第698話 建物内部へ侵入
「えーと、モニカさんとソフィー、フィネさんは一緒に突入だね。俺が先頭に立つから、その後ろがいいかな。ヴェンツェルさんも同様に」
「えぇ、わかったわ」
「あぁ、リクが先頭だと一人で全て終わらせてしまいそうだが、それでいいだろう」
「はい、了解しました」
「まぁ、本来なら他の兵士を先頭に立たせるが、オーガに対して有効な防御ができるのがリクだからなぁ」
いつどこでオーガと戦闘になるかわからないため、結界を張って爆発の衝撃を防ぐ事ができる俺が、先頭になるのは当然の事だね。
エルサもできるけど、そちらはもしもの際に備えておいてもらいたいというのもある、今は暢気にモニカさんに抱かれているけど。
「リク、私はどうするの? 一応、木々があるから周辺を探る事くらいはできるけど……」
「フィリーナは、俺達と一緒に突入だね。地下に広がっている研究施設は、探知魔法を使って探った限りだと結構な広さがあるから、それを調べるためにね。後詰めの兵士さんと一緒にお願いするよ」
「わかったわ。後方からなら魔法の支援もできるけど……まぁ、リクにそんな事が必要だとは思えないわね。私は研究施設がどんなものか、見極めるのに務めるわ」
フィリーナはエルフだから、森という程密集していなくとも、木々があればそこから情報を収集できる。
俺の探知魔法程の精度はないみたいだけど、探索部隊と一緒に組む事もできる。
でも、俺達やヴェンツェルさんだと研究施設に関して、何が重要かをわからない事も考えられるから、一緒に突入してもらうようにした……人間を捕まえるだけならまだしも、研究成果の隠蔽をされたり調べるために壊されてはいけない物があった際に、助言をくれるだろうとの期待もある。
「では、リク様……御武運を」
「マルクスさんも、外での指揮よろしくお願いします。それじゃ皆、念のため俺の後ろで、少しだけ息を止めて……スリープクラウド……」
マルクスさんが敬礼するのを見て、皆に少し下がるように言いながらイメージを固定、眠りを促す霧を発生させる。
建物へと向けた手の平から霧が発生し、ゆっくりと広がりを見せながら内部へと入って行く……風が強くなかったから、操作も楽でいいね。
魔法で俺の意思を反映して操作ができるけど、霧だから空気の動きに影響されやすいのは当然の事で、屋内でもないから風が強かったら建物に入る以外にも周辺に広がってしまうから。
そのために、発見されない事も含めて囲んでいる兵士さん達には、少し距離を多くとってもらっているんだけど……これはラッキーだったかな? と思っていると何やら後ろから魔力を感じて、そちらをちらりと見れば、フィリーナが魔法を使っていた。
「ありがとう、フィリーナ。おかけで少し楽ができたよ」
「私にできる事はこれくらいだから。霧の魔法を使うというのは聞いていたし、多少はね。さすがに思うように操るとまではいかないから、屋内に入ったら役に立たないわよ?」
「うん、それでも助かったよ」
フィリーナは風の魔法が得意らしく、よく風の刃を放つ魔法を使っていた。
その応用なのか、別の魔法なのかはわからないけど、どうやら風がほとんどないのはフィリーナのおかげだったという事だ。
特に攻撃性はないけど、空気の流れをゆっくりにしたり止める魔法……ってとこかな? 完全には止まっていないから、風が吹いて霧が思わぬ方向へ広がらないようにするのが精一杯のようだけど。
それでも、霧の操作が楽にできて味方への影響はなし、予定通りに建物へ全ての霧を送り込むことができた。
これなら、エルサをモニカさんが抱いていなくても大丈夫だったかも? 今度からフィリーナがいる時に使う事があれば補助してもらおう、なんて考えつつ、霧が建物内部に入り込んで効果を発揮するのを待つ。
「……そろそろ大丈夫かな。よし、皆行こう」
「えぇ」
「あぁ」
「はい」
「うむ」
しばしの間目を閉じて待ち、霧の影響で地上部分にいる人間が眠りにつくのを待った。
とはいえ、待ち過ぎると地下にいる人達が異変に気付いてしまうので、程々に……大体、一分程度待って皆に声をかけて建物へ向かって駆けだす。
後ろからモニカさん達の返事が聞こえ、ヴェンツェルさんや兵士さん達も動き始めた。
一応、念のため大きな足音を立てないように気を付けながら、建物の入り口に接近。
「オーガがいるとわかっているから、特に違和感は感じないけど……オーガの事を考えなかったら、大きな出入り口だね」
「そうね。通常の建物なら、もっと狭い出入り口になるはずよ。間違いなくオーガが出入りするためよね」
「私はこの建物のような出入り口の方が、使いやすいと思うが……まぁ、人間はそれを考えて体を動かせるからな」
「オーガに、出入り口の大きさを考えて行動をさせる、というのは難しいだろうからな。場合によっては、破壊をしながら通る可能性すらある」
建物の出入り口の前で、中の気配を探って動きがない事を確認しながら、入り口を見上げる。
オーガが並んで出入りする事も考えられているのか、縦横三メートルくらいで、小さめの資材搬入口にも見えた。
観音開きになる扉が設えられており、オーガが通る際には大きく開け放たれるだろう事が簡単に想像できた。
「……中で誰かが動く気配はしないな。さすがに、奥まで全てがわかるわけではないが……」
「はい、俺もそう感じます。探知魔法を使っても、動いている人間はいないですし、地上階にオーガはいません」
「では……?」
「えぇ。行きましょう……」
ヴェンツェルさんと顔を見合わせて頷き合った後、扉をそっと開ける……勢いでなだれ込むような突入じゃないので、寝ていると思われる内部の人間を起こさないようにそっと、片方の扉を動かすだけだ。
「……大丈夫そうです」
少しだけ隙間を空けた入り口を覗き込み、誰もいない事を確認して皆に声をかける。
出入り口付近に誰もいない事は、探知魔法で確認しているけど、目視でもちゃんと確認しないとね……あと、ないとは思うけど罠とかがないかの確認も必要だ。
魔法の仕掛けだったら探知魔法でわかるだろうけど、そうじゃない仕掛けだった場合は、直接確認しないとわからないから。
「……一人……二人……しっかり寝ていますね」
「あぁ。よし、拘束しておけ」
「はっ」
小声で話し、建物内で倒れて寝ている人間を確認し、兵士さんに拘束をしてもらう。
起こすわけにもいかないし、悠長に尋問している時間もないから、拘束して外へ運び出してもらう。
建物の中は、広めの家と言える配置で、出入り口とそこに続く廊下が広い事以外はなんの変哲もない家だった。
入ってすぐの左右に、小さめの部屋がありそこでそれぞれ一人ずつ、武装した人間が寝ていたのが運び出されるのを見送る。
その後に軽く部屋の中を確認したけど、家具などはなく椅子がある以外は不自然な点はなかった……いや、木がはめ込まれた窓と壁にいくつかののぞき穴のような物があり、外を監視するようになっているみたいだから、見張り部屋なんだろう。
出入口左右にある見張り部屋を確認後、ゆっくりと建物の奥へと移動を開始する――。
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