第676話 冒険者ギルドへ寄り道



 線を追いながら、フォルガットさんの言葉を受けて考える。

 見えにくくしたり仕掛けの用意までして、これだけ隠そうとしているのだから、何かしらの意図が感じられる。

 一応、罠とかがあるかもしれないと考え、周囲の警戒を怠らないようにしながら、フォルガットさんと一緒に線を追って街の端を歩いた。

 ……街中でもあるから、罠があれば怪しまれて隠している意味もなくなるだろうから、ないとは思うんだけど、一応ね。



「うーん、これ以上は追う事は難しそうだな」

「そうですね。線を追うだけなら、注意深く見ていれば大丈夫でしょうけど……まさか街の外どころか、その先まで伸びているとは……」


 しばらくの間、ゆっくりと周囲を警戒しながら地面にある細い線を追っていたら、街の外に出てしまった。

 線自体はまだ遠くまで続いているようだし、このまま追っていたら街から離れてしまいそうで、追跡を断念する。

 街から離れるくらいなら大丈夫だけど、何準備してないから日数をかけて調べるのは難しいからね。

 腕を組んで考えているフォルガットさんと話しながら、線が進む先を見ると、街道から外れて木々の中を南に向かっていた……馬や馬車、人が踏んで線がなくなる可能性は低いけど、草木の間にある線を追うとなると、時間がかかってしまいそうだなぁ。

 しっかり調べるには、魔物にも気を付けないといけないから、準備が必要だろう。


「仕方ない、引き返すか。調べるのはまた今度だな。今日は本来、鉱山の中にエクスブロジオンオーガが残っていないかを調べて、仕上げの予定だからな」

「はい。まぁ今のところ危険な様子はないので、大丈夫でしょう」

「そうだな」


 線を追う事をやめ、フォルガットさんと街へと引き返す。

 途中、ちょっと思いついた事があったので、冒険者ギルドへ寄り道をする。


「リク様! 冒険者ギルドへようこそ!! おじいちゃ……ギルドマスター、リク様がいらっしゃいました!」

「アルテさん、こんにちわ」

「……アルテ、もう少し落ち着きなさい」

「私はこれでも落ち着いていますよ!」

「「「……」」」


 冒険者ギルドでは、以前と同じように受付に座っていたアルテさんが、大きな声で迎えてくれて、すぐにベルンタさんを呼んでくれる。

 奥から出てきたベルンタさんは、溜め息を吐きながら注意しているが……落ち着いていると主張するアルテさんは、どう見ても興奮している様子なのがバレバレで、俺だけでなくベルンタさんや一緒に来ていたフォルガットさんも、生暖かい目でそれを見ていた。

 ……だって、大きめでモフモフした尻尾だけじゃなく、小さな耳もピクピクと忙しなく動いているからなぁ……わかりやすい。


「んんっ! アルテの事は放っておいて、今日はどうしたんじゃ?」

「放っておくなんてひどいですよー!」

「……えぇと、ちょっと頼みたい事というか、ギルドへの依頼をお願いしたくて」

「Aランクの冒険者がギルドに? むしろギルドから依頼を受ける側じゃろうに……」

「まぁ、そうなんですけど……ちょっと手が足らなくて」


 アルテさんの事を無視して話を進めるベルンタさんに、冒険者ギルドへの依頼として、さっきまで追っていた線の事を伝える。

 その線がどこまで続いているのかを調べて欲しい、という事だね。

 俺が見て調べるのでもいいんだけど、ヴェンツェルさんと合流しなきゃいけないから、日数に余裕がない……本格的に追い始めたら、数日は確実にかかってしまいそうだから。


「ふむ……鉱山に不審な仕掛け、そこから続く線……か。じゃがのう……」

「何か、気にかかる事でもあるんですか?」


 俺から説明を受けたベルンタさんは、難しい表情で考え込む。

 依頼をするにあたって、何か問題があるんだろうか?


「……例の話があったじゃろ? ほれ、今回の魔物発生の元凶というかの……」

「もしかしたら、依頼を受けた冒険者にも紛れ込んでいるかも……と?」

「俺もそれは考えられると思うぞ。冒険者全てというわけじゃないが、紛れ込むとしたら、一番やりやすいからなぁ」

「そうじゃ。それを調べるにも、この街にいる冒険者は数人程度……それも低ランクじゃからの。紛れ込むどころか、街の外から来た者ばかりで全員が関係者でもおかしくないのう」

「それなんですけどね……」


 冒険者は誰でもはれるわけじゃないけど、犯罪歴がない事の証明と試験さえ通ればなれてしまう関係上、モリーツさん達の関係者かどうかわかりづらい。

 けど、それをあぶりだすという意味もあって、今回ベルンタさんにお願いしようと考えた……人手が足らないというか、他にやる事があるから、他の人に頼もうと思ったのもあるんだけどね。

 パッとした思い付きだから、方法を変える必要があるなら、ベルンタさんやフォルガットさんに指摘して欲しいから、あえて考えを全部伝えておく事にする。

 俺一人の考えが、全て正しいわけじゃないからね。


「ふむ……その考えなら、もし依頼を達成できない場合……いや、それどころか隠蔽に動く危険もあるのじゃが、それでもいいのかの?」

「隠蔽は少し困りますけど……達成できないのは構いません。その場合は、また別の人に頼めばいいんですから」

「ベルンタ爺さんは、リクの依頼が今回の事にも関わっていると考えているようだな」

「同じ鉱山で、組合長であるお主すら知らぬ事じゃ、関係があると見ておいた方が良いじゃろ?」

「そりゃぁな……」


 フォルガットさんは、俺と一緒に線を追って調べながら、モリーツさんやイオスとの関係を考えていたようだ。

 まぁ、ベルンタさんの言う通り同じ鉱山での事だし、フォルガットさんが知らない仕掛けなんだから、関係を疑うのは当然だね……俺も、その可能性は考えていたし。

 モリーツさんがいた場所と離れていたからって、関係がないとはっきりしたわけじゃないから。


「しかし、それを冒険者ギルドに依頼するのはどうしてじゃ? 可能性があると思われるなら、衛兵に頼む事もできたはずじゃが……それこそ、ガッケルとも話せるじゃろ?」

「ガッケルさんには、別の事をお願いしていますからね……人が出払ってしまう可能性のある事ですし、ちょっとお願いしづらくて。それに、俺も冒険者なので、ここは同じ冒険者に頼もうと思いました」

「ふむ……」

「ガッケルに頼む……あぁ、あれか。確かに、俺達が世話になる事だからなぁ……爺さんにも、一応話しておくか」


 フォルガットさんが俺に代わり、クォンツァイタの運搬に関して説明してくれる。

 ガッケルさん達衛兵さんが、一回目のクォンツァイタ出荷を請け負ってくれているので、王都と往復する間、衛兵さんの人員が少なくなってしまう。

 さらにそこへ、線を調べるお願いをしてしまうと、この街が手薄になってしまうからね……治安が悪いわけじゃないけど、鉱夫さん同士が酔っ払って……という事もあるだろうし、もしもの事を考えておきたい。

 ……まぁ、そこまで衛兵さんの人手が必要な事はそうそうないだろうけど、念のためにね――。

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