第633話 フランクさんとノイッシュさんからのお礼



「……参ったなぁ」

「ふふ、リクさんにとっては、よくある事じゃない?」


 冒険者ギルドに付き、案内された先は以前にもフランクさんと話した部屋。

 声をかけながら中に入ると、両手を大きく広げるオーバーリアクションのフランクさんと、満面の笑みでお礼を言うノイッシュさんの二人に歓迎された。

 歓迎されるのはいいんだけど、二人共俺の事を様付けで呼んでいるのはいかがなものか……俺よりも役職だったり身分だったりが上なはずなのになぁ。

 あ、でもノイッシュさんからは元々、英雄様と呼ばれていたっけ……揶揄するようなニュアンスがあったのは確かだけど、今はそれがなく名前で呼ばれるのは悪くないね。


 ともかく、いい年した大人がまだ若い俺に様を付ける姿を見て、苦笑するしかできない。

 隣では見慣れた光景に、モニカさんがクスクス笑っていた。

 うんまぁ、確かに俺も慣れて来てはいるんだけどね……適当に名前を呼ぶくらいでいいのになぁ。


「リク様、まずは私から言わせて下さい。私だけでなく、街の者達、そしてこの街そのものを守って頂き、ありがとうございます。領地を治める者として、そして王国民の一人として感謝しております」

「俺からもだな。冒険者として、正しい行いだと思うが……街を守れたのは、リク様がいたおかげだ。他の冒険者だと、こうはいかなかっただろう。良くても犠牲者多数、悪ければ全滅……今回は悪い方にしかならなかっただろうしな。感謝する!」

「あー、いえ。まぁ……頑張り、ました? でいいのかな……?」

「リクさんって、結構お礼を言われるのに弱いわよね」


 とりあえず、俺に様を付けるかどうかというのが流され、今はテーブルについてフランクさんやノイッシュさんと向かい合って座っている。

 フランクさんからお礼を言われ、続いてノイッシュさんだ。

 確かに今回の魔物襲撃は、悪い方……それこそ全滅と言うのがあり得たから、感謝されるのはわかるんだけど、それでもなんとなく気恥ずかしいというか、どう応えていいのかわらなくなってしまう。

 面と向かってお礼を言われた時って、どうしたらいいんだろう? 横柄にしたりってのも、違うだろうしなぁ。


 隣にいるモニカさんが、戸惑う俺を見てクスクス笑っているのが、さらに気恥ずかしさを感じさせる。

 もう少し、こういう場での立ち振る舞い方を、勉強する必要があるのかもしれない。

 ……姉さんとかに聞けば、わかるかな?


「あ、そういえば。後ろにいるのはフィネさん達……ですよね? 西門では見かけませんでしたが……」

「はい。――コルネリウス、フィネ」

「……か、感謝する」

「はっ。この度は、リク様のご活躍のおかげで、こうして無事何事もなくここに立たせて頂いております。この目で見られなかったのは残念ですが、さすがは英雄と呼ばれる方だと、実感しております」

「あー……いえ……あはははは……」

「申し訳ありません、リク様。こら、コルネリウス! もう少しまともな態度はできないのか!」

「まぁまぁ、いいんですよ。気にしていませんから」


 このままお礼を言われ続けても……と思って、話を逸らすためにフランクさんの後ろで立っている、二人に事を聞いた。

 以前と同じく全身鎧で顔も見えないため、はっきりと誰かわからないけど、フィネさん達だと感じた。

 まぁ、背丈とかでなんとなくだけど……。

 俺が二人に話を振ったのが、フランクさんからは二人からもお礼をと受け取ってしまったのか、フィネさん達の名を呼んで頭を下げさせる。


 コルネリウスさんは素っ気なく、フィネさんは丁寧に頭を下げてくれたけど……そういう事を期待してじゃなかったんだけどなぁ。

 素っ気ないコルネリウスさんは、フランクさんに怒られていたけどとりあえず、落ち着いてもらう。

 元々お礼を言われたかったわけじゃないからね、コルネリウスさんはとばっちりだ。


「二人は、魔物と戦う役目ではなく、避難する者達の護衛をさせていました。なので、あの時西門にはいなかったのです」

「あぁ、成る程。そうですよね、避難する人達にも護衛は必要ですよね」

「えぇ。本当なら、少しでも魔物と戦う戦力を削りたくはなかったのですが……リク様が来られるまで、状況は絶望的でした。なので、若い者を選抜して護衛に当たらせました」

「それは、こちらでもそうだな。有望な若い冒険者には、依頼として避難する者達の護衛に向かわせた。……将来のある若い者達より、俺のような老兵が前に出て食い止める方が、いいからな」

「その中でも若いリク様が、魔物達を倒してしまったと……もう少し、若い者たちの可能性を信じた方が良かったのでしょうね……」

「いや、あれで良かったんじゃないですかい? はっきり言って、リク様達は別格……他の若い奴らと比べるのも、かわいそうってもんだ」

「それは、確かにそうですなぁ……」


 フィネさん達を始め、若くて戦える人達は将来のためと、避難する人達の護衛をさせていたらしい。

 絶望的な戦況で、魔物を食い止める役目よりは生存確率が高いのは間違いない。

 避難する中で魔物に襲われる事はあるだろうけど、キマイラやキュクロップスを含む集団と戦う事はないだろうからね。

 壊滅する事が予想される中で、俺に逃げてくれと言ってくれたフランクさんの言う事だから、信じられる。


 とはいえ、見た感じ四十代くらいに見えるフランクさんが老兵と言うのは、エアラハールさんが聞いたら怒りそうだ。

 あちらは七十代以上にも見える、正真正銘の老兵だからね……って、これも怒らそうだから、考えるだけにしておこう。

 ノイッシュさんも、ユノと口喧嘩をしたりと頭に血が上りやすい人ではあるかもしれないけど、決して悪い人じゃない。

 ちゃんと、今とこれからの事を考えている人のようだね……ユノのように見た目が子供でも、喧嘩に発展したのは、それだけ年齢や見た目で対応を変えたりはせず、裏表なく対等に接しているからなんだろう。

 ……というのは、ちょっと美化しすぎか。


「ま、まぁ若者の可能性は置いておいて……今日はどのような用件だったんでしょうか?」


 俺に対する称賛やらで、用件に関して話が進まないので、強引ながら話を戻す。

 一応、お礼を言う事が目的の一つのようだけど、あれだけの事があったのに、それだけで終わったりはしないだろうからね。

 ヘルサルの代官、クラウスさんだったらありそうだけど……あっちは秘書のトニさんが止めてくれるか。


「おぉ、そうでしたな。用件の方は二つあります。まずは今回活躍された、リク様に対しての褒賞ですな」

「そっちは、冒険者ギルドからも報酬が出るぞ。倒した魔物達の討伐報酬と、特別依頼報酬だな。あとは、リク様が許可するのであれば、倒した魔物達の素材買い取りだ」

「褒賞は……いらないって言っても、聞かないんでしょうねぇ……。でも、特別依頼ってなんですか? 特に受けた覚えはないですし、討伐報酬はわかりますけど……」

「もちろん、褒賞を出さなければ貴族としてどころか、街や領地の運営として不信感にも繋がりますからな。皆、リク様に感謝していますので、是非受け取ってください。当然、私の私情込みで上乗せさせて頂きますよ」


 いや、そこは私情を挟まず正当な褒賞か、示しがつく程度でいいんですけど……フランクさんなりの冗談なんだろう、目が笑っているしね――。



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