第673話 何かの突起を発見
「ありがとうございます。不純物があってもどうなのか調べるのにも、役に立ちそうなので、これも一応貰っておきますね……本当に、お金は払わなくていいんですか?」
「もちろんだ。街の恩人であるリクから、この程度で金なんて取れんよ。不純物が混ざっている物は、そもそもに取引もできないだろうから、リクが必要ないと言えばまた捨て場に行っていた物だ。役に立つ物なのか俺にはわからんが、自由に使ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
フォルガットさんにお礼を言って、クォンツァイタを包み直してありがたく受け取る。
……ちょっと大きいから宿に置いておこう、持ち運んで割れてしまっちゃいけないからね。
その後は、大まかに明日以降のエクスブロジオンオーガを探索する予定を話し、鉱夫組合を出る……なぜか、奥の方から歓声が聞こえた気がするけど、きっと案内してくれた女性が俺の話で盛り上がっているからだろう。
また変に持ち上げて見られるようになったり、しなければいいけど……。
――――――――――――――
「大丈夫ですか、フォルガットさん?」
「なんとかな……結局のところ、鉱山の全体を一番把握しているのは俺だからな。仕上げには丁度いいだろう」
坑道を歩きながら、疲れた表情のフォルガットさんを窺う。
採掘に関してや、クォンツァイタの話し合いで数日ろくに寝ていない様子だから、疲れて当然なんだろうけど、確かに今日はフォルガットさんに協力してもらうのが一番だろう。
クォンツァイタを受け取ってから、二日後、ほぼ見なくなったエクスブロジオンオーガの探索に関して、仕上げとしてフォルガットさんに鉱山内を案内してもらっている。
ソフィーとはまた別行動で、エルサと案内してくれる人と一緒に、あちらは小道や地図にない場所を重点的に調べて、エクスブロジオンオーガが潜んでいないかの確認。
俺とフォルガットさんは、全体を大まかに移動しながらの確認をする役割分担だね。
これでエクスブロジオンオーガが見つからなければ、もう鉱山の中にはいないだろうという判断で、全面的に採掘が再開される予定だ。
もちろん、俺がこの街にいる間は目撃情報があったり、見て回ったりもするつもりだけど、とりあえず調査の依頼は終了として、冒険者ギルドに報告される事になる。
問題なければ、ヴェンツェルさんと合流する予定の日まで、ルジナウムで行われている調査の様子を見ながらのんびり過ごす予定だ。
今日を含めて、三日しかないけど……ヴェンツェルさんが合流する予定の場所へ到着する日は、王都を出発する前に伝えられていたからね、移動や準備によって一日くらい前後するかもしれないらしいけど、向こうが早ければ俺を待っているし、俺の方が早ければこちらが待つ、と約束しておいた。
「さすがに、もう奥にエクスブロジオンオーガが溜まっている事はなさそうだな」
「そうですね。……そういえば、あの場所には何かあるんですか? モリーツさんがいた周辺以外では、あの場所が一番多くいましたけど」
「あぁ、リクから聞いて確認してみたんだがな? 地図を見たらわかるんだが……どうやらあの最奥、一番入り口から遠い場所はモリーツの野郎がいた場所から、直線上にあるんだ。確か、エクスブロジオンオーガに自分を襲わせないようにはできるが、細かい命令はできないんだろ?」
「大まかには命令していましたが、あれも、自分達を襲わない状態で、その場所に俺達がいたからかもしれません。でもまぁ、どこそこに行って何々をしろ……なんて命令はできないように見えました」
エクスブロジオンオーガ自体に、物を持って攻撃という知能はあっても、命令を判断して実行するとまではできそうにないからね。
単純に、本能で自分達以外の種族を見たら襲い掛かる、といった風だったから……予想では、物を持って振り回すくらいの知能があるからこそ、モリーツさん自身を襲わせないようにもできたのかもしれない。
もっと本能的な……マギアプソプションとかだと、その判断もできないんじゃないだろうか?
だからこそ、ある意味オーガという種族は研究をするうえで扱いやすかったのかもね。
「なら、おそらくが……エクスブロジオンオーガにはただ、突き進めとか、そういった簡単な命令しかしていなかったんじゃないか?」
「直線上という事は、それでひたすら突き進んだ結果という事ですか……」
「あぁ。とはいえ、真っ直ぐに道が伸びているわけじゃないからな。他の場所にいたエクスブロジオンオーガは、道を間違えていたのかもしれん。単なる想像だがな」
「いえ、確証はありませんけど、近い予想な気がします……だから、直線上にある場所以外では、発見する事が少なかったんでしょう」
他の場所でもエクスブロジオンオーガがいるにはいたけど、多くても三、四体がせいぜいだった。
最奥やモリーツさんの研究場付近だと十体以上いる事が多かったのに、だ。
だからこそ、奥まで行ってしまったエクスブロジオンオーガが固まってしまい、細かい判断ができる知能を持っていないからこそ、詰まって身動きが取れなくなっていたのかも。
その分、考えて行動をするのができない代わりに、鉱山内でどういった風に散らばっているのかを予想するのが難しいんだけど……迷子のエクスブロジオンオーガとか、何も考えず適当に動かれたら、捜索も難しいよね。
「ん? なんだこれは……?」
「どうかしましたか、フォルガットさん?」
最奥に、エクスブロジオンオーガが大量に固まっていた理由の予想に納得しつつ、しばらく無言で歩いていると、急に立ち止まったフォルガットさんが呟きながら、壁を見つめる。
そこに何かあったんだろうか……? 俺から見ると、なんの変哲もないただの壁なんだけど。
「いや……確か、ここは特に何もない道が続いているだけなんだが……これは隠されているのか? ほら、ここを見てみろ」
「えーと……?」
フォルガットさんに示されて、壁をじっくりと見てみると、補強してある木材の傍に拳よりも小さなサイズの突起があった。
その突起は壁と同じ色で、さらに照明と照明の中間……つまり一番薄暗くて見えづらい箇所だ。
「言われて見たら、何かありますね」
「だろう? 何かの目印かとも思ったんだが、それだとこんなに見えにくくする必要はない。しかも、この場所は小道に別れる事もない、一本道だからな……」
「目印を付ける必要もない……怪しいですね?」
「あぁ……」
今いる道に迷い込んだ……という事はあっても、この道を通っている途中に迷う事はないほど、長めの一本道だ。
薄暗くてあまり遠くまで見れないとはいえ、見渡す限り前に進むか後ろに戻るかしかない道で、目印を付ける必要はないだろう。
もし、ここで何か新しく採掘を始めるための目印なら、もっと目立つ方法で付けるだろうし、それをフォルガットさんが知らないはずはないうえ、迷わないための目印も同様。
自然にできたものなら壁の色に塗ってあるわけないし、他の壁のような岩だったりもしないから、誰かが何かの目的で取り付けた物にしか見えなかった――。
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