第636話 リクが間に合った理由



「赤い毛というと、レッドリザードか。それは戦闘跡地で倒されているのを確認している。そいつを見間違えたとかなら、説明がつくんだが……キュクロップスの目と、見間違えるわけはないだろうしな?」

「はい。あの時赤かったのは、キュクロップスの目で間違いありません」


 魔物に接近した時、赤く光る何かというのはなかった。

 戦闘に夢中で気付かなかった……という事はない、と思いたい。

 いくら俺がモニカさんの言うように鈍感だったとしても、集団でそれぞれの魔物が赤くなっている部分があれば気付くだろうからね。

 それに、戦い始める前までは冷静だったと思うし、何かあればエルサが気付いていた可能性も高い。


 ちなみにレッドリザードというのは、赤い毛を持つリザードマンのような魔物だ。

 二足歩行の爬虫類のような見た目であるリザードマンに対し、レッドリザードはトカゲっぽく四足歩行で地を這っていて、その体表は獣のような赤い体毛で覆われている。

 火の魔法を扱う魔物なのに、そんな体毛に覆われていて大丈夫なのかと思わなくもないけど、なぜか燃えないらしい……離れた場所からチクチクと火の矢を飛ばして来た元凶だね。

 成長し、巨大化するとサラマンダーというキマイラと同等の、Aランクの魔物になると言われている事から、サラマンダーの幼体という扱いらしい。


 そして、四足歩行であるのと、体調が一メートル程度しかない小型なので、大きなキュクロップスの目にある高さとは離れ過ぎていて、見間違えることはないだろう。

 そもそも、赤いだけで毛が光ったりしない……戦闘中に、魔法を使う瞬間まで見ていたけど、ただ赤いだけだった。

 魔法の火で光ったように見える、とかなら多少はありそうだけど、遠くまで見える程の強い火の魔法を使えないはずだからね。


「何か、他に予兆のようなものは?」

「いえ、ありませんでした。というより、それが街へ向かい始める予兆だったのではないかと……」

「そうですか……これに関しても、調査する必要がありますな。ですが……さすがにもう魔物がいないので……」

「詳しくわかるかは、わからないかもしれないですね……」


 モニカさんが首を振って、それまでには何もなかったと否定。

 魔物達が街へ向かうための予兆が、その赤く光る目だったんだろうね。

 赤く光ってから街へ向かう……か……ん? ちょっと待てよ?


「えっと、モニカさん」

「どうしたのリクさん?」


 ちょっと気になった事があって、隣のモニカさんに視線を向けて問いかける。


「その……目が赤く光るまでは、街へは向かって来ていなかったんだよね?」

「そうね……調査をするのだから、遠くからでも注意深く見ていたわ。けど、それまではそんな様子はなく、ただ森の近くで集まっているだけだったわ。急に街へ魔物が向いたの。その時に、キュクロップスの目が光っているように見えたわ」

「んー……そうなんだね……」

「リク様、どうかされましたか?」

「何か、気付いた事でもあるのか、リク?」


 もう一度モニカさんに確認して、腕を組んで考える。

 フランクさんやノイッシュさんが、訝し気に俺を見ていた。

 目を赤く光らせたのは、街へ向かうため……というより、それが合図のようなものだと考えると……。

 そして、俺がこの街に急いで来た事を考えたら……つまり。


「えっと、俺がこの街に急いで来たのは、知っていると思います」

「そうですな」

「そうだな」

「そうね。……そういえば、どうしてリクさんは急にこの街へ来たの? 予定では、数日開けて様子を見るってなっていたはずだけど……?」

「それなんだけど、実は鉱山の方でね……」


 モニカさんやフランクさん達に、ブハギムノングの鉱山で起こった事を話す。

 鉱夫さん達が使っている地図に描かれていない場所、そこに繋がる穴があり、それを使って行った場所。

 モリーツさんの事や、口封じに来た男の事なども話しておいた。


「あの鉱山では、そのような事が……」

「魔物の核か……それ自体は、冒険者ギルドの方でも把握している。魔法具を作るための素材としても使えるな。だが……そこから魔物を作り出す、いや、正確には復元か。そんな事ができるのか……?」

「復元するところは見ていませんが、確かにエクスブロジオンオーガは、本来の緑から赤みがかった肌になっていましたし、爆発の威力が高いのもいました」

「そして、そのモリーツさんを口封じしに来た男がいた……と」

「うん。問題はその後でね? モリーツさんは、その男にやられてしまったんだけど、新しく来た男を捕まえようとしたんだ。まぁ、ソフィーやエルサと協力して、エクスブロジオンオーガを倒したんだけど……その時に、その男が言ったんだ。繋げている魔力が途切れるとルジナウム付近の魔物達が暴走するだろう……って」

「「……」」


 黒装束の男が話していた事も説明すると、フランクさんやノイッシュさんが難しい顔をして考え込む。


「そんな事、できるのかしら……?」

「まぁ、できるかどうかはわからないんだけど……それでも、急いでルジナウムの街に来てみたら、実際に魔物が襲い掛かろうとしていたところだったし、そもそも魔物を集めたりする方法がわからないからね。できると考えた方がいいのかもしれない……」

「……それで、リク様はあの時、丁度この街へ来られたのですな?」

「はい。魔物達が集まっているのは知っていましたから、もしそれが街へ向かったら大変だろうと……気絶させた男をソフィーに任せて、エルサに乗ってここまで来ました」

「てっきり、リクさんが何かの魔法を使って、この街の危機を知ったから、急いで来たのかと思っていたわ」

「さすがにそんな事、できないよ……」

「リク様なら……と考えてしまいますが、そのような理由が」

「リク様、その男はそれから?」

「いえ、急いでここに向かったので、そこから先は……あ、ソフィーに任せっぱなしになってた。二日も寝てたみたいだし、大丈夫かなぁ?」

「まぁ……ソフィーならちゃんとしてくれているんじゃない? とりあえず、その男を引っ張って街に戻っているでしょ」


 魔物を倒す事に集中していたのはまだしも、長く寝ていたせいでブハギムノングの方を忘れてた……。

 ソフィーなら、モニカさんの言う通り黒装束の男を連れて、鉱山を出てくれていると思うし、大丈夫だとは思うけど……怒ってないか心配だ。

 通って来た穴は凍らせてしまっていたし……一人だから、気を失った男を引っ張るのも大変だっただろう。

 ……ベルンタさんには教えておいたから、大丈夫かな? 時間がなくて、あまり詳しくは話せなかったけど。


「ふむ……ブハギムノングの街へは、避難する者達に先んじて伝令を送っております。避難民を受け入れてもらうためですが……リク様が魔物を倒して下さったので、後続でルジナウムの街が無事だとの報せも同様に。これらの報せが届けば、向こうである程度騒ぎになるでしょうから、こちらの状況もわかってくれるかもしれませんな」



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