第721話 やっぱり女性陣ばかりだと肩身が狭い



「……あまり言いたくないですけど、そういう事になりますね。ただ、王都からついて来たのか、それともこちらに来てから紛れ込んだのかはわかりません。数人いたのでその中の誰かという事になりますが……最悪の場合は、その隊全員が……という事も考えられます」

「まさか、そのような事があるとはな……」

「一度王都へ戻って報告した時に、ブハギムノングで紛れ込んでいた人物がいる……と言ったと思いますが、人が多くなればなるほど、紛れ込みやすいと考えています」


 軍なのだから、厳しく管理されてはいるんだろうけど、だから絶対安心と過信する事は危ないと思う。

 相手がどんな組織なのかはまだわからないながら、どこかに紛れ込んだり誰かを騙したり……という事が得意なら、軍だろうとなんだろうと、入り込む事ができるんじゃないかと思う。

 少し考えただけでも、バルテルが暴れた時や魔物が襲って来た時などに隠れてコッソリ紛れ込み、やられてしまった兵士さんの中で、家族のいない人とすり替わって……なんて方法だってあるわけだ。

 まぁ、顔でバレたりする可能性もあるから、この方法ができるかどうかまでは、俺にはわからないけども……ちょっと考えただけだからね。


「むぅ……さすがに私も、新兵含めて全ての兵士を覚えているわけではないからな。ハーロルトならわかるかもしれないが、さすがにあいつも顔まで覚えているわけでもあるまい」

「人数が多ければ多い程、そういう事が容易になる想います。ましてや、ヴェンツェルさんはトップですからね……下の兵士さんを全て覚えている余裕もないでしょう」

「まぁ、小隊長くらいだろうな、部下を覚えていられるのは。中隊長以上になれば、数が多過ぎて名前くらいは覚えられても、顔まではな……」


 それこそ、一度見たら忘れない……なんていう能力があれば別だけど、そんな能力を持つ人物がそこらにいるわけもない。

 そして、今回は新兵さんも含めて多くの兵士さんを連れて来ているのだから、紛れ込むのもやりやすかったのかもしれない……途中で入り込んだとしても、ね。


「ヴェンツェルさん」

「あぁ、わかっている。直接問いただす……のは愚策か。言い逃れできる状況だからな。マルクスと相談して、怪しい物がいないか探る」

「はい、お願いします。自分の部下を疑うようになって、申し訳ありませんけど……」

「なに、リク殿が申し訳なく思う必要はない。これは、そんな者を見抜けなかった我々に落ち度があるのだからな」


 味方だった人を疑う、というのはかなり苦しいものだ。

 信頼していたのに裏切られた……という気持ちもあるし、味方の中に確実にいるとわかれば疑心暗鬼にだってなってしまう。

 フィリーナの魔法の話から、かなり遠回りして結論を出す事になったけど、多分俺自身が味方と思っていた兵士さんの中に、敵側の人物がいるとは思いたくないとか、無意識のうちに避けようとしていたのもあるんだろうな……はぁ……。

 心の中で溜め息を吐きつつ、重苦しい雰囲気になってしまったため、まだ食べ終わっていなかった食事が美味しく感じられない……モニカさんごめんなさい、でも残さずちゃんと食べるから。

 そんな中でも、エルサだけは暢気にキューを頬張っていたのが救いかな……モフモフで癒されたい――。



「あの時は助かった、フィネ殿。いざという時には、エルサが助けてくれたのだと思うが、あまり頼りきりなのもいけないからな」

「そうね、私も助かったわ。こちらにもオーガが突進して来ていたから、障害物を使って避けるので精一杯で……」

「いえ、冒険者のみならず、ああいう状況ではお互い助け合うのが当然です。お気になさらず。それにお二人共、本当にCランクかと思う戦いぶりでしたよ? オーガそのものはランクの高い魔物ではありませんが、武装した人間もいましたし、戦いにくい屋内で怪我もなく戦っていたんですから」

「まぁ、そこはフィネ殿の援護や、全体を把握しているフィリーナからの指示があったからだがな」

「私は、魔力が見えて動きや何をしようとしているのか、なんとなくわかったからね。むしろその役で良かったわ、オーガが襲い掛かって来るのをどうにかまでは、私にはできないから。誰かが止めてくれて、後ろから魔法を使うくらいしかできないもの」

「あと、エアラハールさんから随分鍛えらたからね。あの人、普段はだらしなく見えるのに……」


 マルクスさんにさっきの内容を伝えるため、ヴェンツェルさんが俺達から離れて行った後、焚き火を囲んで談笑する女子たち。

 フィリーナがオーガを止められないというのは、初めて会った時に追いかけられていたのを見ているから納得……魔法を使って戦うから、準備をする前に肉薄されたら不利だろうし、力比べでは勝てないだろうからね。

 エルサがお腹いっぱいになって仰向けに寝ているので、そのお腹を撫でてモフモフに癒されている俺と違い、女性陣はさっきの話からすぐに気持ちを切り替えて、お互いに地下で行われた戦闘の感想会のようになっている。

 こういう時、すぐに気持ちを切り替えられるのが女性のいい所なのかもしれない……なんて考えるのは偏見なのかな? まぁ、話している内容は戦闘に関してだから物騒なんだけども。


「三人は、ランク上昇の申請はしないのですか? 私から見ても、Bランク相当の腕前はありそうですけど」

「私は、そもそも冒険者じゃないのよ。だから、そういったランクとは無縁ね」

「フィリーナはそうよね。まぁエルフだからって冒険者になれないわけじゃないけど、そもそも人間と交流が少なかったみたいだし」

「それに、私やモニカはなぁ……近くに自分がまだまだ及ばないと、思わされる男がいるからな……」

「あぁ、フィリーナさんは冒険者じゃなかったのですね。皆さんと一緒なので、てっきり……でも、確かにソフィーさんの気持ちはわかるかもしれません。近くにとんでもない人がいると、思いあがれませんよね。私は、コルネリウス様がいるので、逆に自分も同じようになってはいけないと思わさされるのですけど……」

「ん? どうかした?」


 フィネさんが言っている、コルネリウスさんに関しては反面教師と言うようなものだろうと思う。

 まぁ、キマイラに特攻なんて無茶な事をするような人が近くにいたら、そう考えるのも無理はないかもしれないね。

 それはともかく、フィネさんを始めとした女性陣全員が俺を見て、なんとなく溜め息を吐くような雰囲気……今の話の流れで、どうしてこちらを見ているんだろう?


「はぁ……これだもの。自覚が乏しいのも考え物よね。でも、最初の頃よりは大分よくなったかもしれないわね」

「そうだな。私が初めて会った時……は、まだだったが、その後あった時は、皆これくらいできてもおかしくないんじゃ? みたいな顔をよくしていたからな。自分が特別な力を持っているとは思わなかったようだ」

「私に会ったときは、まだそんな感じだったわよね。まぁ、そこがリクの長所でもあるんだけど……全てエルサ様と契約しているおかげ、なんて考えてたみたいだし」

「はははは……まぁでも、コルネリウス様のようになるよりは、いいんじゃないでしょうか?」

「「「そこは同意する!」」」



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