第705話 奥の部屋へ突入



「ぬぅん! さて、中はどうなっている……?」

「ヴェンツェルさん、ちょっと勢いが強すぎませんか?」

「何を言っている。こういう時は勢いよく行った方が相手を威圧できるし、効果的だぞ?」


 突入した地下室の制圧はフィリーナやソフィー達に任せる事にして、部屋を調べるために木の扉を蹴破るヴェンツェルさん。

 鉄の扉と違っても、それなりに頑丈そうな木を使っていたようなのに、いとも簡単に壊してしまった。

 まぁ、筋骨隆々なヴェンツェルさんのする事だから、特に不思議には思わないけど、もう少し穏便に済ませる事はできなかったのか……扉の前でヴェンツェルさんに蹴破るのがいいかな? と言ったのは俺だけども。


「な、なんなのだお前達は! いきなり襲撃してきて……私達が何かしたというのか!?」

「何なのだと言われてもなぁ……何かしたというのなら、お前達が研究していた事そのものが悪いと言わざるを得ないが……?」

「目的は知りませんけどね。――危険な魔物を作って、国の人達に被害を持たすかもしれないので、未然に防ぐため、ですかね?」

「ぐっ……しかし、だからと言っていきなり襲撃してくる理由には……」


 入った部屋の中は、それなりの広さがあり、蹴破った扉の反対側に十人程度の研究者風の白衣を纏った人間が固まっていた。

 そのうちの一人が、突入してきた俺やヴェンツェルさんに向かって叫ぶ。

 冷静に返す俺達と違って、向こうはいきなりの事でやっぱり混乱しているようで、激しく動揺しているのが見て取れる。


「貴様らぁ!」

「おっと……はっ!」

「むぅ、扉がなくなったから、後ろから入ってくるのは対応が面倒だな……」

「蹴破って吹き飛ばしたのはヴェンツェルさんですけどね……それなら……結界! これで、誰も入手って来れません」

「おぉ、さすがだな。便利な物だなぁ。――お前達、見れば……わからないか。ともかく、出入り口は塞いだぞ? 俺達の隙を窺っている者もいるようだが、扉がなくなってもこの場所は通れない……ほら?」

「なっ!!」


 部屋の中にいる人達と話していたのに、後ろから武装した人が入って来ようとしていたので、とりあえず蹴り飛ばしておいた。

 問答無用で襲い掛かったのは俺達だけど、向こうも問答無用で襲い掛かって来るんだから、遠慮はいらないよね。

 とはいえ、ヴェンツェルさんも言っているように、話している途中で乱入されるのは面倒なので結界を使って何もなくなった、元々扉のあった場所を塞いでおく。

 中にいる人達は結界の事を知らないし、透明なために見てもわからないので、ヴェンツェルさんが簡単に逃げられないと告げ、少し体をずらして叫んでいた人に見せる。

 俺達を追いかけてきたオーガが結界に遮られて体をぶつけ、入って来られない様子が良く見えた。


「何者も入って来られないという事は、こちらからも出られないという事だ。もちろん、解除すれば出られるが……それはこちらの意思次第。つまりお前達では逃げる事はできないのだ」

「くっ……なぜこんな事をする! 私達は人知れず研究をしていただけなのに!」

「お前達がしていた研究は、ある程度知っている。魔物を使って、特殊な効果を与え、大きな被害をだすためだろう?」

「私は……私達は被害を出そうなどとは……魔物を使う事で魔物に向かわせ、人間が楽になるようにと……」


 研究者の男性が言っている事が本気なのかどうかはわからないけど、爆発するオーガを魔物にぶつければ、魔物同士で争って人間が……冒険者が討伐をしなくても良くなる事もあるだろう。

 それこそ、魔物の数を減らして街や村に被害が出る可能性だって減らせるはずだ。

 まぁ、本当に魔物に対して向けるつもりなら、だけどね。


「何を言っている! お前達がここで作った魔物は、外で実際に人間を襲っていたのだ! 人間を楽にするどころか、被害を出そうとしていたではないか!」


 ヴェンツェルさんが言っているのは、多分アメリさんの事だろうね。

 俺が助けなかったら、アメリさんはおそらくオーガに追いつかれて今頃……他に誰かが助けに入って、オーガを倒して助けられるかも、なんて希望的観測はしない。

 事実、あの時に周囲には他の人間はいなかったし、馬も限界が近かったようなので、そう遠くへは逃げられなかっただろうからね。

 それにもし人間がいても、戦えるかどうかはわからないし、戦えたとしてもオーガ二体でさらに威力の高い爆発をする……何かしらの被害が出るのは必然のように思える。


「人間をだって!? しかし私達はオーガが無差別に人間を襲うようにはしていないはず……」

「私達には、襲い掛かってもいいのか?」

「それは……お前達が急に押し入って来たからだ! オーガだって急な事態となれば、人間を襲う事だってある!」

「人間を襲うようにしていないのに、急な事態だからと襲うのか。それは矛盾していないか? 研究者としておかしな抗弁だと思うぞ?」

「……」


 ヴェンツェルさんが話しているので、余計な口出しはしないように黙って聞いているけど、確かに矛盾しているように感じた。

 安全性というのは保障される物であるから信頼できる……ような気がする。

 だから、いきなり突入して襲い掛かったのは俺達ではあるけど、それでもオーガが躊躇する事なく襲い掛かって来ているのは、何かがあれば人間を襲うという証明に他ならない。

 知性があまり高くないから、人のように状況を判断して行動する事はできないため、本能に刻まれた行動だと思う。


 最低限、俺達が襲ってきたからそれに対抗したという理由が成り立ったとしても、何もしていないアメリさんを追いかけていた説明にはならないはずだ。

 アメリさんは攻撃しようという意思はなく、ただ川で水を補給していた際に目撃しただけで、追いかけられていたのだから。

 というかヴェンツェルさん、書類仕事は苦手でやりたがらないのに、こういったやり取りができるのはちょっと驚いた。

 軍のトップになれるくらいだから、武力だけでなく頭が悪いなんて事はないのはわかってはいたけど……もう少しハーロルトさんに協力してあげようよ……と思うのは、今は余計かもしれない。


「それにだな……魔物の研究という事そのものが、国によって禁止されている。禁忌事項なのだぞ!? 魔物の性質を理解するための研究ならば、国や冒険者ギルドによって管理されている! それを、魔物の復元をし、本来なかった性質を加えてしまうなど、罰せられるのは当然だろう!」

「く、国に禁止されているのは……知っている……。だが、我々はあくまでも人間のためをと考えて……」


 え、そうだったの? まぁ、魔物の研究をするのは危険な事だろうし、命をもてあそぶ事にも繋がってしまう可能性があるから、禁忌とされるのも理解できる。

 事実、核へと魔力を与えて復元させるというのは、命を吹き込む行為と言えるだろうし、自然に起こった事ならまだしも人為的に引き起こすのはまずいだろう。

 さらに、そこに研究成果として爆発するなんて危険な性質を与えて……魔物が相手だから忌避感は薄いのかもしれないけど、十分人体実験に近い行為だ――。



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