第725話 ツヴァイを脅すために再召喚
「じゃあ……あーえっと……どうします?」
「このままでは、会話は不可能ですので……リク様、申し訳ありませんが、何かツヴァイを脅せるような方法はありませんか? なければ、我々でなんとかします」
「ツヴァイを脅す方法ですか……あまり直接的な事はしたくないんですけど……」
「ふむ、でしたら我々がなんとかしましょう。――おい!」
「「「はっ!」」」
声が出せるようにして、いきなり魔法が使われたらたまったものじゃないから、どうするべきかマルクスさんへと問いかける。
答えはツヴァイを脅す方法があればという事らしいけど……うーん、魔法を使わないように脅す方法と言われてもねぇ……ここまでやっておいてなんだけど、あまり無抵抗な人をいたぶるのは趣味じゃない。
どうしたものかと考えていると、マルクスさんが諦めて部屋にいる他の兵士さん達に声をかけた。
その声で、三人の兵士さんがそれぞれ剣を抜き、ツヴァイへと突き付ける……というより、ほとんどくっつけている状態だ。
「これで、もし魔法を使おうとしても、その前に対処する事ができます。――声を出せるようにするが、下手な事をすると……わかっているな?」
「……!」
兵士さんの剣は、ツヴァイの背中とお腹に切っ先を当て、さらに喉元にも剣をくっつけられている状態だ。
あと少し力を込めれば、突き込んだり斬ったりできる状況……下手な事をする以前に、自分で動くだけでも刺さってしまいそうだなぁ。
ツヴァイは、さすがに今の状況がわかるのか、低い声で脅すマルクスさんに絶望したような表情をさせている……って、毒を仕込んで自決する事も厭わないのに、剣で脅されるのは怖いんだな。
この方法が正しいやり方なのかはわからないけど、あれだけ強力な魔法を使う相手にはこれくらいしないといけないのかもしれない……って、脅すという意味なら、こっちの方がいいかも? 剣を突きつけられた状態の相手と話すのは、あんまりね。
「ちょっと待って下さい、マルクスさん。いい方法を思いつきました。すみません、剣を下げてもらえますか?」
「そうなのですか? わかりました」
「「「はっ!」」」
剣を突きつけた状態のツヴァイに、着けていた消音の魔法具を外そうと手を伸ばすマルクスさんを止め、別の方法を提案。
俺の言葉を聞いて、マルクスさんが引くと同時に、兵士さん達も剣を離して収めてくれた。
ふぅ……魔法を使わないように脅すっていうのはわかるんだけど、ちょっと俺の精神衛生上よくなさそうだったからね。
さて、ツヴァイに効果的な脅しをするには……っと。
「ウィルオ……じゃなかった、フレイムスピリット!」
「チチー!」
「……召喚、魔法……ですか?」
「……!!」
ツヴァイの全身を炎で包み、失神させたフレイちゃんを呼び出す事にした。
イメージはもちろん、昨日呼び出した時の姿を思い浮かべ、ウィルオウィスプではなくフレイムスピリットと明確に魔法名を変えた。
ちゃんとフレイちゃんの姿をイメージしていたり、魔法名を変えた影響なのか、昨日召喚した時よりもあっさりと俺の魔力を媒介に虚空から姿を見せたフレイちゃん。
マルクスさんを始め、兵士さん達はフレイちゃんを見た事がないから、驚いていたけど……まぁ、説明する時間ももったいないから仕方ない。
ちなみにツヴァイの方は、昨日炎に覆われた恐怖を思い出したのか、傍から見ていてもはっきりわかるくらい全身を震わせ、剣を突き付けられた時以上に絶望的な表情をしている。
目から涙がこぼれているように見えるけど、剣と違って突き刺したりしないし、誤って殺したりもしないからこちらの方が優しい脅し方だと思う、うん。
「えっと、ごめんね、またすぐ呼び出して」
「チチ、チチー!」
「ははは、ありがとう」
また呼ぶとは約束したけど、昨日の今日で呼び出した事をフレイちゃんに謝る。
フレイちゃんだって、何か用があったり生活が……うん? 炎の精霊にそんなものがあるのかな?
まぁいいや、フレイちゃんは首を振って呼んでくれて嬉しいから、気にしないで! と言ってくれた。
「それじゃ、フレイちゃんは俺の隣に……マルクスさん、そんなに離れなくても、フレイちゃんは勝手に何かを燃やしたりしないので、大丈夫ですよ?」
「チチ、チチチ」
「そ、そうなのですか? しかし……いえ、リク様がそういうのですから、信じましょう」
「フレイちゃんは炎の精霊らしいですけど、昨日もツヴァイを炎で包んでも、燃やし過ぎたりせずに気を失わせる程度にしてくれましたからね」
「炎の精霊……召喚……今まで生きていて、一番驚いたかもしれません。いえ、リク様なのですから、ある意味納得ではありますが……」
フレイちゃんは俺の横に移動してもらい、召喚してすぐ警戒したのか驚きからか、距離を取ったマルクスさんに安心するように伝えて、こちらへ来てもらう。
何も、部屋の端まで兵士さん達と一緒に行かなくてもいいと思うんだけどなぁ……まぁ、フレイちゃんの髪の毛とか燃え盛っているようにも見えるから、恐いのかもしれないけど。
俺にとっては、自分が苦手な手加減をしてくれるうえ、懐いてくれている可愛い相手に思えるのに。
「さて、それじゃあ……ツヴァイ、だったね。これから声が出るようにするけど、もし何かしようとしてたら、またフレイちゃんに言って炎で包んでもらうから。わかった? まぁ、もし魔法を使っても、透明な壁でお前を包んで、内部であの魔法が炸裂して自滅する事になると思うけど……」
「チチ!」
「……! ……!」
フレイちゃんやマルクスさんと一緒に、ツヴァイへと近付いて警告。
もし何かしようとしたら、結界を発動できるように準備だけはしておいて……あ、結界で壁を作るので、兵士さん達はあまり動かないで下さいね。
なんて、指示を出しつつマルクスさんを真似て、少し低めの声を出しながら言うと、横でフレイちゃんが軽く髪の毛を燃え上がらせるようにして声を出す。
俺の意図を汲んで、一緒に脅してくれているようだ。
その様子を目を剥くようにして見たツヴァイは、コクコクと涙だけでなく鼻水まで出して、従う姿勢を示した。
……もう少し、脅すような喋り方をしたかったけど、慣れないから仕方ないしツヴァイの方も大丈夫そうだからいいか。
というか、脅しという意味なら、魔法を使った場合には結界で覆って内部で炸裂させて、自滅するよう仕向けるだけでいい事に、話しながら気付いたけど……もうフレイちゃんも呼んでしまったし、気にしない方向で。
結界は透明で目に見えないし、フレイちゃんの方がわかりやすくてツヴァイも従ってくれそうだから、これで良かったと思っておこう。
「それじゃ、マルクスさん。お願いします」
「はい。……ほら、外したぞ?」
「……な、何が目的だ……ですか?」
マルクスさんにお願いして、魔法具を取り外してもらう。
初めて見る物だから、俺が外そうとして壊しちゃいけないからね……魔法具って、髪に隠すように着けられていたり、顎の下とかにも着いていたんだね……外すのをお願いして良かった。
ツヴァイの至る所に取り付けられていた魔法具をマルクスさんが取り外すと、涙や鼻水を出している顔のまま、恐る恐る問いかけてくる。
よほどフレイちゃんが怖いのか、チラチラとそちらに視線を向けている。
さて、俺の目的と言われても、国や街、人へ被害を出さないようにする事だから……聞く事はあまり多くない――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます