罪はないのに、ちょっとかわいそうな事をしてしまったので、怪我とかしていたら後で治癒魔法をかけてあげようと思う。
「結構無茶をするわね。まぁ、逃がさないようにするには最適なのかしら? 自由に張れる見えない結界って、便利ねぇ」
「そうなんだよねぇ……」
「本来は、敵の攻撃を防いだりするイメージで私は使っているのだわ。リクのような変な使い方はしないのだわ」
結界を盾のようなイメージで使っているなら、エルサの言う通りなんだけど……見えない壁だったり、完全に隔絶するものと考えると、便利な使い道が多くて、最近じゃこれにばっかり頼っている気がする。
使っていて悪い事が起きるわけじゃないから、使い慣れているのもあって失敗しない魔法として便利に使わせてもらっておこうと思う。
「……鎧を着ているだけあって、馬から落ちても無事なようだね。気を付けて……」
「わかっているわ」
馬から放り出されても、鎧を着ている人の方は勢いよく地面に体を打ち付けても、気を失ったり怪我をする事はなかったようで、すぐに立ち上がって話しながら近付いて来る俺達に向かって、腰に下げていた剣を抜いて構えていた。
一応、油断しないようモニカさんに促しつつ、その男の方へと近付く。
移動しながら、探査魔法も使って調べてみたけど……やっぱり鎧の男が地下施設で魔力を注ぎ込んでいたので間違いがなさそうだと判断。
周囲にいる人が多かったり、魔力が充満している地下施設じゃ判別できなかったけど、見渡す限り俺達以外がいない場所でなら、詳しく調べられる……あ、遠くから知っている魔力と複数の人間が近付いてきているね……これはヴェンツェルさん達だろう。
「えっと、貴方があの地下施設で、オーガに魔力を注ぎ込んでいる……でいいんだよね?」
「……」
距離数メートルくらいで近付くのを止め、問いかけてみる。
鎧の男は、何も答えず剣をこちらに向けたままだ……というか、どうして魔法を使ったりしないんだろう?
いや、使って欲しいわけじゃないけど、ツヴァイのように魔力を可視化させて威圧するわけでもなし……探知魔法ではそれくらいの魔力量がある反応なはずなのに。
まぁ、向こうには向こうの考えがあるから、何かを狙っているのかもしれないけど。
「向こうは何も答える気がないようね。取り押さえる、リクさん?」
「それがいいのかもね。後で話を聞くとして、今はとりあえず捕まえる事の方が先だから。ヴェンツェルさんも近付いてきているし……」
「ヴェンツェルだと!? ちっ……やはりバレていたか……」
こちらの問いかけには答えず、剣を構えたままの男……モニカさんも槍を向けて構えていて、一触即発の雰囲気だ。
この場では何も聞き出せそうにないから、とりあえず捕まえて連行してから、詳しい話を聞いた方が良さそうだね。
そう思いながら、探知魔法の反応でヴェンツェルさんがこちらに近付いてきているのを感じて、名前を出すと、男がようやく反応して声を出した。
やはりも何も、こちらが調べていた途中で馬を使って逃げたらバレるだろうし、俺がここに来ている時点でわかりきっている事だと思うんだけど……まぁ、注意して調べていたから、男は調べられていた事も知らないんだろう。
あと、ヴェンツェルさんがこちらへ着実に近付いて来ているのは、飛んでいたエルサの巨体を遠目に見ていたからだろう。
途中で方向を変えたから、ヴェンツェルさん達が明後日の方向へ行ってしまった場合、呼び戻しに行かないといけなかっただろうから、手間が省けて助かった……っと、それよりまずは目の前の男だ。
「とりあえず、捕まえて連行させてもらうよ。どうしてその鎧を着ているのかも、聞きたいからね?」
「ちっ……」
男が来ている鎧は、ヴェンツェルさん達が連れて来た兵士さんの鎧と同じなんだけど、その色は青。
つまり、本来新兵さんが持っているはずの鎧を着ている……地下施設で、俺の後ろにいた時とは違う鎧だ。
青い鎧は、俺が取ってきたワイバーンの素材を使った鎧のはずで、新兵さんから奪って身に着けたのか、はたまた盗んだのか……どちらにせよ、後でヴェンツェルさんやマルクスさんに確認が必要だね。
ワイバーンの素材を使った鎧、新兵さんの生存確率を上げるために姉さんにお願いしていたのに……まったく――。
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