第675話 肩車と合流



「フォルガットさん、すみませんが一度……」

「ん、おぉ、わかった」

「あぁしていたら、親子みたいだったぞ?」

「フォルガットお父さん?」

「お、おい、やめろ! 俺には別に息子がいるんだからな! 不肖の息子で、鉱夫になりたくないと言っているが……まったく……」

「親方の隠し子がリク様だったら、国を揺るがす話題になっていましたね。……親方が奥様に殺されそうですけど」

「……本当に、止めてくれよ?」


 肩車した状態だと話しづらいので、一度下ろしてもらうようにお願いして、地面に下りているとソフィーからからかうように言われる。

 確かに、年齢や体格差を考えると親子のように見えなくもないか……と思って、悪乗りしてフォルガットさんを呼んでみたら、酷く焦った様子になった。

 うーん、息子さんがいたのか……奥さんに怒られないためにも、変な事を言うのは止めておこう。


「それで、リク達はここで何をやっていたんだ?」

「遊んでいたのだわ?」

「遊んでなんていないよ。えっと、ちょっと前に……」


 ズレた話をズレさせたソフィーが戻し、何をやっていたかを説明する。


「それなら、私が見るのだわー」

「そうか、エルサなら飛べるから、無理に肩車なんてしなくても見られるね。頼むよ」

「わかったのだわー」

「……むぅ」


 高い天井にあるはずの、細い線を確かめるために苦労していると説明したら、エルサが請け負ってくれたので、お願いして天井へ飛んでもらう。

 ソフィーが、頭からモフモフが離れた事で残念そうな表情になったが、それはともかくとしてだ。

 誰かを乗せるわけじゃないから、大きくなる必要はないし、飛べて明かりの魔法も使えるから、エルサに頼めば楽ができる。

 しかし、エルサがこういう事を自分からやると言い出すのは珍しいな……もしかしなくても、あくびした時に俺が本当に真面目にやっていたのかと、疑惑の目を向けたから、誤魔化すためなのかもしれない。

 エルサは、契約のおかげで多少なりとも繋がっているから。


「……あったのだわー。あっちに続いているのだわ」


 ふわふわと上昇し、明かりの魔法を使って天井を調べていたエルサが、短い手を伸ばして方向を示してくれる。

 飛べるって、こういう時便利だなぁ。


「ありがとう、エルサ。それじゃ俺達はこのまま、線を追ってみるよ」

「待てリク。私達も一緒に行こう。エルサがいた方がいいだろうし、このまま見回っても、エクスブロジオンオーガと遭遇しそうにないからな。何かありそうなら、そちらを調べるのもいいだろう」

「そう? わかった。それじゃ皆で行こうか」


 エルサにお礼を言って、ソフィー達と別れてまた線を追いかけようと思ったんだけど、ソフィーからの提案で皆一緒に行動する事になった。

 口ぶりから察するに、今日はソフィーの方もエクスブロジオンオーガと遭遇していないみたいだから、もう鉱山にはいない可能性が高いんだろう。

 遭遇したらエルサが結界を使うだろうし、その必要がなかったから、撫でられて寝ていたのかもね。


「リク様、このまま進むと鉱山の出口に行く事になりますが……」

「そうなんですか?」

「あぁ、間違いないな。この道を真っ直ぐ進むと、出口に繋がる道に出る。方向も、外へと向かっているな」

「出口かぁ……エルサ、この方向で間違いないんだよね?」

「間違いないのだわ。線は真っ直ぐ続いているのだわー」


 しばらく皆で進んでいると、ソフィーの案内をしていた女性が道の奥を見ながら出口へ行くと言われ、フォルガットさんにも確認すると、間違いないと頷いた。

 エルサにも確認してみたけど、線は途切れず間違いなく向かっている方向へ続いているとの事だ。

 鉱山の中で、どこかの何かと繋がっているのかと思ったけど、外なのか……?


「外に出たな……」

「そうですね。エルサ、線はどこへ?」

「壁を伝っているのだわ。ここなのだわー」

「ふむ、確かに細い線になっている小さな窪みが続いているな。明るい外で見ても、注意して見ないと見つけられない程だが」


 線を追い、予想通り外に出てフォルガットさんと空を見上げながら、明るい日差しに目を細めながら呟く。

 エルサに聞いて示された場所を見てみると、確かに細くて見えづらいけど、鉱山内で発見した線が壁を伝って伸びている。

 天井を走っていた時とは違って、低くなっているので確認はしやすいけど、ソフィーが言っている通り昼の明るさでも、注意深く見ないと発見できそうにない……岩肌がゴツゴツしているせいもあるだろうけどね。

 俺達は、線がある物と思って見ているからわかるけど、何も知らなければ誰も発見でき印じゃないだろうか?


「……山や街の外周に向かっているのか? リク、どうする?」

「そうですね……高い所には向かっていないようなので、もうエルサに見てもらわなくても大丈夫そうです。エルサ、ありがとう」

「私はただ見てただけなのだわー」

「ははは、それでもだよ。それでえっと……この先は、俺とフォルガットさんでいいかな?」

「そうだな。私達は、また鉱山の中に戻って見回りを続けよう。エクスブロジオンオーガの気配もなさそうで、完全にいなくなったのではと思う程だが、一応な」

「うん、お願いするよ」

「頼んだぞ?」

「はい、親方。安全確保のために頑張ります」


 壁を伝っている線は、立っている俺の目線よりも少し高いくらいで、それ以上高く伸びている様子もないので、エルサに飛んでもらう必要はなくなった。

 お礼を伝えると、恥ずかしいのかソフィーにくっ付いてそっぽを向いてしまったが、なんとなく嬉しそうなのが伝わってくる。

 とりあえず、鉱山の見回りも念のため続ける事にして、線を追う俺とフォルガットさんとは分担するように決まる。

 再び鉱山へと入って行くソフィー達を見送って、続いている線を追って壁沿いに歩き出す……主に俺が線を見て、フォルガットさんが周囲に何か異変がないかを調べる役目になった。

 魔物ならともかく、よく知っているフォルガットさんの方が、異変を見つけやすいだろうからね。


「フォルガットさん、ここから地面に線が……」

「本当だな。しかし……これまで何もなかったが、これは一体なんなんだろうな?」

「まぁ、それを調べるために追っていますからね。……何もない事だってあるかもしれませんが……少なくとも、あぁいった仕掛けをされていたので、何か俺達の知らない事があるのかもしれません」

「そうだな。鉱夫達だと、わざわざあんな仕掛けを作ったりはしないだろうが、何かしらの意図はあるのだろうな。方向を考えると、街の端を沿って外へ向かっているのか?」


 仕掛けがあったのは確かで、俺が触れたら光が走ったのだから、生きた仕掛けだというのは間違いない。

 隠すようにされていた仕掛けを、鉱夫さん達が作るとは思えないし、そもそもなんのためかもわからないような物だから……フォルガットさんが知らないのだから、モリーツさん達と何かの関係があるという事だって考えられる。

 逆に、何もない事だって考えられるけど、それはこういった事を調べるうえである程度覚悟しておかなきゃいけない事だ……エアラハールさんから、調査に徒労は付き物と言われているからね――。


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