第706話 研究者の男性の主張は嘘か本当か



「だったら、なぜ外にオーガを出していた? それもオーガのみだ。本当に人間を襲わないようにしたのだとしても、それは管理されてしかるべきはずだろう。まだ証明されていないはずなのだからな!」

「そ、それは……周囲に魔物が確認されたため、オーガを向かわせて実験の結果を見るためと聞いていたんだ。私達も、いたずらにオーガの命を奪って爆発させるわけにはいかず、魔物にぶつけて効果を発揮するかという成果が欲しかったので、渡りに船だったのだ……」


 まぁ、地下室だし、ガラス製の試験管やら何やらがあるから、屋内で爆発させるわけにはいかないよね。

 爆発の威力が高いために、物が散乱するだけでは済まないだろうし、ましてやこの人達が結界を使えるわけじゃないから。


「ほぉ? つまり、お前達は誰かに言われて、オーガを外に出した……と言い張るわけだな? 研究成果を得るために……」

「そ、そうだ! 私達はあくまで指示に従っているだけ! 研究成果に関しては焦っていたのもあったのは確かだが……それにしたって、人間に害を及ぼすつもりはなかった!」

「だが、その成果を得るために、人間への被害が必要だったのではないか? 魔物を使って国内を混乱に陥れるなどの計画もしていた可能性もあるな……」

「そんな計画は断じてしていない! 私達は、人間を……この国を豊かに、そして強国とするために研究をという、崇高な目的があるのだ!!」


 うーん……そりゃ、魔物を味方に付けて利用できるなら、国は強くなるのかもしれないけど……それって武力がという意味だよね?

 豊かにとは繋がらないと思うんだけど……とりあえず、ヴェンツェルさんに向かって叫び続けている男性は、俺が見る限りでは嘘を言っているようには見えない。

 まぁ、周囲の研究者達が怯えている様子を見せ続け、一人だけ顔を真っ赤にして叫んでいるという状況からだけどね。

 とはいえ、絶対嘘じゃないとの証明はできないし、俺がそう感じたというだけで庇う理由にもならない。


 ……待てよ……さっき指示に従っているとか、人間に害をもたらさず、国を強くするためと叫んでいたのが本音なら……もしかしたら、この人は騙されているのかも?

 指示をされているという事は、この人よりも上の立場の人物がいるわけだし、その人が騙して研究させている、という可能性はないかな?


「魔物を利用して強国にする事なぞ、陛下は望んでおらん! 民が豊かに暮らすための施策を常に考えておられる方だ、オーガを研究して利用し、危険な方法を使って国を発展させるなぞ、言語道断だ!」

「女王陛下を騙るとは……賊がよく言う。私達は、陛下より国を強力にするため、尽力しているのだ! これは、国が認めた研究なのだぞ!? 近く戦争を仕掛けるため、勝つ国を作るための研究を仰せつかったのだ! そして、強国となった暁には、富み、豊かな暮らしができるだろうと考えておられるのだ!」

「陛下が……だと? リク殿?」

「うーん……ねぇ……いや、陛下がそんな事を考えているとは、思えませんよね……」

「だな。あの陛下だぞ? 民が豊かな暮らしをするには、まず食べる物、そして治安を保ち、何者かに脅かされない生活をさせる事だと考えているお方だ。他国へ侵略行為をするような方ではないし、考えてもいないはずなのだが……」

「まぁ、その辺りはヴェンツェルさんの方が詳しいんでしょうけど、俺も、そんな事を考えたりしないと思いますよ」


 ヴェンツェルさんが陛下と言った途端、さらに激しく反応する男性。

 ふとヴェンツェルさんと顔を見合わせて、お互い首を傾げてしまった。

 姉さんが他国に何かを仕掛けたり、兵士さん達の事は考えていても、魔物を利用したりなんて考えたりするはずがない。

 そうだとしたら、俺にもっと別のお願いをしていただろうし、ハウス栽培に対して大きな興味や推進をしようなどとは思わないだろう。


 というより、日本にいた頃やこちらで再会した時に話した様子から、以前とあまり変わりがないように見えるし、どこかへ侵略なんて欠片も考えてないんじゃないだろうか?

 うーん……さっきから叫んでいる男性と姉さん、どちらを信じると聞かれたら間違いなく姉さんだし……さっきまで男性に対して、嘘を言わずに本音を話していると感じていたのは勘違いだったんだろうな。

 やっぱり、俺には人を見抜く目はなさそうだね……。


「はぁ……正直これ以上話す必要はなさそうに思えてきたが、どうするリク殿?」

「まぁ、ヴェンツェルさんは陛下の命令でここに来てますからね。本当に陛下があの人に命じていたなら、今回の突入はありませんでしたし……嘘を言っているのは明白です。この場で本当の事を話さないようなら、さっさと捕まえて、調べた方がいいと思います」

「そうだな。陛下からの命令だとしたら、この場所へ来る命令すら出す事はなかっただろう。というより、私が知らない時点で嘘なのは間違いないからな」

「な、なにを言っているのだ! わ、私は……私達は本当に陛下の命令で、研究をしているのだ! 私達を捕まえるのは、反逆罪になるぞ!?」


 溜め息を吐くヴェンツェルさんに、これ以上話を聞こうとしても無駄だろうと伝え、捕まえるために一歩踏み出したら、焦った男性が言い訳がましく叫ぶ。

 俺やヴェンツェルさんが、姉さんから頼まれてここに来ているという事を知らないからなんだろうけど、姉さんの……女王陛下からの命令だと言えば、怯むと思っているんだろうか?

 ……思っているんだろうなぁ……この国の最高権力者だし、本当に反逆でもするつもりがなければ、下手に手出しをしようと思わないか。

 なんにせよ、直接本人から頼まれている俺達と違って、嘘を吐いている男性の方が本当の意味で反逆罪になるだろう事は明白で……さっさと捕まえるかな。


「反逆罪とは聞き捨てならんが……お前達にそれを証明する物はあるのか? まさか直接命令を賜ったというわけではあるまい? 私は、お前達のような人間を、王城で見た事はないからな。陛下ならば、自身の命令であるとの証明をするため、印の入った書簡なりなんなりを持たせるはずだが?」

「直接ではないが……確かに、陛下から直々に賜った書簡がある! 嘘ではないぞ! それにそもそも、何故お前が私達を王城で見た事がないのだとわかるのだ! 賊のくせに、王城に入った事があるとでも言うのか!?」

「……書簡がある……だと? リク殿、どうする?」

「どうすると言われても……今この場で確かめられるのならともかく、確かめられないのなら、とりあえず捕まえておくしかないでしょう」

「だそうだが……その証明は今すぐにできるか?」

「……証明できる書簡があるのは間違いない。だが、それはこの上……地上の部屋に置いてある。陛下から賜った物であるから、大事に保管するとな……」

「ふむ……それが本当かどうか、確かめるには少々時間がかかるか……」


 書簡、本当にあるとしたら地上の家の方か……今から戻って探すにしても、この場をどうするか考える必要がある。

 手っ取り早いのは、捕まえた後書簡の在り処を聞いて本当にあるかどうか、立ち合わせながら確認する事かな……やっぱり、捕まえるのが一番早そうだ――。



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