第693話 食材の買い出し



「さすが、マックスさんとマリーさんの娘だね」

「お店をやっているわけじゃないけど、父さん達の料理を食べているお客さんをよく見ていたからね……」

「それじゃ、俺はヴェンツェルさんに伝えてルジナウムに行くよ。ありがとう、モニカさんに相談して良かった」

「え、えぇ。役に立てたのなら良かったわ……」


 感謝を伝えるため、ニコッと笑ってお礼を伝えると、照れたのかそっぽを向くモニカさん……頬が少し赤くなっているような?

 まぁ、疑問はともかく、今はさっさと行動した方がいいだろうから、その場を離れて兵士さん達へ指示をしているヴェンツェルさんのところに向かう。

 エルサに大きくなってもらう必要があるし、この場を離れる事をちゃんと伝えておかないとね――。



「フランクさん、失礼します」

「ハーゼンクレーヴァ子爵、お久しぶりですな。リク殿のパレードを行った時以来ですかな?」

「おぉリク様、ようこそ。ヴェンツェル殿も、お久しぶりでございます。……どうしてこちらに? 今は怪しい施設を調べるために行動しているのでは?」

「その途中なんですけどね……えっと……」


 相変わらず冒険者ギルドで、忙しく調査やら街への指示やらをしているフランクさんを訪ねて、用件を伝える。

 今回は、ヴェンツェルさん以下数名の部下と、ソフィーが一緒だ……大勢で押し掛けるのは躊躇われたので、フランクさんのいる部屋へ来たのは俺とヴェンツェルさんだけで、他の人達は外で待機してくれ散るけど。

 ……ソフィーも一緒で良かったんだけど、貴族の人と会うと緊張だとかで息が詰まるから、なんて言っていた。

 王城では、エフライムや姉さんとは普通に話しているのになぁ……慣れない貴族相手だからなのかもしれないけど。


「畏まりました。それくらいの事でしたら、今すぐ用意させましょう。とはいえ、量が量なので少々かかってしまいますが……」

「それは構いません。あ、買う食材分のお金は払うので、かかった費用は教えて下さいね?」

「いえいえそんな。それくらいの事は私にさせて下さい。リク様にはお世話になっているのですから、このくらいの事……」

「いえいえ、こういう事は大事ですからね。ちゃんと支払いますよ……」

「いえいえそんなそんな……」


 お互い、費用の負担に関していえいえそんなを繰り返す……どこの値段交渉をする商人だ、と思わなくもないけど、お互いの主張は自分が払う事に関してなのだから、珍しい光景なのかもしれない。

 あとでこっそりヴェンツェルさんが教えてくれたけど、貴族はこういう時に自分で費用を支払う事で、相手に恩を売って自分を有利にする……という処世術のようなものがあるのだから、本来はこちらが遠慮するべき、なんて教えられた。

 貴族って色々あるんだなぁ……とは思っても、面倒だから貴族のルールみたいなものはスルーする。

 引かない俺達を見かねたヴェンツェルさんが、軍の兵士達に関する事なので、軍部の予算として払うと言い出し、結局三等分にして負担するという事で決着がついた。


 誰か一人が多く負担するではなく、誰かに恩を売るわけでもない無難な決着だったね……俺が言い出した事だから、自腹で良かったんだけどなぁ。

 ちなみに、ヴェンツェルさんが王城へ戻ったらハーロルトさんを含めて、軍の予算管理をしている部署へ認めさせると意気込んでいたけど……大丈夫かちょっと心配。

 認められなかったら、最悪自腹になってしまうようだから、もしもの際は口添えをするくらいはしようと思う……俺の口添えが役に立つのかはわからないけど。

 ヴェンツェルさんの分も俺が払うと言っても、一度言い出した事だから受け取ってくれないだろうなぁ、そういうところはマックスさんの友人なだけあって、意地っ張りというか、男気があるからね。



「リク様、ヴェンツェル殿、食料の方が揃いました。量が量なので、このギルドの外に集めて置いてありますが……街の外まで運んだ方がよろしいでしょうか?」

「いえ、運ぶための人も一緒に来ているので、大丈夫ですよ」

「そうですな。連れてきた者に運ばせます。お気遣いだけ、ありがたく……」


 しばらくの間、お茶を用意してもらってヴェンツェルさん達と雑談をしている途中、中座したフランクさんが部屋に戻ってくると、食料の準備が整った事を教えてくれた。

 集める準備や指示をしていたんだろうね。

 俺達が街の外に行ってから、エルサに乗って移動している事を知っているので、わざわざそこまで運んでくれると言ってくれたんだけど、それは丁重に辞退しておく……連れてきた人達もいるから、そこまで面倒をかけなくても大丈夫だ。

 とにかく、食料のお礼を言いながらヴェンツェルさんと費用を払っておく。


「確かに、受け取りました。いささか量が多かったため、備蓄の食料も運び出しましたが……リク様のおかげで魔物の襲撃の際、備蓄が減るのも少なったので、本当に費用はこちらで見ても良かったのですが……」

「いえ、急なお願いでしたし、こういう事はちゃんとしておかないといけませんからね。気持ちだけありがたく受け取っておきますよ。それじゃ、ありがとうございました……」

「あ、リク様……その……こんな事をお願いするのは申し訳ないのですが……」

「うん? どうかしましたか?」


 魔物が襲撃してきた時は、我ながら無茶を通して頑張ったので、被害がほとんどなかっただけでなく、先頭が長引いた際に消費される分の備蓄食料も、ほぼ残ったままになっていたようだ。

 とはいえ、急にお願いしたのに迅速に用意してくれたりと、お世話になったので費用負担はしっかりしないとと考えている。

 ヴェンツェルさんやフランクさんとで分け合っているから、負担額自体は少ないし、報奨金やら何やらを受け取ったばかりだからね。

 費用を支払い、フランクさんにお礼を言って部屋を出ようとする俺を、フランクさんが少し申し訳なさそうに呼び止めた。


「迷惑かと思うのですが、もしよろしければ私の配下で冒険者でもある、フィネを連れて行ってやって欲しいのです。――入っていいぞ」

「フィネさんをですか?」

「ほぉ、フランク殿の配下に、冒険者がいるのですか」

「失礼します。子爵様、参りました。――リク様と、ヴェンツェル将軍様ですね。お初にお目にかかります。フランク・ハーゼンクレーヴァ子爵様配下、フィネと申します」


 フランクさんが許可を出し、部屋へと入って来るフィネさん……最近は全身鎧を着ている事が多かったけど、今は初めてコルネリウスさんと会った時のように、冒険者風の軽装で、皮の鎧を着て身軽になっている……背中に二本の斧を背負っているのは相変わらずだ。

 そういえば、信号機の冒険者パーティのうち、アンリさんも大きな斧を持っていたなぁ……フィネさんのは手斧と呼ばれる、投げても使える物で、あっちと比べたらかなり小さいけども。

 なんだろう、女性冒険者の間で斧を武器にするのが流行っていたりするのかな? 振る事ができれば、非力な人でも斧そのものの重さで攻撃できる利点はあると思うけど、それはあくまで、振れたらで非力な女性には不向きな気がするんだけど……いや、女性が必ずしも非力と思っちゃ失礼だな、鉱夫さんの中にも女性がいたからね――。



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